優しい人・和也
お盆休みは実家に帰った。
この街に帰るといろいろなことを思い出す。
子供のころ飼っていた犬のロンの具合が悪く、いつもは怒られる夜遅い時間まで家族で起きて様子を見ていたこと。
中学生のときに好きだった奈都子ちゃんとドキドキしながら一緒に帰ったこと。
高校のとき 祖父が亡くなったときの朝焼けがとても綺麗だったこと。
あれから何年経っただろうか。
実家に帰る度に母に嫁はまだかと言われる。
あの頃の記憶の彼女はどうしているだろうか。
ハナちゃんは優しい人だった。
ハナちゃんは優しすぎた。
優しすぎたから怒らせてみようと思った。
けれどハナちゃんは怒ることなく優しく包んでくれた。
優しい人には優しい人が合うだろうと思うようになり いつの間にか手を離してしまった。
手を離したとき 最後に ばか って言われた。
いつも褒めてくれる彼女がこんなことを言うのは最初で最後だった。
お盆休みも残り2日というところで早々と帰ることにした。
毎年帰るが故にやることもなかった。
また来年、と 駅のホームに別れを告げ電車に乗ると 向かい側のホームに懐かしい顔が。
ハナちゃんだった。
彼女は隣の人と話していた。
優しい笑顔だった。
隣の人も まさに お似合い というような 男の人だった。
よく見ると二人とも同じ指輪をしていた。




