優勝
福岡大会予選決勝
博多ドンタクス vs 小倉ギオンタイコーズ
――23-23、そこから先の意地
タイムアウト明け。
15-9からじわじわ差を詰めてきた博多ドンタクスは、もう別のチームのように見えていた。
押されていたはずなのに、今は相手のほうが落ち着きを失い始めている。
ギオンタイコーズの強打一辺倒のリズムに、ドンタクスはもう飲まれていなかった。
ゆるいサーブ。
深い返球。
前へ落とす球。
左右への散らし。
“強い”に対して、“上手く揺らす”で対抗する。
その手応えが、選手たちの表情を変えていた。
⸻
第1セット終盤
スコアは 16-13。
ギオンタイコーズのタイムアウト明け、相手はすぐに修正してきた。
今度は簡単に崩れない。
ゆるいサーブには前へ入り、短い返球には二人目が素早くカバーする。
さすが強豪。対応力が高い。
実況
「さあ、ギオンタイコーズも立て直してきました! やはり県内屈指の実力、簡単には崩れません!」
解説
「はい。ただ、先ほどまでと違うのは、もうドンタクスが相手のペースに完全には乗せられていないことです。ここからは“どちらが我慢できるか”ですね」
次の一本。
ギオンタイコーズの速いサーブ。
みゆが低く受ける。
真理子が走って整える。
千景が打つ――が、相手ブロックに触れて外へ。
一点。
16-14。
続くラリー。
里香がワンタッチを取り、由紀が転がりながら拾う。
美鈴が二段を高く返す。
相手の強打。
志穂が体を張る。
長いラリーの末、最後はまどかがコースに落とした。
16-15。
客席が大きく沸く。
光子が立ち上がる。
「一点差見えてきた!」
優子が拳を握る。
「行ける! これ行ける!」
⸻
だが、ギオンタイコーズもさすがだった。
次の一本では、高い打点から鋭いクロス。
17-15。
さらに次も、速い組み立てからの強打。
18-15。
少しだけ、会場の流れが戻りかける。
その時、美鈴がコートの中央で両手を叩いた。
「まだある!」
「ここで止まらんよ!」
その声が、また全員の顔を上げさせた。
由紀が頷く。
「オッケー、切らん!」
真理子も叫ぶ。
「一本ずつ!」
⸻
次のサーブはドンタクス。
今度は真理子。
速い球ではなく、やや深く、レシーバーの間へ落とす。
相手が迷う。
返球がやや甘い。
「チャンス!」
ほのかが声を出す。
美鈴がつなぎ、千景が強打と見せて前へ落とす。
ぽとり。
18-16。
実況
「決めたー! 博多ドンタクス、またしても相手の逆を突く一打!」
解説
「これですね。もう“打てる時は全部強打”じゃない。見て、選んで、崩している。非常にいい判断です」
続く一本。
ギオンタイコーズが今度はフェイントで来る。
だが、美鈴が読んでいた。
前へ一歩。
低く入る。
ぱしっ。
「ナイス!」
そのボールを真理子がつなぐ。
里香が速いテンポで押し込む。
18-17。
会場の熱が、さらに上がる。
⸻
ここからは、本当に一進一退だった。
19-17
19-18
20-18
20-19
相手が離す。
ドンタクスが食らいつく。
由紀の粘り。
みゆの低い守備。
さよりの落ち着いた前衛。
はづきの思い切り。
明美とさやかのベンチからの声。
全部が、少しずつ点差を削っていく。
そして――
ギオンタイコーズのアタックが、わずかにアウト。
20-20。
⸻
実況
「追いついたー!! 博多ドンタクス、ついに20点で並びました!!」
解説
「いやあ、見事です。15-9からここまで持ち直すとは。しかも勢いだけじゃない。崩しと我慢、両方できています」
実況
「会場の空気も一気に変わりました!」
解説
「はい。ここからは技術だけじゃなく、最後は気持ち。どちらが“取り切るか”です」
⸻
だが終盤は、さらに厳しかった。
ギオンタイコーズも意地を見せる。
エースが決める。
こちらも返す。
また向こうが押し込む。
21-20
21-21
22-21
22-22
ラリーの一本一本が、重くなる。
客席も息を飲む。
徳島支部のリモート画面の向こうでも、由理恵も香苗も、インコ一家までじっと画面を見つめていた。
せきちゃん閣下が小さな声でつぶやく。
