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一人暮らしにつきものの憑き物  作者: ぴよ
第一部 一人暮らしと憑き物

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11/29

一人暮らしと野良怪異

もともと、この部屋には三体の家鳴がいる。


梁。天井。壁。

ぴし。ぱき。きし。

人を脅かしていたのは……昔の話。


今では、三方向からコンボを見守るこの部屋のゲーム勢。


そこへ。


ぎ……。


(?)


梁が鳴った。


三体とも、今はゲーム中だ。

(今鳴らしたの誰?)

(俺じゃない)

(僕でもない)


きし。


今度は壁の奥。


佐伯がコントローラーを止める。

「……なんか今日、音多くない?」


足元のすねこすりも周りを見廻しはじめる。

部屋の空気が、わずかにざわつく。


ーー


しばらくすると、

なぜか押入れが湿っぽくなる。

冷蔵庫の扉が半開き。

Wi-Fiが不安定。

何やら実害が出始めてきた。


(カビ臭い!)

(冷蔵庫にいたずらしたの誰!)

(ゲームがラグい!)


異変を感じた住民(?)からの申告もあり、その夜。怪異会議、緊急招集。


(どういうことかしら?)

座敷童子が腕を組む。


白沢は静かに頷く。

(この部屋の居心地が良いせいでしょう)


(何か問題かしら?)


(居心地が良いこと自体は、素晴らしい)

白沢は目を細める。

(ただ……入居希望者が、勝手にいつきはじめているようですね)


しん。


梁が軋む。天井がわずかに鳴る。壁の奥で、気配が動く。


(……は?)

座敷童子のこめかみに青筋が立った。


(ここは!あの娘の!一人暮らしの!部屋なのよ!?)


ぴしぴしぴし。

家鳴三体が同時に抗議音。

(縄張り侵害!)

(無断入居!)

(許可出してない!)


すねこすりがふくらむ。

(足元の匂い、知らないの混じってる!)


目目連の目が、壁の向こうを覗く。

(確認。野良怪異、三。小型。悪意は薄いが、定着傾向あり)


(……総員出撃、確実に追い出すのよ)

静かに燃える怒りを湛えた、指揮官の命令が下った。


ーー


野良怪異たちは、押し入れの隅や配管の影に潜んでいた。


温度が安定。掃除が行き届いている。ゲームの音が楽しい。

なんて居心地がいい部屋。

こんなところに住みたい。

ならばこのまま、こっそり居着いてしまおう。


しかしそれは許されない。

野良怪異はすぐに追い詰められた。


ぴし。家鳴が梁を震わせる。

(ここ満員)


すねこすりが前に出る。

(主がいる)


目目連の目が一斉に開く。

(隠れ潜もうなど、許しません)

無数の視線が逃げ場を塞ぐ。


白沢が静かに告げる。

(ここは既に守護網が敷かれています。悪意がないのなら、他を探しなさい)


(覚悟するのよ!)

この部屋を守るものたちは甘くない。

抵抗するならば苛烈な手段もやむなし!


いざ、と構えた座敷童子が聞いたのは


(……だって……ここ、あったかいから)

びくりと震え、ぼんやりと霞んだ影が恐る恐る押入れの隅から発した、思いがけない弱々しい声。


それは意外なほどに小さな声だった。


ーー


腕を組んだまま、しばらく考える。

害意もない薄い影。力づくで追い出すまでもないほどの弱々しい存在感。


しばらくは目こぼしをしても?

いや、ここはあの娘の部屋なのよ?


改めて、座敷童子は決断する。

それから、静かに言い聞かせることにした。


(“居心地がいい”のは、偶然じゃないの)


掃除や家事。誰かの笑い声。生活音。

私たちはそれを守っている。


(ただ居座るだけなら、ここは保てないわ)


沈黙。


野良たちもわかってはいた。

自分たちには、ここにいられるだけの理由がないと。


ーー


そのとき、寝室からあの娘の寝返りの音


みんな黙り込む。


寝言が聞こえた。


「んふぅ、いらっしゃ〜い」


(!!!!)

一同絶句


ーー


(はぁー)

深いため息のあと座敷童子が言う


(仕方ないのよ。でもルールは守りなさい!定住不可!短期滞在のみ可!但し、あの娘が疲れてるときは立ち入り禁止よ!)


白沢が言う

(妥当なところでしょう。付け足すなら、ここでは揉め事は御法度です。守れなければ排除します。……ここは、あなた達の避難場所ではない。)


コクコクと頷く野良達


(ありがとう、ありがとう)


やがて、野良怪異たちは、そろそろと気配を薄めていく。


押し入れの隅が静かになる。配管の影が空になる。部屋の空気が澄む。


ーー


翌日。


彼女は伸びをしながら、部屋を見廻して呟いた。


「なんか今日、スッキリしてない?」


ぴし。


(当然)

と梁が鳴った気がした。


ーー


会議、事後報告。


(防衛強化は必要ね)

座敷童子が言う。

白沢も頷く。


(そこで提案があります)

天井の隅の目がゆっくり開く。


(自宅セキュリティ担当を置きましょう)


(誰よ)


(わたしです)


沈黙。


(……会社は?)


(遠隔可能。目は多い)


(寂しかったとかじゃないの?)


(断じて違います)


一瞬の間。


(ただ、野良達のおかげで自宅担当の立場を得られたのは僥倖でした)


天井に、目が増える。


(多少の便宜をはかっても良いほどです。しかし、べつに寂しかったわけではないです)


梁がくす、と鳴る。


すねこすりが丸まる。


座敷童子はため息をつきながらも、


小さく笑った。


(……よろしく頼むわ、警備担当)


こうして。

この部屋にはまた怪異が増えた。


彼女は知らない。自分の一人暮らしが、わりと厳重に守られていることを。


でも。

「なんか最近、部屋の治安いいな〜」と笑う。

それでいい。


一人暮らしには憑き物がつきもの。ただし。無断入居はお断り。

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