二人暮らしと隠れんぼ
先輩の部屋にお世話になってから、意外なほどに生活は快適。
片付いた部屋。切れない消耗品。スマホの充電忘れもアラームの設定し忘れもない。
初日に見たナニかたちは、今はちょっとした違和感にまで落ち着いている。
"うちってすごく居心地がいいんだよね〜"
先輩が言っていたことにも納得してしまいそう。
しかし、それには理由がある。
座敷童子は、水上がいるときはキッチンに立たない。
(こっそりなのよ)
すねこすりは、水上の足に直接は触れない。
(ふわふわなのにね)
家鳴はゲーム我慢中。
(お客様だから……)
水上はそれを知らない。
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ときどき、思いもしない遭遇もある。
冷蔵庫を開けて、閉めようとしてふわっと違和感。
(挟まった!)
サッと足元を逃げていく小さな獣のような影。
(だって、プリン美味しそうだったから……)
リビングの掃除中、モニター下のほこりをとっている最中に異音。
(やった!ゲーム!)
起動音が鳴る。
(バカ!違う!)
(オフ!オフ!)
料理中、棚や引き出しを確認すると何故か背後がソワソワ。
(それならあそこに、あっ、それはこっちに)
私はその度に
「ひぃっ!」
(あ、やば)
慌てて隠れるナニかたち。
なかなか難しい。
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ある日、先輩は残業。私は一人でお先に上がらせていただいた。気配はあるけど快適な部屋。何故か気をつかわれているような気もして、少し慣れてきていた。
お世話になりっぱなしなのだから、今日はしっかり夕飯を作ろう。
炊飯器をセットして、野菜を洗う。私だって一人暮らしして来た。ときどき背後を気にしたりしながら、それでも手際良く調理をすすめていく。
そこへよせばいいのいに、気になりすぎて、座敷童子がこっそり手元を覗きこんだ。
ーー
視線を感じてはいた。
だが、人間は慣れる生き物。少し緊張しながらも料理を続ける。
「だ、大丈夫、大丈夫。」
そのとき、
(なにをつくるのかしら?)
息がかかるほどの耳元近くで、幼なげな女の子の声がした。
「ひいぃっ!!」
思わず手元がぶれて、指先を包丁で浅く切ってしまう。
「イタっ!」
血が一滴、まな板に落ちた。
ーー
大したことはない。
だが、見守る側は大慌て。
座敷童子
(っ!大変なのよ!)
すねこすりが足元に寄る。
(どうしたの!?あっ怪我してる!)
家鳴
(ぴし!)
(ぱし!)
(ぎし!)
目目連、ついつい怪我を診断。
(負傷は軽度。ですが念のため手当てを推奨)
一気に濃くなった気配。
こ、こ、怖い。
そっと天井を見上げて見てしまう。
そして見てしまう。
こちらを覗きこむ無数の目。
「ぴぃぃやああぁぁ!!」
腰が抜けてへたり込む。ふっと意識が遠のく。
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気がついたときはまだ一人だった。部屋はやけに静か。
「無理っ、先輩っ、早く帰って来てっ」
慌ててスマホを確認。もうすぐ自宅に到着するとメッセージが来ていた。
びくびくしながら、とりあえず切ってしまった指の手当てをし、ただただ先輩の帰りを待つ。
「ただいま〜」
「あぁっ、先輩っ、おかえりなさいっ!」
「え?なに?早苗ちゃんどうかしたの?」
思わず駆け寄ってしまったけれど、キョトンとした顔の先輩を見てハッと思いなおす。
居候の身で、怖かっただとか、この部屋にナニかいるだとかいうのは失礼なのでは?
結局、何もいい出せなくなってしまった。
その後は、先輩と当初の予定より簡単な夕飯を完成させ、いつも通りの夜を過ごす。
先輩が帰って来たからは今は少し安心。
部屋は、いつになく静かだった。
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翌日、昨日の続きのように朝から部屋は静か。
でも、
「あれ?スマホどこ?あ、日焼け止めなくなってる!ごめん早苗ちゃん貸して」
先輩はいつもより出勤の支度に手間取っている。
仕事から帰宅しても、部屋は物音ひとつしない。部屋が息をひそめている。
「だって、怖かったから……」言い訳してしまう。
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夕飯後、2人でお茶を飲んでいるとき、先輩がつぶやく。
「なんか、今日寂しいね」
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就寝後、迷ったけど、布団の中で独り言を言うことにした。
「昨日は怖がりすぎちゃったなー、大袈裟だったなー」
布団の裾にナニかがそっと寄ってくる気配。でもまだ乗ってはこない。
「怪我は私のミスだし、天井の目は…….あれはさすがに怖かったけど……でも多分見間違いだし」
キッチンにソワソワとした気配。天井の模様が少し撓んだように見える。
「まったくの無音って味気ないっていうか……」
(ぴし)
梁が小さく鳴る。
部屋に、また気配と音が戻って来た。遠慮がちに、伺うように。
布団の裾に、くるりと丸まった重みが乗った。
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翌朝、先輩の支度がスムーズに戻っている。玄関の靴は揃っている。部屋は、何故か少し暖かい。
怖いものは怖い。でもほっともする。私は、部屋との付き合い方を少しだけ学んだ。