「……せきちゃん、どきどき」
せいちゃん姫も今は黙っている。
⸻
そして、ついに。
ギオンタイコーズの速いサーブ。
みゆが下げられながらも上げる。
真理子が走る。
少し乱れた。
でも、美鈴が後ろから声を飛ばした。
「上げてよか! つなげばよか!」
真理子が高く二段を上げる。
千景が打つ。
相手が拾う。
今度は強打。
由紀が弾くように上げる。
里香が押し込む。
ワンタッチ。
ボールが浮く。
最後は、美鈴。
前に詰めたその一歩で、相手前方の空いたコースを見た。
大振りではない。
でも迷いのない押し込み。
ぽとり。
23-23。
⸻
会場が、割れんばかりに沸いた。
実況
「並んだーーー!! 23-23!! 博多ドンタクス、ついに追いついた!!」
解説
「すばらしい……! この一点は大きいです。技術だけではありません。ドンタクスが完全にこの勝負を“我慢比べ”に持ち込みました」
優馬が立ち上がる。
光子も優子も叫ぶ。
春介が思わず手すりを握る。
春海の目も真っ直ぐコートに向いている。
美鈴は、叫ばなかった。
でも、強く拳を握った。
「よし、ここから」
そのひと言だけで、全員の顔が引き締まる。
⸻
23-23からの死闘
ここからは、まさに意地と意地のぶつかり合いだった。
24-23 ギオンタイコーズ
相手エースの強打。
ブロックの上から叩き込まれる。
実況
「ギオンタイコーズ、先にセットポイント!」
解説
「ここで決めにきましたね。さすがです」
コート内で、ドンタクスの輪ができる。
美鈴が全員を見た。
「まだ終わっとらん」
「うちら、ここまで何で来た?」
「つないで、崩して、諦めんで来たやろ」
「もう一本、同じことするだけたい」
「はい!」
⸻
24-24
サーブは由紀。
深い。
相手がやや崩れる。
返球は高い。
「チャンス!」
真理子が整える。
はづきが、今度は強打ではなくブロックの指先を狙って抜く。
タッチアウト。
24-24。
実況
「追いついた!! セットポイントをしのいだ、博多ドンタクス!」
解説
「見事です。冷静でしたね。力みがない」
⸻
25-24 ドンタクス
続く一本。
長いラリー。
みゆが拾う。
さよりが押さえる。
里香が触る。
ボールは何度もコートを行き来する。
最後、相手が焦って打った強打が、わずかにネットにかかる。
25-24。
今度はドンタクスのセットポイント。
会場が立ち上がりそうになる。
光子が叫ぶ。
「一本!! 一本たい!!」
優子も両手を握る。
「ここで取れ!!」
⸻
25-25
だが、ギオンタイコーズも終わらない。
速攻。
完璧なタイミング。
こちらのブロックがわずかに遅れる。
25-25。
実況
「いやあ、簡単には終わりません! 決勝にふさわしい大接戦!」
解説
「はい。もうここは技術と同じくらい、胆力が問われています」
⸻
26-25 ドンタクス
次の一本。
美鈴のサーブ。
ここでまた――
ゆるい。
でもただのゆるさではない。
相手の構えた“速さ”を、また一拍外す絶妙な軌道。
レシーブがわずかに乱れる。
返球が浅い。
真理子が前へ。
ほのかがつなぐ。
千景が打つと見せて、また落とす。
ぽとり。
26-25。
ドンタクス、再びセットポイント。
美鈴が小さく息を吐く。
「……あと一本」
⸻
27-25 ドンタクス
会場中が立ち会う中、最後の一本が始まる。
由紀のサーブ。
相手がしっかり返す。
強打。
みゆが低く入る。
真理子がつなぐ。
志穂が押し返す。
また相手の強打。
里香がワンタッチを取る。
ボールが高く浮く。
「美鈴!」
その声で、美鈴が走る。
前へ出る。
いや、ただ前へではない。
相手ブロックと後衛の間、そのわずかな空間を見ていた。
真理子が、信じて上げる。
美鈴が、打つ。
強打ではない。
でも、逃げない。
狙い澄ました、まっすぐな一打。
ボールは、相手コートの真ん中へすとんと落ちた。
床に響く音。
そして、一拍遅れて――
試合終了の笛。
27-25。博多ドンタクス、第1セット奪取。
⸻
実況席
実況
「決まったあああああ!!! 博多ドンタクス!! 15-9からの大逆転!! 27-25で第1セットをもぎ取りましたーーー!!」
