二人暮らしへのご招待
引き続き、拙作をお読みいただきありがとうございます。
第二部スタートいたします。
しばらくの間、ぜひよろしくお願いいたします。
私は水上早苗。
ただいま絶望的な気持ちで自宅キッチンの天井を見上げています。
ボタボタボタボタボタボタ
絶え間なく滴る水滴。
壁も、床も既にグシャグシャ。
レンジも冷蔵庫も無事とは思えない。
ーー
異様な冷気と水音で、普段より大分早い時間に目が覚めた。
恐る恐るベッドルームを出て、リビングを抜け、この惨状を発見。
すぐに管理会社に問い合わせ。意外なことに、それほど待つこともなく担当者が説明にやってきた。
「水上様、この度はご迷惑をお掛けしまして誠に申し訳ありません。実は昨晩、上階で漏水が発生しまして、ただいま復旧作業の最中でございます。えぇ、もちろんお部屋の原状回復、その他補償などはこちらで責任を持ちますので」
疲れた顔の担当者は、既に上階で対応に追われていたらしい。申し訳ないけど少し安心した。ただ、言いにくそうにそのあとが続く。
「ただ、査定や復旧工事の都合もございまして、つきましては、しばらくの間ご退去をお願いできれば。もちろん、その間のお家賃は減額いたしますので」
即、了承。
でも、同時に理解する。退去中の宿は自己責任ということらしい。
「ご理解とご協力誠にありがとうございます。いや、しかしお若いのにしっかりしていらっしゃる。こんなこと言うのもなんですが、わたしだったらとても冷静ではいられないところです。いや、本当にありがとうございます。」
担当者は、退去中の部屋や家財の管理諸々について説明してから、修繕の目処が立ったら連絡すると言い残して帰って行った。
高身長、キツ目の顔立ち、口下手なせいで言葉少な目。色々と重なって昔からクールだの冷徹だのと言われてきた。
でも実際は違う!頭はパニック!
(退去!その間どうすんの?ホテル?無理ぃぃ、高すぎるぅぅ!)
結局何も決められないまま、とりあえず身の回りの荷物をスーツケースに、そして混乱を頭に詰めて出勤した。
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会社では、大きなスーツケースを持って出社した私に周りが声をかけてくれる。
事情を説明すると、みんな同情してくれた。
「大変だね」
「出来ることがあったらなんでも言ってね」
そう言ってくれる。
でも、そうとしか言ってくれない。
今日から寝床もないとしても、結局自分でどうにかするしかない。
わかってる。助けの手なんて、そう簡単には差し出せない。きっと、私だって。
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昼休み、給湯室でまた声をかけられた。
佐伯先輩。
とても真面目で、少し抜けてて、不思議な雰囲気を持っている。でもこっそり尊敬している先輩。
「えっ?それ大丈夫なの?」
「それが、一時退去しなくちゃならなくて……」
仕方がない。先輩だって……
「じゃあさ、しばらくうちにきなよ!」
ん?なんて?
「わたし一人暮らしだし。うふふ、実はうちってすごく居心地がいいんだよね〜。ご招待しちゃう!」
軽い。あまりにも。
「いや、でもっ、ご迷惑では?」
「いいのいいの。いつも助けてもらってるし、前から水上さんとは仲良くなりたいと思ってたんだよね!」
なんてこと!尊敬する先輩と!一つ屋根の下!
ありがとう、上階の人。私は感謝すらした。
それがとんでもない勘違いであることは、当然まだ知らない。
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お世話になるのだから、せめて今日の夕飯は私が作ると申し出たところ
「いろいろあったんだから無理しちゃダメ!今日は歓迎会だし、デパ地下パーティーにしよう!」
との先輩の一言で買い物に行くことになった。
「早苗ちゃん用のタオルもいるね〜。あ、お箸も買おう」
名前呼び!嬉しい!それに先輩は細々と私を気遣ってくれる。
「ありがとうございます……」
「んふ〜、しばらくよろしくね!楽しみだね!」
私も楽しみです!先輩!
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先輩のお宅に到着。
「さぁ、どうぞ入って〜」
今朝の絶望も混乱もすっかり忘れて、このとき私は浮かれてさえいた。
「それでは、しばらくお世話になります。お邪魔します……っ!」
動けない。
玄関に一歩踏み入れた、その瞬間、全身が硬直した。
(あぁ、すねこすりから聞いているのよ。大変だったわね。)
ナニかがこちらを向いている。
天井には無数の目。
梁や柱にはりつくナニか。
足元にも、興奮して走り回るナニかの気配。
そして廊下の先の窓。
そこに、白い影が映っている。
必死に目線を彷徨わせるも、気付いたなとばかりの天井の目に視線をとらわれた。
そして、白い影が、ゆっくりとこちらを見た。
(おや、これはまた……興味深いですね)
うっそりと笑む気配。
「……綺麗なお部屋ですね。」
かろうじて一言述べて、私は意識を飛ばした。
二人暮らしは前途多難らしい。
新たな住人水上を迎え、第二部スタートとなりました。
この部屋で、これからどんな暮らしがはじまるのか。
皆様どうぞお付き合い下さい。




