受け皿作り、本格始動
コートをひらく会議
――受け皿づくり、本格始動
2048年12月中旬。
冬の冷たい空気が博多の街を包むころ、爆笑発電所本社の会議室には、いつもよりずっと多くの人が集まっていた。
今日はただの打ち合わせではない。
博多ドンタクスを、地域のバレー受け皿としてどう機能させていくか。
その本格会議だった。
長机の上には、資料、図面、スケジュール案、ホワイトボード。
そして、なぜか大量のお茶と差し入れ菓子。
会議の中心にいるのは、美鈴、真理子、由紀、志穂、里香、さよりたちドンタクスの面々。
だが、今日はそれだけではない。
美香。
アキラ。
はなまるツインズの八幡ひなたと枝光みずほ。
春介と春海。
塁と環奈。
さらに、爆笑発電所のスタッフや、顔を出したタレントたちまで、会議室のあちこちにいる。
もはや、ただの「会議」ではなく、本社らしい全方位巻き込み型未来設計会になっていた。
⸻
最初に口火を切ったのは、美鈴だった。
「みんな、今日はありがとう」
「この前、“ここで続けたい”って言ってくれた子が出た」
「それが、うちらにとって大きかった」
「やけん今日は、“なんとなく手伝う”やなくて、“本気で受け皿を作る”前提で話したか」
会議室が静かになる。
その空気を受けて、真理子が資料を開いた。
「まず確認です」
「正式な地域移管のスタートは、2049年4月から」
「それまでは、今の二面体育館の空き時間を使った準備・体験運用」
「でも春からは、本社体育館の使用が前提になる」
ここで、美香が前のモニターを操作した。
画面に映し出されたのは、爆笑発電所本社体育館の完成イメージ図だった。
ざわっと声が上がる。
⸻
本社体育館の完成イメージ
美香が説明する。
「今、拡幅工事が進んどるのは第一体育館」
「ここは完成したら、バレーコート4面取れる設計」
「さらに、もともとある第二体育館も使えるけん、合わせて運用すればかなり大きい」
アキラが補足する。
「第二体育館は多目的運用がしやすい設計やけん、バレー専用に固定せず、基礎練習・フィジカル・初心者クラスにも回せる」
「つまり第一体育館を試合・実戦寄り、第二体育館を育成と基礎寄りに分けられる」
由紀が思わず言う。
「……いや、これもう市の総合体育館レベルやん」
志穂が資料を見ながら頷く。
「しかも無償提供方針」
「普通に考えて、破格です」
みずほがしみじみと言う。
「そりゃ人気出るやろねぇ」
ひなたも笑う。
「バレーできて、設備よくて、しかも爆笑発電所の本社。そりゃ子どもも親も期待するたい」
⸻
会議は、そこから一気に具体的な話に入っていった。
ホワイトボードに、学年別・年代別の区分が書き出される。
美鈴がマーカーを持つ。
「まず、全員まとめては無理」
「やけん、最低でも分ける」
志穂が順番に整理する。
「小学生低学年」
「小学生高学年」
「中学生」
「高校生」
里香がさらに加える。
「初心者と経験者も、できれば分けたい」
「同じ学年でも差が大きい」
さよりが静かに書き足す。
「男女も、最初は完全分離より“共通基礎+一部専門”の形が現実的かもしれませんね」
真理子がまとめる。
「つまり――」
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仮チーム構想(案)
1.キッズ基礎クラス
小学校1〜3年中心。
ボールに慣れる、体の使い方、楽しく動くこと重視。
2.ジュニア育成クラス
小学校4〜6年。
レシーブ、サーブ、つなぎの基礎。
試合感覚の入口も作る。
3.中学ベーシッククラス
部活移管の受け皿。
基礎の再構築と、学校差の吸収を目指す。
4.中学アドバンスクラス
経験者向け。
戦術理解、連携、ポジション別練習。
5.高校育成クラス
部活継続や競技志向の子向け。
指導者不足の補完も担う。
6.合同強化日
学年混合で、実戦・練習試合形式。
将来的には選抜チーム編成も視野。
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塁が腕を組む。
