友人宅へ遊びに行こう
第三部スタートいたします。
また、しばらくの間、よろしくお願いいたします。
水上の引越しが終わり、しばらくしてからの週末。
「やっと部屋も整って来たので、是非一度遊びに来て下さい」
と、佐伯は水上からお誘いをいただいた。
「お昼は早苗ちゃんがつくってくれるらしいから、デザートを買って行こう!引越し祝いも持ったし!準備万端!」
(一緒に行く!)
すねこすりが声をあげた。
ぴしぴしと梁が鳴る
(ズルいぞ!)
(僕も行きたい!)
(行きたい!)
(あんた達は建物付属!諦めなさい!)
座敷童子の一言に意気消沈の家鳴たち。
とはいえ、座敷童子もそわそわ。目目連は瞬きを繰り返す。
(ちょっとすねこすり、ちゃんと早苗の部屋を見てくるのよ)
(わたくし、用がなければ水上様のお宅を覗くわけにはまいりません。よろしくお願いします)
短い間とはいえ一緒に暮らした仲。今も早苗のことが気になって仕方ない一同であった。
ーー
買い込んだケーキを提げて、佐伯はマンションの入り口に立っていた。教えられていた部屋番号をオートロックに入力。
「先輩待ってましたよ。どうぞ」
すぐに声が返ってきた。
無事にエントランスを通過。部屋の前まで行くと、既に水上は扉の前で待っていた。
「いらっしゃい先輩、どうぞ中へ」
大歓迎である。
部屋の中を一通り案内してもらい、そのあとリビングでソファに席を勧められる。
(いいお部屋だねー)
すねこすりも勝手にルームツアー。
「今日はお越しいただきまして」
「いえいえお招きいただきまして」
冗談混じりに挨拶をしたら、あとはもういつも通り。水上手作りの昼食をいただきながら話しは尽きない。
次から次へとおしゃべりに花を咲かせ、ケーキを食べながらお茶を飲む。ただ、佐伯はどこか落ち着かない気もしていた。
ーー
「早苗ちゃんの部屋って、なんかとっても静かだよね」
水上は一瞬目を丸くしてから、穏やかに笑う。
「確かに、先輩の部屋よりは静かかもしれませんね。私、先輩のあの部屋大好きです」
「わたし、落ち着いててこの部屋も好きだなぁ。でも早苗ちゃん、寂しくなったらいつでもうちに遊びに来てね。とりあえず、話し相手にこの子を置いてくね。」
佐伯は引越し祝いにと持って来た河童のこけしを取り出した。
「あ、これ」
「そう!一緒に行った温泉で買った子だよ!あの旅行とか、うちの部屋とかを思い出してね!」
「ありがとうございます。大事にしますね」
ーー
それからも二人の話しは続く。会社のこと、近所のお得なスーパーについて。楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
最後はちょっとしたサプライズ。今後はオンラインでも一緒にゲームをしたいと水上が購入したゲーム機を見て、佐伯は大喜び。設定諸々は追々と約束し佐伯は帰宅した。
ーー
佐伯が帰った後、余計に静かに感じる部屋で、水上は何故か託された温泉土産の河童のこけしを眺めていた。
思い出というには近すぎる、忘れられない日々。
思いがけなくも、先輩の部屋に転がり込んだ。
最初は怯えて、それから泣いたり、笑ったり。
そんな目まぐるしい、愛しい日々。
「確かに、この部屋は静かだね」
部屋を見まわしてからあらためてこけしを手に取る。
「これから、よろしくね」
こけしにそう言葉をかけて、タオルを載せた頭をひとなでしてからサイドボードへ置いた。
水上はそのまま寝室へ向かう。
こけしは、その背中をじっと見つめていた。




