友人宅の友人の選択
…消えたくないのなら、まだ手はあるさ
…そのための手筈なら、整えてやるよ?
こけし
(マダ、ココニイラレル?)
囁きかける邪魅。
今正に消えかけている存在に対して、なんと甘い言葉か。
目目連
(いけません!わたくしが見続けます!観測出来る限り存在します!それではいけないのですか!?)
白沢
(……消えるそのときを、最悪、変質のときを観測する羽目になりますよ)
座敷童子
(じゃあ、どうしろっていうのよ!)
家鳴
(なんだよ!)
(僕らの……)
(ともだちなのに……)
すねこすり
(ダメだよ、消えないで、頑張ってよ……)
勝手な願いだ。わかっている。好ましくないからやめろ、でも諦めるな、どうにかしろ、そう言えるのか?
ーー
邪魅の含み笑いが、少しずつ大きくなりはじめる。
こけし
(サナエチャ、ズット、イッシヨ?)
…あぁ、ずっと一緒だとも
…彼女の不安に棲みついてやればね
勝ち誇る邪魅。
(サナエチャ……)
黙り込むこけし。
長い沈黙のあと、ふと気が付いたように、ポツリと呟きがこぼれた。
(……アンシン、ジャナキャ)
そして、自分で言った言葉に勇気づけられたのか、小さいながらも迷わない声が続いた。
(サナエチャ、ノヘヤ。アンシン、ジャナキャ)
(ボク、サナエチャ、ノミカタ)
(ミンナト、イッショ!)
薄い意識の中、それでもこけしは自らの望む答えを掴んだ。
邪魅の差し伸べた手を、誘いを跳ねのけた。
ーー
…っ!?なぜだ?…生み出しておいて、希望を見せておいて………そんな奴らに……なぜ!?
白沢は驚きに息を飲んだ。邪魅の動揺、そして何よりこけしの決断に。
応えてやらねば……
一度目を閉じ、白沢は決心した。
(……わかりました。あとはお任せなさい)
(……そして誇りなさい。)
(あなたはこの部屋を、そして早苗を立派に守ったのです。)
(あなたこそ、本当の意味での家族です)
感嘆の溜め息の後、白沢は目を見開き強く蹄を鳴らした。
部屋を覆っていた邪魅の気配が震える。
白沢の目が、部屋に蔓延る邪魅を見据える。
(わからないでもない……ですが、我々は影なのです)
しかし邪魅とてただ退散はしない。
…それなら無理にでも…堕としてやろう…
じわじわと這い寄る邪魅の影。
額を汗でじっとりと濡らしながらも、白沢は再び蹄を踏み鳴らした。
暗がりが祓われ、冷気がちぎれる。
(邪魅……今は去りなさい)
続けて三度、蹄の音が部屋に響きわたる。
(彼は、既に決めている。決してあなたの言うような存在にはならない)
…この手を取れば残れるというのに…消え去ることを選ぶのか…
邪魅は白沢に追い払われ、陰鬱な気配は完全に消え去った。
ーー
白沢が息を整える。
部屋はいつも通りの空気を取り返し、
そして、こけしは定着の手段を失った。
ーー
「ただいま」
その日も、部屋に帰った水上はいつものようにこけしに話しかけた。
(サナエ……チャ……)
柔らかな手つきで、優しく拭われる感触にこけしは満足する。
「今日はお仕事大変でした。そういえば先輩が……」
早苗の声を聞きながら、こけしの意識はゆっくりと沈んでいく。
(タノシカッタ……マタ……ネ……)
そのまま、水上の手の中でこけしはひっそりとただのこけしに戻った。
もう動かない。話したりもしない。
水上は不思議に思う。なぜか、手の中のこけしが軽くなった気がして。