「これ、かなりちゃんとしてきたな」
環奈が頷く。
「うん。もう“手伝い”じゃないね」
「普通にクラブ運営の骨組みやん」
春介が資料を見ながら言う。
「でもこれ、現場の人足りる?」
その一言で、会議室が少し静かになる。
そう。
場所があっても、人がいなければ回らない。
美鈴が言う。
「そこが次の問題たい」
すると、美香がすぐ口を開いた。
「人なら、案外おるよ」
全員が振り向く。
「ドンタクスのメンバーだけじゃなくて、爆笑発電所の中にもスポーツ経験者たくさんおるやん」
「バレー経験者はもちろん、体幹指導、音楽リズム指導、子どもの場づくり得意な人、いろいろおる」
「全部を“バレー技術指導者”で埋めんでも、支える側の役割は作れる」
アキラも頷いた。
「安全管理、受付、導線整理、ウォームアップ、メンタルサポート」
「そういう補助線があるだけで、コーチは本来の指導に集中できる」
ひなたがぱっと顔を上げる。
「はなまるツインズも、そのへん手伝えるよ」
「子どもが最初に緊張せんように、空気つくるの得意やけん」
みずほも笑う。
「むしろ、そこが本業みたいなもんたい」
由紀が大きく頷く。
「それ、強い」
「最初の“怖い”がなくなるだけで全然違うもん」
⸻
そこへ、会議室の後方から、のんびりした声が入った。
「あと、誰かしらタレントが顔出すだけで、来る側のやる気も変わると思うよー」
見ると、差し入れを持ってふらっと入ってきたタレントの一人が、何食わぬ顔で座っていた。
「あっ、また増えた」と春海。
優馬が苦笑する。
「この会議、ほんと誰かしら来るな」
美鈴は少し頭を抱えたが、否定はできなかった。
実際、それは大きい。
ここに来れば、バレーができる。
ちゃんと教えてもらえる。
そして、運がよければ――
爆笑発電所の有名タレントに普通に会える。
それは子どもたちにとって、ただの“おまけ”ではない。
努力の先にある、ちょっとした夢や憧れのご褒美だ。
塁が笑いながら言う。
「人気が出ないわけがないよな、これ」
環奈も肩をすくめる。
「うん。だって環境として強すぎるもん」
「設備よし、指導よし、雰囲気よし、タレントまで来る」
「そりゃ親も安心するし、子どもも燃えるよ」
春介が真顔で言う。
「ほぼ“努力したらたまに奇跡起きる体育館”やん」
春海も頷く。
「しかも割と高頻度で」
「言い方!」と美鈴がつっこみ、場が和む。
⸻
ここでいったん休憩になった。
お茶が配られ、差し入れの菓子が開けられる。
モニターでは徳島支部とのリモートがつながっている。
由理恵と香苗が画面の向こうで手を振る。
「そっち盛り上がってますねー」
「いやもう、会議というより祭りですよ」と真理子。
その瞬間、画面の下からぴょこん、とせきちゃん閣下が現れた。
「せきちゃん、かいぎ!」
続いて、せいちゃん姫、しらゆき、きびまる、あわまるも並ぶ。
優馬が笑う。
「出た、徳島支部の休憩枠」
せきちゃん閣下が胸を張った。
「せきちゃん、しどうしゃ!」
せいちゃん姫が即座に切る。
「あんたはまず座るの一秒、立つの一分を改善してから言いんしゃい」
会議室がどっと湧く。
春介が手を叩く。
「まだそこいじられよる!」
あわまるも追撃する。
「最近、ちょっと痩せたと思ったら、今日はまた丸い」
きびまるが無邪気に言う。
「かっか、きょうもふっくらー」
「言うな!」と香苗が笑う。
由理恵が慣れた手つきで小さな体重計を持ってくる。
「じゃあ、休憩時間恒例、量りますか」
「恒例なん!?」と明美。
せきちゃん閣下は、露骨に後ずさる。
「……せきちゃん、だいじょうぶ」
せいちゃん姫がぴしゃり。
「その言い方の時は大体だめやろ」
全員爆笑。
結局、閣下は体重計に乗せられる。
ぴっ。
香苗が表示を見て笑う。
「……あ、今日は前回比プラス1グラム」
「増えとるやないか!」と優馬。
美鈴も腹を抱える。
「もう誤差の世界やろ!」
せいちゃん姫は冷静だった。
「誤差でも増えたら増えたたい」
あわまるも頷く。
「積み重ねがメタボを作る」
春海が真顔になる。
「言葉が重い」
春介がぼそっと言う。
