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一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第二部 二人暮らしと憑き物

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23/30

二人暮らしを一休み

「ほんとに修学旅行みたい!楽しーっ!あ、木刀売ってるよ!早苗ちゃん!」

「先輩、木刀なんて買いませんからね。」


こんにちは、水上です。私はただいまオフシーズンの温泉地にきております。


えぇ、大変寛いでおります。宿泊客は少なめ。宿周辺の観光地も温泉饅頭を食べ歩きしながらゆっくり周れるほどに快適。


泣いたカラスがもう笑った。喉元過ぎればなんとやら。昔、小さなときに言われたことがある。今の私は正にその通り。先輩との旅行を満喫。


問題の先送り。


あの部屋にはナニかがいる。でもそれはもう知っている。どう付き合うべきかも学んだつもりだった。あの夜にだって、きっと何か理由があったはず。

でも、私は耐えられなかった。怯えて、パニックを起こしていた。


先輩があの部屋から連れ出してくれたのは、今ここにいるのは、一時的な避難だ。まさかこの先、ずっと温泉宿に泊まるわけにはいかない。


先輩によると、休暇はまるまる一週間。

私はいずれあの部屋へ帰る。それまでに、考えないといけない。


--


先輩に連れて来ていただいた温泉旅館。

初日は何も考えず、宿での食事と温泉で体を休めた。

「い~い湯~だ~な~♪」

先輩は温泉が気に入ったらしく、到着後、食事前、就寝前と何度も温泉と部屋を往復している。

私は食事前にご一緒して、そのほかの時間は読書をしたり、音楽を聴いたり、部屋で休ませてもらった。


二日目はゆっくり朝寝坊して、遅めの朝食後に宿の周囲を軽く散策。

「気持ちいいね~。自然豊かでマイナスイオンたっぷり!」

今はまだ、難しいことは後回し。きれいに整備された遊歩道をゆっくり歩いた。


午後はハイテンションな先輩に引きずられて、昼食がてら宿の周辺を観光。

とりあえず木刀は買わないことを先輩と約束して、先輩が調べておいてくれた観光スポットを巡る。


「あのね、早苗ちゃん!あっちに足湯があって、そこの近くにお蕎麦の名店があるんだって!美味しそー♪あ、でもランチやってるイタリアンもあるんだった!んぁー!迷っちゃうよね!」


足湯は思っていたより熱め。身体がポカポカする。

「ふぁー、結構汗かくねー。のど渇いちゃう!」

ほんのり頬を上気させながら先輩が笑う。

(発汗作用が強めです、水分補給を推奨します)

あの部屋だったら、そんな声が聞こえたかも知れない。


お蕎麦屋さんは、歴史のある古いお店だった。落ち着きながらも賑やかな店内。もちろんお蕎麦は絶品。

天井には立派な梁。磨き上げられ、どっしりと構えたそれはもちろん軋みなどしない。

それを見て、少し切なくなった。


「先輩、それ気に入ったんですね」

「んふ〜、いいでしょ、可愛いでしょ」

お蕎麦を食べてから宿の部屋に戻って、今はちょっと小休憩。

土産物屋で一目惚れしたらしい。頭にタオルをのせた河童のこけしにご満悦な先輩。

「わたし、このあとお風呂行くけど、早苗ちゃんも一緒に行く?」

「あの……私は少し休んでからにします。宿のラウンジで本も借りてきたし」

「ん、わかった。じゃあ寂しくないようにこの子を置いていくね。またあとでね〜」


先輩は優しく笑って一人で部屋を出ていった。テーブルの真ん中に河童のこけし。なんだかシュールで、でも確かに寂しくない。先輩はきっと、私に時間をくれたんだと思う。

今はもう少し、甘えさせてもらうことにした。


ーー


あれからさらに二日、先輩は変わらず全力で休暇を楽しんでいる。河童のこけしはテーブルに鎮座したままだ。

私も、温泉に入ったり、ラウンジで借りた本を読んだり。おかげで大分落ち着くことができた。

今日は先輩も宿でまったり。河童のこけしを愛でつつお茶を飲んでいる。


借りてきた本は読み終わった。ラウンジに返そうかと整理していて気づく。先輩も何冊か借りていたらしい。中に、子供向けの絵本が紛れていた。

「先輩、これもう読み終わりました?」

「んん?あ!借りてきたけど忘れてた。ごめんね、一緒に返しておいてくれる?」

「はい、ちょっと行ってきますね」


ラウンジで、借りた本を一冊ずつ元の場所に戻していく。

先輩の借りた本のうち、一冊の絵本だけどこに返せばいいのかがわからない。宿のスタッフさんに聞こう。そう思って、その絵本を手にラウンジのソファに座った。


「絵本なんて久しぶりに触ったな」


なんとなく読み始める。


--


赤鬼は、村のみんなと仲良くなりたい。でも、村のみんなは鬼が怖い。


親友の青鬼が言う。


「カッコいいところをみせたらいいよ」


作戦が成功したあと、赤鬼は青鬼の家へ行った。でも、そこには誰もいなかった。


--


「もぅっ、ほんとに、無理ぃぃぃ……」


絵本の続きを読みながら、私の目からは涙が溢れ出していた。

青鬼は赤鬼のためにお芝居をした。赤鬼は村のみんなと友達になれた。でも、もう優しい青鬼はもういない。


私は知っているじゃない。あの部屋は優しいことを。

キッチンの気配も、足元をくすぐる何かも、そして、梁を鳴らす影も、時々天井に現れる目も。

そして私は覚えている。あの部屋から気配が消えたかけた日のことを。あのときは、それでも戻ってきてくれた。けれど……。


怖かったのは事実。怖いことは仕方ない。でも、今度こそ本当に信頼できる……と思う。だって、私はまたあの部屋に帰りたいから。

いなくなってからではダメなんだ。

私は青鬼を引き留めなくてはいけない。


ーー


部屋に戻った私を見て、先輩は大慌て。

「早苗ちゃんどうしたの!目が真っ赤!なに!なんかあったの!」

先輩は、いつでも私を案じてくれる。

「大丈夫です。とてもいい本があって感動しちゃって」

「それならいいけど、無理しないでね?今はお休み中なんだからね?」


「それなんですけど、先輩、ちょっとご相談が」


少し話をした。先輩はびっくりと心配と嬉しいを同時に味わったような顔をして、満面の笑顔を見せてくれた。

宿のスタッフさんに謝って、残りの宿泊をキャンセルした。迷惑をかけたはずなのに、是非またどうぞの一言が嬉しかった。


--


道中、先輩は河童のこけしを抱えて、ポツポツと話してくれた。

「早苗ちゃん大丈夫?本当にいいの?」

「あの……ごめんね。初めての部屋が怖い気持ち、わたしも知ってたのに。」

「最初はね?わたしも怖いと思ったの。」

「でも、居心地良くて慣れちゃって……」


なんとなくわかっていたけど、先輩は何も見ていない。


でも、それはあんまり関係ない。先輩はいつも誠実で、私の味方。

これはあくまで私の話し。今日、私はあの部屋へ帰る。

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