二人暮らしと協力プレイ
やっとこの部屋にも慣れてきた、そんなある日の夕飯の最中、先輩がやけにそわそわしている。
一体どうしたんだろう。そう思いつつも夕飯はすすんでいく。
そろそろ二人とも食べ終わる、そんなタイミングで、とうとう先輩が切り出した。
箸を持ったまま、真顔で言う。
「えっとね……あの、ちょっと大事な話があるの」
心臓が嫌な音を立てる。
(まさか……やっぱり迷惑だったとか……?)
数日を過ごしてみて、居候にうんざりされてしまった?
それともちょっとしたことでピーピーキャーキャー怖がりすぎた?
「な、なんでしょう」
「実はね」
ごくり。
「わたし、ゲームが大好きなの」
……はい?
「早苗ちゃんが来てくれて、この何日かは色々あって楽しかったからやってなかったんだけどね、新しいイベントが始まっててさ」
ほっとすると同時に思い切り脱力してしまった。
しかし、先輩にとってはごくごく真剣な話の様子。
「夕飯のあと、寝る前にちょっとだけ……やっても……いいかな?」
顔が少し赤い。
照れているらしい。
なんだこの人かわいい……
「もちろんです」
その瞬間。
(きたぁぁぁ!!)
(久しぶり!!)
(イベント!?限定!?)
梁が歓喜に軋む。
(情報管制モードへ移行、モニター監視スタート。)
天井の隅で目目連が静かに焦点を合わせる。
(まぁ、ほどほどするのよ)
座敷童子が腕を組む。
水上は知らない。
自分の一言で、部屋全体が臨戦態勢に入ったことを。
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家鳴も目目連も準備は万端。モニター前はすでに濃厚な気配に包まれている。
佐伯の手にコントローラーが握られる。
「よーし、いくよ!」
戦闘開始。
(敵出現位置予測、成功)
目目連が、モニター情報を最適に整理、分析。
家鳴がコントローラーに干渉して入力補助が行われる。
(よしっ、成功!)
敵の攻撃を華麗に回避。
的確なコンボ。
無駄のないスキル回し。
完璧な立ち回り。
「え、すご……」
「んふー!今日調子いいー!」
思わず声が漏れる。
「佐伯先輩って……スーパーゲーマー!?」
(見てればわかるけど、そんなわけないのよ)
座敷童子がつぶやいた。
その瞬間。
「あ」
(あっ)
(あ)
明後日の方向へ攻撃。
敵の雑魚に囲まれる。
回復タイミングをミスる。
ゲームオーバー。
沈黙。
「……あれ?」
(干渉権は俺のだ!)
(変わってよ!順番!順番!)
(ちょっとだけ!ちょっとだけ!)
家鳴がケンカをはじめる。
梁が小刻みに鳴る。
テレビが一瞬ちらつく。
すねこすりがモニター前にぴょこんと現れる。
(視界遮断!観測不能!観測不能!)
目目連が慌てる。
「え、なんか突然ラグくない?」
(結局みんなポンコツなのよ。楽しいみたいだからいいけど)
ゲームは混沌のまま進行していった。
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結局、成績はそこそこ。
「はぁ〜楽しかったぁ」
満足そうにコントローラーを置く先輩。
部屋はほんのり温かい。
少しの沈黙のあと、
先輩がもじもじと視線を落とす。
「あのね?このゲームね?」
「はい」
「ソロだけじゃなくて、友達と協力プレイもできるの」
心臓が、また変な音を立てる。
「それでね、もし良かったら……」
ほんの少しだけ不安そうな目。
「早苗ちゃんに、手伝ってもらえたらな……なんて」
なんださっきからこのかわいい生き物!
「もちろんです!」
前のめりで答えてしまった。
その瞬間。
(プレイヤー二人っ!?)
(次は入力補助したい!)
(順番!順番!)
(観測再開。但し静音モード推奨。)
梁が、天井が小さく鳴る。
(……お客様、正式参加なのよ)
座敷童子が、そっと笑った気がした。
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就寝前、水上は久しぶりに日記をつけていた。
先輩の部屋にお世話になってからのあれこれ。
そして、今日のゲーム。
思い出して少し笑う。
最初はただただ怖かった。
そうそう慣れるようなものでもない。
でもなぜか、不思議な暖かさを感じるのも確か。
今日だって。
二人しかいないはずなのに妙に賑やかな部屋。
モニターの前、手の中で突然震えるコントローラーにビクビクしたり、上手に連携できて先輩とハイタッチしたり。
とても、とても楽しかった。
日記を閉じて布団に入る。
目を閉じて、小さくつぶやいた。
「おやすみなさい。」
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明かりの消えた部屋で、梁から軋みが聞こえた。
(これからは)
(一緒にゲームできるね)
(楽しかった)
天井から、微かな瞬きの音。
(お2人でプレイされるのでしたら、わたくしたち隠れていたほうが良かったのでしょうね)
キッチンから小さな足音。
(でも、一緒に遊んでくれたのよ)
ぴし。
部屋は静かだった。
でも、寂しくはなかった。