「会議休憩で一番学びがあるの、徳島支部かもしれん」
また大きな笑いが起きた。
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休憩が終わり、会議は後半へ。
今度は、指導体制の話になった。
真理子がホワイトボードに縦線を引く。
「メイン指導」「補助指導」「安全管理」「受付・保護者対応」
役割を分けて書き出していく。
指導体制(叩き台)
•小倉美鈴
全体統括・キッズ〜中学基礎クラス中心。
子どもへの声かけ、空気づくり、育成方針の柱。
•古賀真理子/鶴田ほのか
セッター系基礎、つなぎと判断指導。
•高山由紀/内藤みゆ
守備・レシーブ基礎。
一歩目、姿勢、粘り強さ。
•城戸里香/江上さより
ブロック、前衛連携、ポジション理解。
•相良千景/藤崎まどか/坂口はづき
攻撃導入、助走、スパイクの入り口。
積極性を引き出す役も兼ねる。
•井上明美/森本さやか
雰囲気づくり、緊張緩和、練習補助。
初参加の子の心理的ハードルを下げる。
•美香・アキラ・はなまるツインズ・他タレント陣
特別講師/イベントサポート/場づくり補助。
モチベーション形成、表現力、リズム感、コミュニケーション支援。
•春介・春海ほか次世代メンバー
年齢の近い立場からのサポート、見本役、交流役。
環奈が感心したように言う。
「これ、かなりバランスいい」
「“勝つためのバレー”だけじゃなく、“続けられる環境”を作ろうとしてるのが見える」
塁も頷く。
「そこが強いよな」
「競技だけじゃなく、居場所として成立させるってことやろ」
美鈴は静かに言った。
「うん」
「勝てる子だけが残る場所にはしたくない」
「もちろん上を目指す子も支えたい」
「でも、“好きやけん続けたい”って子が、ちゃんと残れる場所にしたい」
その言葉に、会議室の空気が少し引き締まる。
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最後に、今後の方針が確認された。
春までの方針
•2049年4月正式移管を目標に、現体育館で段階的な合同練習を継続
•年代別・レベル別の仮運用を試し、課題を洗い出す
•爆笑発電所本社体育館の完成後は、二棟運用を前提に本格展開
•指導者と補助者の研修・役割確認を進める
•保護者説明会、参加登録、時間割整備を年明けから本格化
•タレント・支部・地域スタッフとも連携し、「競技+居場所+夢」の環境を整える
真理子が資料を閉じた。
「……こんな感じでいこうと思います」
誰も異論はなかった。
むしろ、全員の顔に「いよいよ始まる」という覚悟が出ていた。
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会議が終わり、みんなが少しずつ立ち上がる。
そのとき、美鈴は窓の外を見た。
冬の夕方。
工事中の体育館の向こうに、薄い夕焼けが落ちている。
まだ完成していない。
まだ準備中だ。
でも、もう見えている。
そこで走る子どもたち。
笑う声。
悔しがる顔。
励ます大人たち。
たまにふらっと現れるタレントたち。
徳島支部から騒がしいインコ一家。
全部ひっくるめて、きっとここは、ただの練習場じゃなくなる。
美香が隣に立った。
「お母さん」
「ん?」
「なんか、すごいことになってきたね」
美鈴は少し笑った。
「うん」
「でも、不思議と怖さより楽しみのほうが大きい」
アキラも後ろから頷く。
「それだけ、もう土台ができ始めてるってことですよ」
そこへ光子と優子も入ってくる。
光子がにやりと笑う。
「で、春からはもっとタレントも顔出すけんね」
優子も続ける。
「子どもたち、ますます気合い入るばい」
美鈴が即座につっこむ。
「そこを主軸にするな!」
みんなが笑う。
けれど、その笑いの奥で、確かに全員がわかっていた。
人気が出ないわけがない。
だってここには、
コートがある。
仲間がいる。
教えてくれる大人がいる。
夢を近くに感じられる空気がある。
そして何より――
「続けたい」と言った子の声を、本気で受け止める人たちがいる。
