表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/17

おじさん、エルフになる

「おじさ~ん、良いお話があるんだけどぉ~」


 ニッコリニコニコ怪しい笑顔で近づいてくる涼子。


 俺たちは今、涼子が紹介してくれたアルバイト先の酒屋の前にいる。


 涼子は学校帰りに寄ってくれて、リヤカー付きの自転車をガーコガーコと漕いでいた。


「なんだ」


「おじさんのチャンネルって、全く人気ないじゃん」


「人の言葉は凶器になるってことを、高校生になったら学ぼうな」


 俺のチャンネルが人気ないってのは本当だけどさ、言っていいことと悪いことってあるじゃん?


 これは言ったら俺が憤死するやつね。


「だからさ、私とコラボ動画作ろうよ」


「コラボかぁ……」


「嫌なの?」


「嫌っていうかさ。ほら、キラキラスリースターズの別垢って呼ばれると困るし……」


 登録者数が少なくても、俺が頑張って育てたアカウントだ。


 ここでキラスタの裏垢だとか、作業用チャンネルだとか言われそうで怖い。


「それはさすがにないでしょ。第一、おじさんがメインなんだし、私はサブに回るし」


「まぁ、それならいいかな……」


 このコラボが美味い話だってことは分かる。


 しかし、それと同時に食われそうな感じがして怖いんだ。


 ……いや、待てよ。


 食われる以上に、食ってしまえばいいのでは?


「そうか。徹底的に利用すればいいのか」


「ちょっとちょっと。めちゃくちゃ怖い言葉が聞こえたんだけど!?」


 おっと、考えが口に出てしまったようだ。


「なに、心配するな。ちょっと、涼子に負担をかけるだけだ」


「多少の労働は仕方がないと思うけど、動画に必要なこと以上はやんないよ?」


 俺の笑顔に、「何を企んでいる?」と言いたげな表情で、涼子は少しずつあとずさりしていく。


「涼子って、弓道部なんだよな?」


「そうだけど、最近はサボり気味なんだよねー。ダンジョンが楽しくてさ」


「エルフって、弓が得意じゃん?」


「エルフってアニメとかのアレ?」


「そうそう。そんな感じ」


「涼子もエルフ並みに弓が扱えたら楽しいと思わない?」


「えっ? そんなことができるの!?」


 美味い話に食いついてきた。


「お前も、エルフにならないか?」


「なる」


 即答だった。



「こんにちは、エルフでっす」


「はぁッ!?」


 カメラの前、挨拶した瞬間の開口一番に隣の女エルフから怒声が上がった。


「ちょっと、ちょっと、おじさん。『エルフです』ってなに!?」


 そう。


 隣に居る女エルフは姿変化の魔法がかけられた腕輪でエルフの姿に変わっている涼子で、今さっき挨拶した男のエルフが俺だ。


 腕輪は、俺の能力――アイテムボックスの奥に沈めてあったものだ。


 普段は出さないし、出したくもない。面倒が増えるから。


 ただ、今日は企画上、必要だった。


 だから俺は、いつもの癖で、ポケットを探るフリをしてから、そっと取り出した。


 取り出したこと自体は、涼子には隠し持ってたように見えただろう。


 まさに、両者ともエルフになった形だったが、挨拶が気に入らなかったのか、涼子がキレた。


「エルフはエルフだろ……」


「じゃぁ、おじさんは挨拶する時に『こんにちは、人間です』って言うの!?」


「言わないよ」


「でしょお!?」


 さっきまでコスプレではなく、魔法でエルフになったことで顔もそちら寄りになって喜んでいたのに、このキレっぷりだ。


 しかし、服まで変わらないのでブラウンのビキニ&パレオを持って来てもらって、なんちゃってエルフ装束にしてもらった。


 そして、場所はダンジョンの十階層で撮影を行っているため、先ほどの挨拶まで終始、「こっ、こんなところ見られたら恥ずかしい」とか周りに人が居ないか心配していたというのに。


