二人暮らしとおかえりとただいま
「着いたね……」
「はい……」
ついに帰宅。
ほんの数日前、俯いて逃げ出した部屋の前。
私は、帰って来た。
真っ直ぐ前を向く。
こちらをちらりと確認してから、先輩が部屋の扉を開けた。
(お帰り、なのよ)
和装の少女がこちらを見ている。
(おかえり?)
足元に擦り寄る体温を感じる。
そして、天井の向こう側、梁の奥から微かな気配。壁の目もとても薄い、けど消えていない。
(……ゴメン)
(……おかえり……なさいませ)
小さな、とても小さな聞き逃しそうな声。
それでも聞こえた。
「た、ただいま…….帰りました。っ、ひぐっ、……ごめんね。」
ほんの微かに梁が鳴る。
瞬きのしばたく音がする。
「私、怖がりだから、でも、知ってるから」
今、私が伝えられる精一杯を。
「待っててくれて、ありがとう」
青鬼たちは、まだこの部屋にいてくれた。
グスグスと泣き続ける私の背中を先輩がなでる。
「早苗ちゃん、ありがとう。これからもよろしくね。」
先輩は、きっと本当のことは知らない。でも、だからこそわかる優しさもある。
奥の部屋、その窓の向こうからも声が聞こえた。
(もう、お客様ではありませんね。お帰りなさい。)
私は、帰ってこれた。
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とりあえず荷物を片付けて一休み。夕飯はあり物で済ませようということになった。
(久しぶりのお夕飯なのよ!準備は万端なのよ!)
キッチンから伝わってくる、漲る歓迎の空気。
何故か豊富な作り置きで、ありがたく充実の夕飯をいただいた。
先輩は、部屋に帰ってからも私を気遣ってくれる。
「まだお休みあるし、今日は夜更かししちゃう?それとももう寝る?好きにしていいんだよ?」
大事にされてるなと、胸が暖かくなる。でも、まだやるべきことがある。
「それなら……先輩!イベント進めますよ!」
梁が、天井が思わずというように軋む。先輩もビックリ顔。
「よしっ!行くよ!早苗ちゃん!」
でも、先輩はやる気の様子。
久しぶりのプレイは、いつかのようにチグハグだった。でも、とても楽しいのもいつもと同じ。
きっと、この部屋も同じだろう。
就寝時、私は布団の足元を丁寧に整えておいた。
横になってしばらく、遠慮がちに、でも嬉しそうに寄ってくる気配。
(おやすみー)
くるりと丸まって落ち着く重みに、私も安心して眠りに着いた。
ーー
翌日、スマホのアラームはなぜか鳴らなかった。
でも、以前と違うのはこれが気づかいだとわかること。
(お休みの日くらい朝はゆっくりでいいのよ。家鳴もやっと覚えたのだわ)
(張り切りすぎ、ダメ)
(ちょうどいいお役立ち)
(お役立ち)
天井の隅からは微かな気配。でも視線は感じない。
(常時監視は不要。わたくし成長いたしました)
足元にフワフワとした何かが寄り添う。
(よく言うよね)
これからも、不意のことにビックリしてしまうことはあるだろう。怖いと感じることもあるかもしれない。でも……
「ふわぁ、早苗ちゃんおはよう。あ!いい天気!まだ少しお休みあるし、今日は何しようか!」
先輩と一緒なら、この部屋なら、私はもう大丈夫。