解説
「信じられません……いや、本当に見事です。崩し、我慢、判断、そして最後の胆力。全部ありました」
実況
「会場が大歓声に包まれています!」
解説
「キャプテン小倉美鈴、すばらしいセットの締め方でしたね。自分で決めきったのもそうですが、ここまでの流れをずっと作り続けていました」
⸻
コートの中では、全員が一気に飛びつくように集まった。
「よっしゃあああ!!」
由紀が美鈴の肩を叩く。
真理子が叫ぶ。
みゆが珍しく大きく笑う。
里香も、志穂も、千景も、みんな声を上げる。
美鈴は、輪の真ん中で笑っていた。
汗だくで、息を切らしながら、それでも真っ直ぐに。
「まだ一つたい!」
「でも……よく取った!!」
⸻
第2セットへ向けて
ベンチに戻ると、コーチがすぐに全員を見る。
「よし」
「でも、次は相手も確実に対策してくる」
全員の顔が引き締まる。
「さっきの“ゆるいサーブ”“散らし”“前後左右”は、もう一回目ほど効かんと思え」
「向こうは修正してくる」
「やけん第2セットは、そのさらに先を行く」
志穂がうなずく。
「つまり、“崩しを読まれたあとの崩し”ですね」
「そうたい」とコーチ。
「相手が前へ詰めたら、今度は奥」
「散らしを警戒したら、逆に速い一本を混ぜる」
「同じ手を同じタイミングで繰り返さんこと」
みゆが静かに言う。
「我慢比べ、続きますね」
美鈴はタオルで汗を拭いながら、全員を見た。
「向こうは絶対、“最初の逆転は事故やった”と思いたいはずたい」
「やけん、第2セットの最初で教えようや」
「これは事故やない」
「うちらが取りに来とる試合やって」
その言葉に、全員が頷いた。
由紀が笑う。
「キャプテン、今日仕上がりすぎやろ」
真理子も笑う。
「ほんとにね」
美鈴は少し照れながらも、はっきり言った。
「まだ終わっとらん」
「ここからが、本当の勝負たい」
⸻
客席では、優馬が静かに息を吐いた。
「……すごい試合やな」
春介が目を輝かせる。
「おばあちゃん、完全にキャプテンやん」
春海も小さく頷く。
「うん。もう“人を惹きつける”とか、そういう言葉だけじゃ足りんね」
「流れごと持っていく人や」
徳島支部の画面の向こうでは、せきちゃん閣下が大興奮していた。
「せきちゃん、どんたくす!!」
せいちゃん姫まで珍しく大きな声を出す。
「今のはすごかったたい!」
あわまるも羽をばたつかせる。
「今日は閣下よりドンタクスが熱い」
「比較対象にするな!」と香苗が笑い、また一つ、会場の外でも笑いが起きる。
⸻
こうして、第1セットは博多ドンタクスが奪った。
それはただのセット先取ではなかった。
強豪相手に、押され、苦しみ、それでも考えて、耐えて、ひっくり返したセット。
その意味は大きかった。
だが、戦いはまだ終わらない。
むしろここから、ギオンタイコーズは本当の強さを見せてくる。
そして美鈴は、キャプテンとして、
その先の戦いにも立ち向かうことになる。
⸻
福岡大会予選決勝
博多ドンタクス vs 小倉ギオンタイコーズ
――第2セット、そして第3セットへ
第1セットを27-25でひっくり返した博多ドンタクス。
だが、ベンチにもコートにも、浮かれた空気はなかった。
むしろ全員がわかっていた。
ここからのギオンタイコーズが、本当に怖い。
県内強豪。
修正力が高く、崩れたまま終わるチームではない。
第1セットでやられたことを、そのまま繰り返されるはずがない。
⸻
第2セット開始
笛が鳴る。
立ち上がりから、やはりギオンタイコーズは変えてきた。
ゆるいサーブへの前入りが速い。
短い返球には迷いがない。
前後左右への揺さぶりにも、最初の一歩が合っている。
さらに――
こちらが散らそうとしたボールを、今度は逆に速い展開で打ち切ってくる。
実況
「さあ、第2セット。やはりギオンタイコーズ、しっかり修正してきました!」
解説
「はい。第1セット終盤にやられた“テンポのずらし”に対して、受ける位置も意識も明らかに変わっています」
「しかも今度は、速い展開を混ぜてドンタクスに考える時間を与えていません」
序盤は一進一退。
3-3