「じゃぁなんで、『エルフです』ってふざけた挨拶にしてるの!?」


「なら、どんな挨拶なら良いんだ?」


 「そうね……」と涼子はアゴに手をやり考える。


「私は、モーラトニの森の恵みを受けるウルララ族の者であり、アレッザにしてイコラスの子、ウィニタ」


 バーンと効果音が付きそうな構えで自己紹介をする涼子エルフ。


「うっ、ふふふ——」


 「どうよ」と言わんばかりの真っ赤なドヤ顔をする涼子。


「涼子は、長耳族風の自己紹介のことを言っていたのか」


「なが……えっ?」


「ちなみに、俺の自己紹介のやり方はハイエルフな」


「なっ!?」


 さっきまで赤面ドヤ顔をしていたのに、今度は頬っぺたを膨らまして怒り顔になった。


 忙しい奴だ。


「なっ、なんなの、『俺の自己紹介はハイエルフな』って。私だってハイエルフの自己紹介なんだから」


「いや、違うぞ。ハイエルフは高慢ちきだから、自分たちか、それ以外って考え方しかできない。だから、自己紹介もどこの誰とかではなく『ハイエルフだ』しか言わねぇんだ」


 それを踏まえて、涼子の丁寧にどこの森に住んで、どの一族に属していて、途中はよくわからなかったけど、誰の子供かと紹介するのは長耳族のやり方だ。


 あいつら、認めた相手には丁寧な対応をするが、丁寧過ぎて逆に面倒くさい紹介をしてくるんだよな。

 しかも、間違うと結構な確率で怒るし。


「だから、俺の『エルフでっす』は正しいって訳だ」


「ぐっ……なんでこう、おじさんの言うことって一見、正しいように聞こえるんだろう……」


 それは、俺が経験豊富だからだぜ。


 でもそれは言わない。


 だって、言っても張り合ってきて面倒くさいことになるだろうから。


「納得いったところで、さっさと撮影しようか。今回は、『簡単にエルフになろう』がテーマだ」


 「ぐぬぬ」と可愛い顔を悔しさに歪めている涼子に言うと、すぐに涼子の頭に疑問符が浮かんだ。


「エルフになるって、こういうことじゃないの?」


「それなら、ただの変装じゃないか。ただ顔を変えるだけなら、別に弓道部の涼子にこだわらないわけだし」


 いや、食いつきが絶対に他の二人よりも良いって考えて、今回の話に誘ったんだけど。


「ほほう。弓道部の我の力が欲しいと」


「弓が引ければ、誰でもいいんだけどな」


「んな!?」


 「きぃぃぃ」と怒り出す前に、涼子の目の前に弓を二つ出現させる。


 一つは、簡素な作りの弓らしい弓。


 そしてもう一つは、持ち手の部分が細くなっているところ以外、装飾とカラーリングが派手な弓を取り出す。


「あなたが選ぶのは、この質素な弓ですか? それとも、この豪奢な弓ですか?」


 ニッチャリと笑って涼子の前に差し出すと、涼子はすかさず豪奢な方に手を伸ばそうとして、ふとその手を止めた。


 そして、俺の顔をじっと見つめる。


「ホラ、どうした? 早く取ってくれよ」


 質素な弓か豪奢な弓。


 金の斧と銀の斧の一説のようなやり取りだが、それは涼子も分かっているだろう。


 迷っている涼子を、ニチャッとした顔で嗤っていると、涼子は俺の顔をキッと睨みつけ質素な弓を手に取った。


「それで良いのか?」


「良いもなにも、こっちがハイエルフの弓ね。ハイエルフは自然に生きる者。豪奢な弓は、違うわね」


 ドヤッ、と笑う涼子。


「じゃぁ、これ」


 そう言い、矢を渡すと、涼子は何も言わずに弓につがえ射る。


 さすが、最近は行っていないとはいえ、経験者である。


「高慢ちきが、質素な矢を——」


「あーーーーーー! あーーーーーーー!!!! 聞こえないぃぃぃぃぃぃぃい!!!!」



 目出度く長耳族となった涼子は、俺が渡した弓の弦をビンビンと軽くはじきながら歩く。


「不思議……。今日初めて手にしたのに、すっごく手に馴染む」


 「鳴弦の儀でもしているんだろうか?」と思っていたけど、どうやら違ったようだ。


 まぁ、実際、その役割もあったのか、さっきからモンスターに出会うことなく歩けてはいるんだけど。


「そんで、これから何すんの?」


「やっぱり、エルフ×弓と言ったらゴブリン射るしかないだろ」


「ゴブリン! やたっ」


