表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第一部 一人暮らしと憑き物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/30

一人暮らしのちょっといい日

終業時間。


色々あったけど、今日もなんとか乗り切った。

だけどまだまだ、やるべき仕事は沢山あるぞ!

気合を入れてデスクに座り直していると、部長が顔を出した。


「みんないつもありがとう。今日は残業なしで、早く帰ろう」


ざわ、と空気が揺れる。部長は、なぜか背後を気にしている。


壁に開く無数の目。

目目連が静かに視線を送っている。


会議室のガラスに、一瞬だけ白い影。

白沢が囁く。

(部下の働きに救われたのでしょう。それなら、相応のお返しが必要ですよね? 部長さん?)


部長は小さく咳払いをした。

「ほんと、今日はありがとう」


わたしは首をかしげる。

……急にどうしたんだろう。


ーー


結局、みんな今日は残業なしということになった。

久々の定時あがり。会社を出て仕事モードが抜けて、つい良からぬ考えが頭に浮かぶ。

これは?ラーメン行っちゃう?ちょっと遠回りして気になってたお店はしごしちゃう?


ウキウキ歩いていると、足元でふわっと何かが跳ねた。


足首にまとわりつくすねこすり。

(お仕事終わり? やった!座敷童子にも言っとかなきゃ!)


しばらくするとポケットでスマホが震える。開いてみるとゲーム運営からの通知。

"本日ゲーム内イベント開催決定!!開始まで、あと1時間!!夕飯はデパ地下グルメで自宅パーティーがオススメです!"


「なんですって!」

絶対参加する。そうと決まれば方向転換。デパ地下でちょっと贅沢なお惣菜を買い込む。

満足。

そのまま直帰。


ーー


自宅


玄関を開けると、キッチンから足音が鳴る。


(せっかくの定時上がりなのよ!ラーメン巡りなんてダメ!!)

座敷童子が腕を組んでいる。


(おとりのメールが効いた)

家鳴が得意気。


(お手柄なのよ。でも今日は材料がないから、お惣菜で勘弁してもらいましょ)


佐伯がシャワーを浴びている間に、座敷童がくるくると働き出す。

キッチンの電子レンジは静かに回り、テーブルにはデパ地下グルメの品々が並ぶ。ビールも冷蔵庫でほどよく冷えている。


(ちょっと、やりすぎじゃない?)

すねこすりの指摘に、座敷童子が気まずげに顔を逸らした。


案の定、タオルで髪の水気を取りながら出て来た佐伯が目を丸くして動きを止め……

「あれ?やるじゃんわたし!」

いや、非常に満足気であった。


(……まぁ、良かったのよ。座りなさい)


上機嫌でソファに座り、テレビをつけて、早速ゲームにログイン。


「あれ?これ先週からのイベントだよね?」

(えへへ、ごめん……)

家鳴のごまかし笑いで壁が軋んだ。


でも関係ない。今日は時間がある。やるぞー。


部屋の梁が小さく鳴る。家鳴がうずうずしている。

(はやくはやく!スタートスタート!)


コントローラーが、微妙に手に馴染む角度へ転がる。


「今日、最高じゃん」


ちょっとお行儀が悪いけど、これぞ一人暮らしの醍醐味!

美味しい夕飯とゲームに佐伯は上機嫌であった。


ーー


「よしよし、これなかなかいい結果じゃない?」

画面の中で花火が上がる。イベント完全達成。特別報酬ゲット。


「いやん、わたしってすごい?」


デパ地下グルメの空き容器がテーブルに並ぶ。ビールは一本だけ。

ほんのり酔いが回って、最高の気分。


コントローラーを置こうとした、その瞬間。柱が、ぴし。壁が、ぱし。小さな音が連続する。

(え、もう終わり?)

梁の奥から、名残惜しそうな声。家鳴が天井を小刻みに鳴らす。

(もっと続き、続き)


でも、その音をかき消すように――


♪ お風呂がわきました ♪


佐伯はすっと立ち上がった。


(はいはい、今日はここまで)

先んじてお風呂の用意をしていた座敷童子が得意気に言う。

(けち)

天井が、舌打ちのような音を出して鳴った。


ーー


湯船に身を沈める。

ああ。生き返る。

今日一日の疲れがお湯に溶けていく。


「ふぅ〜、いい湯だわ」


定時上がりだったのに、結局ゲームで夜更かし。でも昨日よりは早い。それならセーフ。


お風呂から上がると、脱衣所の隅で待機していたすねこすりがベッドまで先導。

(もう寝るよ〜)


リビングでは床が静かに鳴る。座敷童子が優しく微笑む。

(せっかく早く帰ってきたのよ?今日はゆっくり休むといいのよ)


ーー


ベッドに入る。いつもふかふか。今日もふかふか。


目を閉じる。

今日もちゃんと働いた。ちゃんと楽しんだ。なんとかかんとか上手く回った。

悪くない一日だった。


「明日も頑張ろ」


ベッドの娘が眠りに落ちる頃、憑き物たちもそれぞれ体を休め始めた。

家鳴は梁に戻り、座敷童子はリビングでくつろぎ、すねこすりはベッドの下へ潜り込む。


彼女は何も知らない。

今日が“うまく回った理由"を。


明日もきっと、ちょっと困って、ちょっと助けられて、きっとだいたい普通に終わる。

そして彼女は、また言うのだろう。

「やっちゃった。でもなんとかなったなぁ」と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