5-5
7-7
点差は開かない。
だが、ラリーの濃さは第1セット以上だった。
みゆが飛ぶ。
由紀が転ぶ。
真理子が走る。
千景が打つ。
里香が止める。
さよりがつなぐ。
そしてその全部の真ん中で、美鈴の声が飛び続ける。
「焦らんでよか!」
「相手、速さで来とるよ!」
「一回止めよう、うちらのリズムに戻すよ!」
⸻
だが、中盤に差しかかるころ、ギオンタイコーズが一歩前に出た。
強打のコースが厳しくなる。
こちらのレシーブの間を抜かれる。
二段トスにまでしっかりブロックがついてくる。
12-9。ギオンタイコーズ。
会場に、少しだけ不穏な空気が流れる。
実況
「ここでギオンタイコーズ、3点のリード!」
解説
「第1セット終盤で崩された分、第2セットはかなり“整理されたバレー”をしていますね。ドンタクスとしては、ここで慌てたくないです」
コート内でも、少しだけ選手たちの表情が固くなる。
その時だった。
美鈴が、ラリーの合間に全員へ向けて、はっきり言った。
「ねえ、みんな」
「今、向こうが強いのはわかる」
「でも、“強いから押されとる”んやなくて、“向こうの速さに付き合いすぎとる”だけたい」
全員が顔を上げる。
「付き合わんでよか」
「うちらが合わせるんやない」
「うちらの間合いに、一回引き戻そう」
志穂が、はっとしたように頷く。
「……そうか」
真理子も息を吐く。
「速さに焦って、こっちまで急ぎよった」
由紀が拳を握る。
「よし、一回切るよ」
⸻
次の一本から、ドンタクスはまた変えた。
速く来る相手に対して、無理に速く返さない。
一回高く、深く、整える。
そこから、打つ時だけ打つ。
美鈴が拾う。
真理子が高く上げる。
千景が奥へ深く送る。
相手が下がる。
次は由紀のサーブで前へ落とす。
テンポを一度「こちら側」に戻す。
すると、じわじわ効いてきた。
12-10
12-11
13-12
また点差が縮まる。
⸻
実況
「博多ドンタクス、再び流れを変えてきました!」
解説
「大きいですね。今度は“ゆるい球そのもの”ではなく、“間合い”を変えています。相手の速さに全部付き合わない。これが効いています」
実況
「そしてキャプテン小倉美鈴、やはり声が出ています!」
解説
「はい。今のドンタクスは、美鈴の一言で“何をするチームか”がそろうんです。そこが非常に強い」
⸻
終盤。
スコアは19-19。
ここからまた、1点が重くなる。
相手のサーブ。
みゆが低く入る。
真理子が整える。
はづきが打つ。
ブロックに当たって外へ。
19-20。ドンタクス逆転。
客席が大きく沸く。
だが次の一本、ギオンタイコーズもすぐ返してくる。
20-20。
さらに相手のエースが決める。
21-20。
由紀がすぐさまサーブで崩す。
21-21。
もう完全に、気持ちの勝負だった。
⸻
ここで、美鈴がサーブ前に全員を見た。
「ここから二本たい」
「取られても下向かん」
「先に折れたほうが終わるよ」
その言葉が、まっすぐ全員に入る。
里香が短く言う。
「折れん」
さよりが頷く。
「つなぐ」
真理子が笑う。
「じゃあ、取り切るよ」
⸻
22-21 ギオンタイコーズ
速いコンビで抜かれる。
22-22 ドンタクス
千景がクロスではなくストレートへ決める。
23-22 ギオンタイコーズ
フェイントで前を落とされる。
会場がざわつく。
ギオンタイコーズ、セットポイントまであと二つ。
だが、美鈴は表情を変えなかった。
「まだある」
「次、前も後ろも見といて」
「一回、絶対拾ける」
次の一本。
相手の返球がふわりと前へ落ちる。
まさに、今さっきやられた形。
でも今度は、美鈴が飛び込んだ。
腕が床すれすれに入る。
ぱしっ。
上がる。
「ナイス!!!」
真理子が走る。
二段。
由紀が押し込む。
23-23。
⸻
実況
「出たーーー!! 小倉美鈴、読み切った!!」
解説
「これは大きいです! さっきやられた形を、次の一本で取り返した。しかもセット終盤で。キャプテンとして完璧な仕事です」
⸻
その後も互いに譲らない。
24-23 ドンタクス
相手の乱れた返球を、里香が押し込む。