そのことが、何より強かった。
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こうして、受け皿づくりの本格会議は終わった。
それは単なる運営会議ではなかった。
誰かの“好き”を、諦めさせないための設計図。
その最初の一枚が、確かにここで描かれたのだった。
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博多ドンタクス、走り出す
――キャプテン美鈴と、コートの外へ広がる夢
2049年春。
博多の桜が、風に揺れ始めるころだった。
地域の子どもたちを受け入れるクラブとしての準備が進む一方で、
博多ドンタクスそのものにも、大きな転機が訪れていた。
それは――
全国ママさんバレー出場権をかけた、福岡大会予選への出場。
しかも今回、チームは正式に、
小倉美鈴をキャプテンとしてその大会に臨むことになった。
⸻
体育館の控室。
新しくそろえられた博多ドンタクスのユニフォームが並んでいる。
胸には、しっかりと入ったチーム名。
背中には、それぞれの番号。
派手すぎず、でも一目で「ドンタクスだ」とわかるデザイン。
そのユニフォームを手にした美鈴は、しばらく何も言わなかった。
由紀がにやっと笑う。
「どうしたと、美鈴さん。似合いすぎて言葉失った?」
美鈴は苦笑する。
「いや……」
「まさかこの歳で、こんな本格的なユニフォーム着て大会に出る日が来るとは思わんかった」
真理子が穏やかに言う。
「でも、来たやん」
「しかもキャプテンで」
その言葉に、美鈴は少しだけ目を伏せ、それから笑った。
「……責任重大やね」
志穂がすぐ返す。
「今さらです」
「もう十分、背負ってます」
里香も腕を組んで頷く。
「うん。今のドンタクスで、美鈴さんがキャプテンじゃないほうが不自然」
さよりがやわらかく付け加える。
「技術だけじゃなくて、人がついてくるんですよね」
「そこが大きいです」
美鈴は少し照れて頭をかいた。
「そんな大層なもんやないよ」
すると明美が笑いながら言う。
「いやいや、“そんな大層なもんやない”って言う人に限って、人が集まるとよ」
「それ、褒めよると?」
「めっちゃ褒めよる」
⸻
大会当日。
福岡大会予選の会場には、思っていた以上に人が集まっていた。
もちろん、対戦チームの関係者もいる。
家族もいる。
地域の人たちもいる。
だがその中に、明らかに「博多ドンタクスを見に来た」人たちがいた。
理由は単純だった。
まず、爆笑発電所とのつながり。
そして、美鈴の存在。
さらに、光子や優子、美香たちがときどき応援に顔を出すことで、話題性も十分だった。
でも、それだけではない。
一度練習や試合を見た人たちは、みんな口をそろえて言うのだ。
「あのチーム、なんか応援したくなる」
それが、美鈴の持つ力だった。
声の出し方。
仲間へのまなざし。
失敗した選手への寄り添い方。
一本決まった時の、全員を巻き込む喜び方。
派手すぎない。
けれど、確実に目を引く。
そして、見ている人の心をつかむ。
それが、小倉美鈴というキャプテンだった。
⸻
予選初戦。
立ち上がりから、博多ドンタクスは落ち着いていた。
真理子のトスが安定する。
由紀とみゆの守備が粘る。
里香とさよりの前衛が機能する。
千景、まどか、はづきがしっかり決める。
そして、その全部をつないでいるのが、美鈴の声だった。
「次いけるよ!」
「今のよかった!」
「落ち着いて、まだある!」
一本落としても、空気が沈まない。
ミスしても、顔が下を向かない。
その積み重ねが、相手にはじわじわ効いていった。
春介が観客席で腕を組む。
「……おばあちゃん、やっぱすごいね」
春海も静かに頷く。
「うん。目立つプレーだけじゃないのに、見てるとわかる」
「チームの真ん中にいる」
優馬は、その言葉を聞いて少しだけ目を細めた。
「昔から、ああいう人やった」
「自分が前に出すぎんでも、気づいたら周りがついてくる」
⸻
博多ドンタクスは、その試合をしっかり勝ち切った。
