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第4話 めでたしめでたし

あらすじ

イワン・ベトロフは請願審査局の仕事を上手く進めた。

 

「イワンさん、お帰りなさい!」


 就業時間になって、勤め先の役所から家に帰った私を、エプロン姿のアーニャが笑顔で出迎えてくれた。


「ただいま、アーニャ」


「仕事はどうでした?」


「冒険者をしていた時よりも簡単だったよ。課長にも褒められた」


「それは良かったです」


 彼女は、私の成功をわが事のように喜んでくれている。


「でも、気になることがあってさ。どうも私を市に推薦してくれた人がいるらしいんだ。心当たりがまったくなくて」


 私がそう話すと、アーニャは少し口ごもるような顔を見せる。


 少し経って、何かを決心したかのように口を開いた。


「……実はそれについて、お話があって」


「ん?」


「実は……父に推薦状を書いて、送ってもらったんです」


「え?どういうことだい?」


「父は割と高い地位にいる党員で、イワンさんのことを手紙に書いて送ったら同情して、イワンさんを市に推薦してくれたらしいんです」


「そうなの!?」


 連邦において、高位の党員からの推薦は、何事にも増して力を持つ。アーニャのお父さんがどれほどの地位にいるかは知らないが、パーティ(党)を追放された私を市の職務にねじ込めるのだ。かなりの力を持っているのだろう。


「ごめんなさい、黙っていて……」


「いや、いいんだ。俺をここに置いてくれただけでなく、仕事の世話までしてくれるなんて……アーニャには感謝してもしきれないよ」


 私にとっては、逆に感謝するべきことだった。もし、アーニャがいなかったら、私は家を追われ、浮浪市民として逮捕され、そのまま極北の開拓村にでも送られていたかもしれない。今があるのは、アーニャのおかげとも言えた。


「でも、アーニャのお父さんには、一度挨拶しないといけないな。時間を見つけて、お父さんと会うことって出来る?」


「うーん、難しいと思います。今は首都のほうで仕事に当たっていますから」


 連邦の首都からパブロヴィチグラード市までは運河を使った船便でも数日は掛かる。すぐに会いに行くのはたしかに無理がある。


「そうなのか。じゃあ、手紙でも送った方がいいな。お父さんの名前と職場を教えてくれる?」


「父の名前はアレクセイ、アレクセイ・ロゴフスキーです」


「アレクセイさんね」


(ん? どこかで聞いたことがあるような?)


「父は今、最高指導委員会で職務に当たっています」


「最高指導委員会ね……え、最高指導委員会?」


 最高指導委員会は、連邦を支配する党、その頂点に位置する、実質的な連邦の最高意思決定機関である。


「はい」


「……もしかして、アレクセイさんて、パブロヴィチグラード市党委員会第一書記のアレクセイ・ロゴフスキー……?」


「そうです」


 アレクセイ・ロゴフスキー、パブロヴィチグラード市党委員会第一書記、連邦最高指導委員会常任委員、党内序列第8位。連邦を支配する高級党員たち、いわゆる『赤い貴族』たちの中でも最上位に位置する人間の1人であり、連邦の最高指導者であるパブロヴィチの最側近としても知れられていた。


 あまりの高官が出てきたことに、私は言葉が出ないほどに驚いた。


「私はパブロヴィチグラード市内の監査委員会で事務職をしています。イワンさんがパーティ(党)を不当に追放された経緯についても父に話してあります」


「………………」


「第233支部は以前から支部長の力が強かったようで、父も何とかしたいと考えていたようです。既に、何か手を打っているようでしたが、イワンさんがこうなったのも自分に責任の一端がある、と言っていました」


「そ、そうだったのか」


 ようやく立ち直った私は相槌を打つ。


「もしかして、私を泊めてくれたのもその関係で?」


 アーニャが第一書記の娘で、かつ監査委員会で働いていたなら、証人として私には価値がある。私に構ってくれたのはそのためだろうか、そんな疑念が頭をよぎる。


「それは違います! それだったら、別の住居を準備していました。私がイワンさんを泊めたのは、その……私がイワンさんのことを気にしていたからです!」


 アーニャは泣きそうな目をしている。


「ありがとう」


 私はそういうと、彼女を抱きしめた。彼女も抱きしめ返してきた。




「そういえば、イワンさん。結婚式の日取りはどうします?」


 アーニャは甘えるように私の胸板に頬ずりしながら、聞いてきた。


 私の就職が決まり、アーニャの家から退去することが決まった日、私はアーニャに夜這いを掛けられた。私は最初は固辞しようとしたが、その場で目を潤ませた彼女に「ずっと好きでした」と告白され、そのまま関係を持ってしまった。


 そして今、私は市職員用のアパートに移ることなく、アーニャの家で暮らし続けている。


「いや、まずはアレクセイさんに一度話をしてから」


 最高指導委員会の委員の娘と関係を持ってしまったのだ。早く伝えないと、大変なことになりかねない。


「父なんか後で良いんですよ。私から手紙を送っておけば大丈夫ですって」


 アーニャは軽く言っているが、絶対によくない。


「いや、そんなわけにも……」


「どちらにせよ、イワンさんには責任を取ってもらうんですから、それが早くなるか遅くなるかの違いだけですよ」


「う、うん」


 結局、アーニャに押し切られてしまった。だが、私も責任を取らなくてはならない。アーニャに隠れて私からも手紙を送ろうと思った。





 その後、サボタージュ行為でマリンコスキーは内務警察に連行され、多くの不正行為が明らかになったことで、彼は銃殺となった。更に第233支部では人事の大幅な刷新が行なわれ、多くの冒険者が党員としての能力に欠如していると資格を剥奪され、その体力を生かして鉱山勤務に回された。


 パブロヴィチグラード市党第一書記アレクセイは、イワンの党員資格および冒険者資格が不当に剥奪されたものだとして名誉を回復し、冒険者組合に対して第233支部の新書記に彼を推薦した。書記となったイワンは支部の建て直しに奔走、その功績を認められ、後に冒険者組合北西管区統括支部書記を経て、冒険者組合中央書記局第一書記にまで成り上がることになる。



これで完結です。


いつもオチの部分を適当にやってしまう……


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