24-24 ギオンタイコーズ
ブロックアウトを取られる。
会場中の視線が、コートの一点一点に吸い寄せられる。
そして次の一本。
美鈴のサーブ。
速くもなく、遅すぎもしない。
相手の中間を裂くような一本。
返球が少しだけ浮く。
「来た!」
真理子。
はづき。
強打かと思わせて、ブロックの横を抜く。
25-24。ドンタクス。
続く最後の一本。
長いラリー。
由紀が拾う。
みゆがつなぐ。
美鈴がカバー。
真理子が高く上げる。
千景が、最後は迷わず打ち抜いた。
どんっ。
床に落ちる。
25-23。第2セット、博多ドンタクス。
⸻
実況席
実況
「決めたーーー!! 第2セットも博多ドンタクス!! 25-23!!」
解説
「見事です……! 第1セットとはまた違う勝ち方でしたね」
「相手の修正に対して、さらにその上を行った。“合わせる”のではなく、“戻す”ことで勝ちました」
実況
「これでセットカウント2-0! 博多ドンタクス、全国へ王手です!」
⸻
ベンチに戻ると、全員の息は荒かった。
肩も上下している。
足も重い。
でも、目だけは強かった。
コーチが短く言う。
「よし」
「でも、次が一番きつい」
全員が頷く。
「2-0は、一番危ない点差や」
「向こうは全部出してくる」
「うちらは、“あと一つ”を意識しすぎたら崩れる」
美鈴が静かに言った。
「じゃあ、“あと一つ”って思わんどこうや」
「次の一点、次の一本、それだけたい」
由紀が笑う。
「それで二セット取ってきたしね」
真理子も頷く。
「うん、それでいこう」
⸻
第3セット
予想通りだった。
ギオンタイコーズは、すべてを出してきた。
サーブの質がさらに上がる。
強打の角度が鋭くなる。
ブロックの寄りも早い。
ベンチも大きく声を出している。
最初から、激しい打ち合いになった。
実況
「さあ第3セット! ギオンタイコーズ、ここが正念場です!」
解説
「はい。もう余力を残している場合ではありません。ドンタクスとしては、“決め急がないこと”が大事になります」
序盤から点の奪い合い。
4-4
7-7
10-10
どちらがリードしても、すぐに追いつかれる。
もはや勢いだけではない。
技術と気迫の削り合いだった。
⸻
中盤、ギオンタイコーズが一歩出る。
14-12。
続けて、速攻。
15-12。
客席がざわつく。
春介が思わず言う。
「……やばい?」
春海はすぐに首を振った。
「いや、まだ」
「でもここ、踏ん張りどころやね」
コートの中で、美鈴がすぐに全員を集めた。
「ここ、慌てると一気に行かれる」
「でも逆に、ここで止めたら向こうが焦る」
「次の三本、死守しよう」
「点差やなくて、“向こうに気持ちよく連続させん”」
志穂が頷く。
「一本切ります」
里香が低く言う。
「前、触る」
みゆが構える。
「後ろ、拾います」
⸻
そこから、まさに死闘だった。
15-13
由紀の粘りから千景が決める。
16-13
相手の強打が決まる。
16-14
真理子のサーブで崩す。
17-14
また相手が押し込む。
17-15
はづきが打ち抜く。
18-15
ギオンタイコーズの速攻。
……離されそうで、離されない。
切れそうで、切れない。
そして何より、美鈴が崩れなかった。
苦しい時ほど、声が落ちない。
「よかよ!」
「一本返したら変わる!」
「まだ終わっとらん!」
その声に、全員がまた戻る。
⸻
終盤。
ついにドンタクスが追いつく。
20-20。
会場が揺れる。
実況
「並んだーーー!! 第3セットも20点で並びました!!」
解説
「これはすごい……! ギオンタイコーズ、何度も突き放しかけましたが、ドンタクスが全部食らいついている」
⸻
そこからは、本当に互いに譲らなかった。
21-20 ドンタクス
里香のブロックポイント。
21-21 ギオンタイコーズ
エースがクロスを決める。
22-21 ドンタクス
千景が前へ落とす。
22-22 ギオンタイコーズ
フェイント返し。
23-22 ドンタクス
美鈴のサーブで崩す。
23-23 ギオンタイコーズ
二段を打ち切られる。
24-23 ドンタクス
はづきのブロックアウト。