続く試合も、簡単ではなかった。
流れが悪くなる場面もあった。
体力的にきつい時間帯もあった。
でも、そのたびに美鈴は声を出した。
「まだ終わっとらん!」
「一本ずついこう!」
「うちらのバレー、忘れんで!」
その声に、チームが戻る。
流れが立て直される。
会場の空気まで動いていく。
そして気づけば、博多ドンタクスは順調に勝ち進んでいた。
⸻
試合後、会場の外で起きたのは、少し予想外のことだった。
「すみません……」
「ドンタクスのユニフォームって、買えたりしませんか?」
最初にそう声をかけてきたのは、若い女性だった。
手にはスマホ。
頬は少し赤くなっている。
「レプリカでもいいんです」
「めっちゃかわいくて……」
「あと、今日見てて、すごく欲しくなって……」
その横から別の声も飛ぶ。
「私も欲しいです!」
「応援用のタオルとかないですか?」
「キャプテンの背番号入り、作ってほしい!」
「ドンタクスのロゴ、めっちゃ好きです!」
美鈴たちは目を丸くした。
由紀がぽかんとする。
「……え、売る前提で考えたことなかった」
明美が笑う。
「いやでも、これは来とるね」
志穂はすでに頭を切り替えていた。
「需要、ありますね」
「かなり本気で」
そこへ、応援に来ていた光子がにやりと笑った。
「だったら、やるしかなかろうもん」
優子も腕を組む。
「爆笑発電所、こういうの得意やけんね」
美香も頷く。
「スポーツチームのグッズ展開、普通に事業化できると思う」
アキラが冷静に言う。
「むしろ今やらないともったいないですね」
「人気が立ち上がる初動が一番強い」
美鈴はまだ少し戸惑っていた。
「いや、でも……ほんとにそこまで……」
すると、春海が真顔で言った。
「おばあちゃん、自覚なさすぎ」
「人気、かなり来とるよ」
春介も頷く。
「うん。“人を惹きつける感じ”がちゃんとある」
「試合見たら、そりゃ欲しくなると思う」
美鈴は両手で顔を覆った。
「やめて。孫からそういう分析されるの一番照れる」
⸻
その後、話は一気に進んだ。
爆笑発電所本社では、すぐに臨時会議が開かれた。
テーマは明確。
「博多ドンタクスを中心としたスポーツ事業の立ち上げについて」
会議の結果、爆笑発電所内に新たに――
爆笑発電所 スポーツ事業部
が発足することになった。
これは単なるグッズ係ではない。
•チーム運営
•大会出場支援
•ユニフォーム・レプリカ制作
•タオル、Tシャツ、応援グッズ販売
•地域クラブ運営支援
•指導者の雇用と育成
•将来的な競技部門の拡張
まで含む、かなり本格的な部門だった。
美香が説明資料をめくりながら言う。
「音楽と笑いだけじゃなく、スポーツも“人を支える文化”として扱う」
「これが爆笑発電所の次の柱になる」
光子が頷く。
「バレーだけやない」
「でも、最初の象徴は間違いなくドンタクスたい」
優子も続ける。
「しかも、美鈴キャプテンっていう“顔”があるのが大きい」
美鈴はまたもや止めに入る。
「いや、そこはチーム全体の力で――」
志穂が即座に切る。
「もちろん全体です」
「でも、入口になる顔があるのも事実です」
「そこまで冷静に認めんでよ!」
会議室が笑いに包まれた。
⸻
そして、ここからが本当に大きかった。
スポーツ事業部の発足に伴い、
監督やコーチは、爆笑発電所スポーツ事業部の職員として正式採用されることが決まった。
これまで「協力者」「支援者」に近かった立場が、
職業としてのスポーツ支援になる。
さらに。
博多ドンタクスの選手についても、
希望者は爆笑発電所の従業員として雇用し、給料を支払う
という方針が打ち出された。
由紀が目を丸くする。
「……え、選手にも?」
美香が頷く。
「うん。全員一律じゃなく、働き方や担当に応じてやけど」
「競技だけじゃなく、地域クラブ運営、イベント協力、広報、指導補助も含めて仕事として位置づける」
真理子が静かに息を吐く。
「すごいね……」
「“好きでやる”から、“続けられる仕事”になるんや」
さよりがやわらかく言った。
「それ、すごく大きいです」