 ゴブリンといえば、初心者冒険者に狩られているイメージだけど、あいつら一個体だけだったらそれほど問題ないけど、集団戦ともなれば手慣れた冒険者でないとかなり危険だ。



「あっ、いたいた!」


 涼子が指差した先に、ゴブリンが三体。


 こちらに気づいていないようで、何かを漁っている。


 涼子が弓を引き絞る。


 キリリィ、というよく聞いた音が静かな森に流れる。


 小さく照準を修正すると矢から指を離した。


 キュンッ、という音と共に弓から飛び出した矢は弧を描き、先に居るゴブリンの頭を貫いた。


「よしっ!」


 仲間を射殺されて慌てるゴブリン共だったが、その後、二射、三射と涼子は全てのゴブリンを射殺した。


「すごいな、ウィニタ。初めてでここまで上手くやれるとは思ってなかったぞ」


「……誰って?」


「お前だ、お前。自分で名乗っていただろう」


「あっ、そうだった」


 ここは編集点に使うか……。


 涼子の設定は練りに練ったものだと思っていたけど、もしかしたらアレを即興でやったのかもしれない。

 変な才能が開花しないか怖い。


「やっぱり、腕が良いと違うねぇ」


 自画自賛しながら、涼子は次の獲物を探し始めた。


「ねぇ、本当に撃てれば良いって言ってたの? この弓、めちゃくちゃ手に馴染むんだけど」


「風の精霊の加護が付いてるからな。射程も威力も、普通の弓とは段違いだ」


「すごい……。私、エルフの才能あるかも」


「弓道部なんだから、当たり前だろ」


「県大会予選落ちでっす!」


 ブイブイ、とピースサインを振りまいてくる。


「なら、センスが良いんだな」


「マジで!? エルフの才能ある!?」


 わーい、と喜ぶ涼子。


 本当になんというか、最初と性格違うのな。



「あっ、誰か来る」


 ゴブリンを十体ほど狩ったところで、涼子が足を止めた。


 足音が近づいてくる。


 三人組。冒険者だ。


「おい、お前ら!」


 先頭の男が、声を荒らげた。


「さっきのゴブリン、俺たちが追ってたやつなんだけど!」


 横取りした、と言いたいらしい。


 だが、俺たちが狩ったゴブリンは、明らかに「追われている」様子ではなかった。


「えっ、そうなの?」


 涼子が、困った顔で俺を見る。


「知らんな」


「知らんじゃねぇよ! 魔石、返せ!」


 男が、詰め寄ってくる。


「おじさん、どうする?」


 涼子が、小声で聞いてきた。


「放っておけ。相手にするだけ無駄だ」


 俺は、男の前に立った。


「悪いが、俺たちは正当に狩っただけだ」


「嘘つくな!」


「証拠は?」


「……」


「無いなら、話は終わりだ」


 男の顔が、赤くなる。


「舐めてんのか!」


 男が、剣を振り上げた。


 ——遅い。


 俺は、男の手首を掴み、捻り上げた。


「ぐあっ!」


 剣が、地面に落ちる。


「暴力沙汰は、管理局に報告される。免許、取り消されたくなければ帰れ」


 こういう手合いは、一度、しっかりと分からせておく必要がある。


「……ちっ」


 男は、仲間を連れて去っていった。


 去り際にこちらを睨んできたが、俺は無視した。


「すごい! すっごいよ、おじさん!」


 涼子が、目を輝かせている。


「だからと言って、撮影中に暴れるなよ?」


「分かってるって!」


 分かってないだろうな、と思いながら、俺は腕輪を外した。


「えー、もうちょっとやりたかったのに」


「また今度だ」


「次は、いつやる?」


「……考えておく」


「考えておく、はイエスの意味だからね!」


 涼子が、にやりと笑う。


 ——否定できない。


 俺の「考えておく」が、結局イエスになることは、自分でも分かっている。


 エルフ。


 まさか、そんな格好で活動することになるとは。


 でも、悪くない。


 この子と一緒にいると、なんだか楽しい。


 それだけは、確かだった。


評価・感想ドシドシお願いします。

たくさんいただけると、やる気がめちゃくちゃあがるし、とても嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