二人暮らしと甘えと信頼
翌日の昼前、佐伯と水上は荷物をまとめていた。
「先輩……あの、私昨日は……」
「いいのいいの!気にしないで!気分転換にちょっと外泊もいいでしょ?」
朝から先輩は会社に連絡をして、二人分の有休休暇を申請してくれていた。
「知ってる?今の時期温泉って空いてるんだって!早苗ちゃんと温泉旅行!修学旅行みたい!」
大袈裟にはしゃいでくれる先輩。
「あ、でも知らない部屋で寝たくないとかだったら……」
「いえいえいえ!でも、オフシーズンとはいえ予約はどうしたんですか?」
「なんか、営業部のコネですぐとれたらしいよ。部長もゆっくりしてきなさいって言ってた」
部長は、ナンパ男をキッチリ成敗してくれたらしいよ、と。
絶えず明るく冗談や軽口を口にしながら、先輩は私の背中を支え続けてくれた。
「ごめん……」
部屋を出る前に、背中越しに小さくつぶやく。
わかってる。昨日の大失態。でも、今は心の整理をする時間が欲しい。
とりあえず今は、先輩の優しさに、お縋りすることにした。
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(やって……くれましたね……)
見慣れた、ヤギ顔の男ではない。本来の姿に戻りこちらを睥睨する神獣の前
目目連
家鳴
どちらも今はほんの小さな影でしかない。
(申開きのしようもなく……)
(ひっ……)
白沢の体に浮かぶ瞳は、今全て憤怒で真っ赤に燃えている。
(あの娘たちは、家を出るとまで言った……)
(お前達は、あの二人の信頼を踏み躙ったのだぞ……)
あまりの激怒に空気が熱を帯びている。
(……度し難し)
追放どころではない……
存在すら、許されないかもしれない……
そう思えるほどの緊迫のなか、震える手で座敷童子が小振りな手帳を取り出した。
部屋を出る前に、水上がそっとリビングに残していったもの。
(白沢……さま。これを見るのよ)
手帳は、水上が日記として利用していたものらしい。
この部屋に来てからの体験や、怪異たちへの愚痴らしきものもある。
しかし、そこには少しずつながら、部屋のナニかたちに歩み寄ろうとする言葉も記されていた。
そして、最後のページ
"どうしてだろう。みんな優しいって知ってたのに。信頼してた……つもりだったのに。ごめんなさい、私怖がりだから。"
後悔のメッセージ。謝罪の言葉。
"今は、まだ怖い。でも、またこの部屋に帰りたいとも思ってるから……"
白沢は、しばらくの間手帳を喰い入るように見つめていた。
張り詰めた緊張はそのまま、周囲の温度だけがふっと下がる。
こめかみに青筋をたてながらも、そこには、いつものヤギ顔の男が立っていた。
(もし、当人が許すというのなら、私が勝手に断罪することはできません)
(彼女は、これまでと同じ、この部屋を望んでいる)
(我々は、取るに足らぬ影でしかない。貴方たちも学んだでしょう。)
(成長なさい。しばらくは見張ります。これはペナルティです)
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白沢が去って、緊張がほどけるのと同時に座敷童子の腰が抜けた。
(とんでもないのよ、あのヤギ)
目目連と家鳴はすっかり引っ込んでいる。
(あいつら!お礼の言葉もないのよ!)
(怖かったからねー)
座敷童子の足元にすねこすりが寄り添う。
(とにかく、こっちはどうにかなったのよ。)
(あとは早苗ちゃんね。大丈夫かしら……)
この部屋は、今も二人を待っている。