「生活と競技が切り離されすぎると、続けたくても続けられなくなる人が多いですから」
美鈴は、その話を聞きながらしばらく黙っていた。
事故を経て、仕事を続け、バレーに戻った自分。
もしここに、「好きなことを続けながら働ける場所」があったら。
どれだけ救われる人がいるだろう。
「……すごいね」
その一言に、全部がこもっていた。
⸻
最初のうち、博多ドンタクスの給料や運営費は、当然ながら会社本体からの持ち出しだった。
ユニフォーム製作費。
移動費。
大会参加費。
グッズ初期制作費。
指導者人件費。
決して小さい額ではない。
だが、予想を超える勢いで、事態は動いていった。
ユニフォームレプリカが売れる。
タオルが売れる。
応援Tシャツが売れる。
アクリルキーホルダー、ロゴ入りバッグ、応援うちわ、マフラータオル――
次々と商品化され、次々に反応が返ってくる。
特に人気を集めたのが、
•美鈴キャプテンモデル
•博多ドンタクス公式レプリカユニフォーム
•「次いこ!」応援タオル
•ドンタクスロゴ入り練習Tシャツ
だった。
春介が売上資料を見ながら言う。
「……これ、普通にすごくない?」
春海も真顔で頷く。
「うん。最初は“応援グッズ”やったのに、今やちゃんとブランドになりかけとる」
優馬は少し呆れたように笑う。
「美鈴、お前……ほんとにすごいことになってきたな」
美鈴は困ったように笑った。
「いや、私だけやないって」
「でも……ありがたいね」
そして、数か月後。
経理報告の場で、ついにその言葉が出た。
「……現時点で、ドンタクス関連の売上だけで、チーム運営費の大半をカバーできています」
「このまま推移すれば、グッズ・ユニフォーム収益のみでの独立採算運営も十分可能です」
会議室が静まり返った。
由紀が口を開く。
「……ほんとに?」
明美が目を丸くする。
「そんなことある!?」
志穂は数字を見て、しっかりうなずいた。
「ありますね」
「むしろ、ここからさらに伸びる可能性もある」
美香が笑う。
「つまり、“会社に支えてもらうチーム”から、“自分たちで回せるチーム”になり始めてるってこと」
その瞬間、美鈴は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
ただ好きで始めたバレー。
仲間と笑いながら続けてきたバレー。
それが、誰かの夢を支え、地域の受け皿となり、仕事を生み、チームを自立させる力に変わっていく。
そんな未来、昔は想像もしなかった。
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その夜。
小倉家のリビングには、いつものように笑い声があった。
徳島支部ともリモートでつながっている。
せきちゃん閣下が、なぜか得意げに叫ぶ。
「せきちゃん、きゃぷてん!」
せいちゃん姫が即答する。
「まず止まり木の副キャプテンから始めんしゃい」
あわまるも続く。
「体重管理班でもいい」
「そこ役職にするな!」
全員大笑い。
その笑いの中で、美鈴はふとテーブルの上に置かれた、自分の背番号入りレプリカユニフォームを見た。
ファンがほしいと言ってくれた。
応援したいと言ってくれた。
着たいと言ってくれた。
その一枚の重みが、今日は少し違って見えた。
美鈴はやわらかく笑う。
「……責任、重たかね」
優馬が隣で湯のみを置く。
「でも、お前なら背負える」
春介が言う。
「うん。おばあちゃん、人を惹きつけるもん」
春海も静かに続ける。
「しかも、惹きつけたあと放り出さん」
「そこが強い」
美鈴は照れたように笑いながら、少しだけ目を潤ませた。
「……ありがと」
そしてその視線の先には、もう一つの未来が見えていた。
子どもたちが集まるコート。
ドンタクスの試合。
新しい指導者たち。
売れていくユニフォーム。
支えられる地域。
広がるスポーツ事業部。
博多ドンタクスはもう、ただのママさんバレーチームではなかった。
一つの文化になり始めていた。
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