会場中が立ち上がりかける。
マッチポイント。
だが、ギオンタイコーズも執念を見せる。
24-24。
続く一本。
長い、本当に長いラリー。
みゆが拾い、由紀がつなぎ、美鈴がカバーし、真理子が整え、また相手が強打。
何度も何度も続く。
最後、志穂が押し返したボールが、わずかにライン外。
24-25。ギオンタイコーズ、セットポイント。
一瞬、空気が止まりそうになる。
その時。
美鈴が、はっきりと言った。
「まだ向こうは終わらせきれてない」
「やけん、うちらにもまだある」
「ここまで来たら、苦しいのは相手も同じたい」
その声が、落ちかけた空気をつなぎ止めた。
⸻
次の一本。
相手サーブ。
厳しい。
だが、みゆがきれいに上げる。
真理子が走る。
高い二段。
千景が打つ――と見せて、また短く落とす。
ぽとり。
25-25。
⸻
実況
「しのいだーーー!! 博多ドンタクス、土壇場で追いつく!!」
解説
「落ち着いています……! ここまで来ると、もう技術以上に“どう終わらせるか”の勝負です」
⸻
さらに。
26-25 ドンタクス
由紀のサーブで相手を崩し、返球ミスを誘う。
だがまた。
26-26 ギオンタイコーズ
執念の押し込み。
会場の熱が、限界まで上がる。
⸻
そして、最後の二本。
27-26 ドンタクス
美鈴のレシーブから始まる。
真理子が整え、里香が強打――ではなく、ブロックの手前へ落とす。
相手が飛び込むが届かない。
一点。
マッチポイント。
28-26 ドンタクス
最後の一本。
会場中が息を止める中、サーブは由紀。
深い。
相手がしっかり返す。
強打。
みゆが上げる。
真理子が走る。
美鈴が「ここ!」と叫ぶ。
上がったボールへ、千景が助走を入る。
今度は迷わない。
思いきり打ち抜く。
どんっ。
ブロックを抜け、床に突き刺さる。
笛。
28-26。第3セット、そして試合終了。
博多ドンタクス、決勝制覇。
⸻
実況席
実況
「決まったああああああーーー!!! 博多ドンタクスーーー!!! 第3セット28-26!!! 第2セット25-23、第3セット28-26!!! 小倉ギオンタイコーズとの死闘を制し、福岡大会予選突破!! 全国への切符をつかみましたーーー!!」
解説
「すばらしい、本当にすばらしい試合でした……!」
「第1セットの逆転、そして第2セットの修正合戦、第3セットの執念。どのセットも意味が違いました」
「でも全部に共通していたのは、博多ドンタクスが最後まで“自分たちのバレー”を失わなかったことです」
実況
「キャプテン小倉美鈴、まさにチームを引っ張りました!」
解説
「はい。目立つ一本だけではありません。声、判断、空気、粘り、そのすべてでチームの中心でした」
⸻
コートの中では、全員が一気に崩れるように集まった。
「やったああああ!!」
由紀が泣きながら笑う。
真理子が美鈴に抱きつく。
みゆまで目を潤ませている。
志穂は息を切らしながらも、珍しく大きく笑っていた。
里香も、千景も、はづきも、さよりも、明美も、さやかも、全員が声を上げる。
その輪の真ん中で、美鈴は泣き笑いになっていた。
「……取った」
「ほんとに、取った……!」
優馬が客席で静かに目をぬぐう。
光子と優子はもう叫びながら飛び跳ねている。
美香もアキラも、春介も春海も、塁も環奈も、誰もが立ち上がって拍手していた。
徳島支部の画面の向こうでは、せきちゃん閣下が大暴れしていた。
「せきちゃん、どんたくす! せきちゃん、どんたくす!」
せいちゃん姫まで大きく羽を広げる。
「今日は認めるたい! すごかった!」
あわまるが言う。
「今日は閣下の体重より、ドンタクスの勝利が上」
「比較すな!」と香苗が笑い、由理恵も涙をぬぐいながら拍手する。
⸻
この日、博多ドンタクスはただ勝ったのではなかった。
強豪相手に、押され、揺さぶられ、修正され、それでも最後まで折れずに勝ち切った。
その意味は、とても大きかった。
そして、小倉美鈴は、この試合で完全に証明した。
ただの人気キャプテンではない。
ただの象徴でもない。
勝てるチームを、本当に勝たせるキャプテン。
それが、小倉美鈴だった。




