一人暮らしと誰かの手助け
企画部第一課。ここが、わたしの職場。
三年目とはいえまだまだ。でも、最近ちょっとだけ仕事がわかってきたかも。今日も頑張ろう!
始業十分後。
「佐伯くん、ちょっといいかな」
コーヒーを一口飲んだところで、部長に呼ばれた。
「今日の社内会議用にお願いしてた資料、できてる?」
「えっ? あ! はい!取引先別の売り上げ推移ですよね。先週お渡ししました!」
「あぁ、そうそれ。それをね、過去5年の企画別にして欲しかったんだけど……言い忘れてたな。ごめん、僕のミスだわ。でも、なんとかならない?」
うぁ……
「……頑張ります」
言った瞬間、胃がきゅっとなった。
ーー
そこからは大慌て。
同僚に事情を説明して通常業務を外してもらい、必死にフォルダを漁る。
どう考えても間に合わない……
キリキリと胃が痛み始める。
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そんなとき、誰にも気づかれず、壁の表面がゆっくり歪む。
そして、無数の“目”が瞬いた。
(……過去5年分、了解です)
資料を漁ってしばらく。
ダメ元で開いたフォルダの中身が微妙に変わっていた。
あれ、こんな整理されてたっけ?過去データの一覧が、やけにわかりやすく並んでいる。
(データの取りまとめ完了。こちらをどうぞ)
誰も聞いていない声が、空調に混ざる。
ーー
さらに背後。
会議室のガラスに、一瞬、白い影が映る。
穏やかな、しかし鋭い眼差し。
(知恵も道具も使いようです)
受信トレイに新着メール。
件名:企画別売上まとめ(参考)
「え?」
開く。ちょうど欲しかったフォーマット。送信元を見ると同じ部署の共有アドレス。誰が送ってくれたのかはわからない。
チャットが鳴る。「このマクロ使えば10分で集計できますよ」
……誰だっけ、この人?確認しようとしたところでメッセージは取り消されてしまった。
白い影がモニターをよぎる。
(ほら、そこはこうしたら?)
マクロの一行が修正される。処理速度が倍になる。キーボードが滑らかに進む。
誰かはわからないけど、みんなが助けてくれている。本当にありがたい。
「よし!頑張るぞ!」
⸻
会議五分前。
資料完成。震える指で部長に送信。
数分後。部長がやってくる。
「本当にごめんね。でも助かったよ。今後は気をつけるから。もう無茶言わないから。本当にごめんね」
……やけに腰が低い。目が、どこか泳いでいる。私の後ろを、見ないようにしているみたいだ。
部長は、何故か逃げるようにと会議室へに行ってしまった。
部長を見送ってから、迷惑をかけてしまった同僚たちにお礼を言う。
「全然大丈夫だよ、佐伯さんこそおつかれ」
「逆に先輩が段取りしてくれたおかげで、今日はなんだか作業が進みました。ありがとうございます。」
「ね、スムーズだった」
いやいや、えへへ
みんなが気を使って声をかけてくれる。
「皆さんのおかげで本当に助かりました。ありがとうございました。」
笑い合って、今日も、ちゃんと乗り切った。
ちょっと無茶ぶりがあって、でもちょっと助けられて、なんとか形になった。
ーー
壁の奥で、目目連の無数の目がゆっくり閉じる。
窓にうつった白沢の白い影が、静かに頷いた。




