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爆笑三姉妹〜陽翔・結音誕生から、燈真・灯乃、彩羽・悠翔誕生まで  作者: リンダ


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ドンタクス、地域クラブ化へ始動


第7話


ドンタクス、地域クラブ化へ始動


――春を待つコートで


2048年11月下旬。

博多の空気には、秋の終わりと冬の気配が混じり始めていた。


博多ドンタクスの練習後。

ネットを外し、ボールを片付け、床のモップがけを終えたころ、真理子がコート中央に立った。


「みんな、ちょっとよか?」


自然と輪ができる。

美鈴もタオルを首にかけたまま、その中に入った。


真理子は資料を持っていた。

市のスポーツ振興課と学校側、そして地域団体との調整がまとまりつつあることを伝える紙だ。


「正式に、学校の部活動から地域クラブへの移管が始まるのは――2049年4月から」


全員が静かに聞く。


「それまでは今の二面の体育館の空き時間ば使って、体験練習と準備期間にすることになった」

「いきなり全員受け入れるのは無理やけん、少しずつ、段階的に」


由紀が腕を組む。


「まあ、そりゃそうよね」

「小学生から高校生まで、一気には無理たい」


志穂が資料をのぞきこむ。


「まずは希望者から、放課後と休日の一部を使って合同練習……」

「なるほど。移管前の慣らし運転ですね」


「そういうこと」と真理子。


里香が現実的に言う。


「最初のうちは、教える側も覚えんといかんね」

「年齢差、かなりあるやろうし」


美鈴はその言葉に、静かにうなずいた。


小学生と中学生では違う。

中学生と高校生でも違う。

体力も、技術も、理解の速さも、怖さの感じ方も違う。


でも――


「やりがいは、ありそうやね」


美鈴がそう言うと、みんなが少し笑った。


「園長先生の顔になっとる」と明美。

「でも半分はプレーヤーの顔もある」とさより。

「つまり両刀」と千景。

「言い方!」と美鈴。


笑いが起きる。

けれど、その笑いの奥に、少しずつ本気の覚悟が育ち始めていた。



数日後。

最初の「体験・合同練習の日」がやってきた。


場所は、いつもの二面体育館。

まだ広くはない。

小学生も中学生も高校生も全部入るには、明らかに足りない。


だからこの日は、学年ごとに時間を区切っての試験運用だった。


午前中は小学生。

午後は中学生。

夕方以降に高校生。


体育館の入口には、少し緊張した顔の子どもたちが集まり始めていた。


ボールを抱えている子。

保護者の後ろに半分隠れている子。

見るからに「うまそう」な子。

逆に、初めての場所に固まっている子。


そして、その前に立つ博多ドンタクスの面々。


今日はもう、ただのママさんバレーのチームではない。

「受け皿」の最初の日だった。



午前・小学生の部


美鈴は笛を首から下げ、コート中央に立った。


「はい、みんな集まってー!」


園長先生らしいよく通る声が、体育館に広がる。

小学生たちがぱたぱた集まってくる。


その様子を見て、由紀が小声で言う。


「やっぱ美鈴さん、このへん強いね」


志穂も頷く。


「完全に職業スキルが乗ってますね」


美鈴は子どもたちを見回して、にっこり笑った。


「今日は上手い下手は気にせんでよかよ」

「まずは“ここに来てよかった”って思って帰るのが目標たい」


その一言で、少し空気がやわらぐ。


真理子が低学年グループを受け持ち、里香とさよりが高学年グループへ。

由紀とみゆは守備の基本姿勢。

ほのかはトスの入り口。

千景、まどか、はづきはスパイク助走の導入。

明美とさやかは、緊張をほぐしながら全体を回る。


それぞれ、ちゃんと役割が見えていた。



最初はボール投げからだった。


低学年の男の子が、思いきり天井に向かって投げる。


「うわっ、高っ!」


「バレーやなくてロケットやん!」と明美。


別の子は、ボールをつくたびに自分が跳ねる。


「なんで自分まで跳ぶとー!」とさやか。


小さな女の子がレシーブ姿勢でしゃがんだまま、なぜか横に移動せずその場で回転し始める。


「待って待って待って、何その技!」と千景。


体育館は、早くもカオスだった。


美鈴は笑いをこらえながら、一人ひとりに声をかける。


「いいよいいよ、まずは触ることが大事」

「そうそう、腕はくっつけて」

「うん、今の当たり方よかった!」


最初はぎこちなかった子どもたちの顔が、少しずつほぐれていく。



そこへ、一人の小学校高学年の男の子が、少し不満そうな顔で言った。


「でも、オレ、もっと強い練習したい」

「こんなん、簡単すぎる」


場の空気が少し止まりかける。


美鈴はその子の前にしゃがみ込んだ。

目線を合わせる。


「名前、なんていうと?」


「……航太」


「航太くんね」

「強い練習したいって思うの、よかことたい」

「でもな、強い選手って、簡単なことを雑にせん人なんよ」

「レシーブの構え、声、足の一歩目、そういう“地味なこと”をちゃんとする人が、最後に強くなる」


航太は少しだけ口を結ぶ。


美鈴は優しく続けた。


「今ここにいる子は、みんなスタートが違う」

「でも、“できるようになりたい”って気持ちは同じやろ?」

「その気持ちを笑わん人が、本当に強い人たい」


周りにいた大人たちが、静かに聞いていた。


航太は少しだけ視線を落として、それから小さく言った。


「……わかった」


「よし。じゃあまず、その一歩目から見せてみ?」


すると、その子はさっきよりずっと真剣な顔で構え直した。


由紀が小声でつぶやく。


「……うまいね」


志穂も頷く。


「教えるの、完全に向いてますね」


美鈴は聞こえていないふりをしたが、少しだけ耳が赤かった。



午後・中学生の部


午後になると空気が変わった。


中学生たちは、子どもと大人のちょうど間にいる。

素直な子もいれば、少し斜に構える子もいる。

自信満々な子もいれば、失敗をひどく怖がる子もいる。


春介と春海も、この時間は見学に来ていた。


春介が壁際にもたれて言う。


「うわ、午前と全然雰囲気違うね」


春海も頷く。


「中学生は“見られ方”気にする年頃やけんね」


実際、その通りだった。


レシーブ練習でも、ミスした子がすぐに「すみません」と言う。

サーブミスでも、必要以上に顔が曇る。

周囲を気にする視線が見える。


美鈴は、その空気を見てすぐに全員を集めた。


「はい、一回ストップ!」


中学生たちが集まる。


「ここ、謝る練習するとこやなかよ」

「失敗したら、次どうするか考える場所たい」


静かになる。


美鈴は続けた。


「ミスはする。絶対する」

「でも、そのたびに縮こまっとったら、次の一本も取れん」

「“すみません”の代わりに、“次!”って言ってみ?」


何人かが顔を見合わせる。


美鈴は笑った。


「ほら、やってみようや」

「せーの」


少しばかり照れながらも、声が上がる。


「……次!」


「もう一回!」


「よし、それそれ!」


その瞬間、体育館の空気が少し軽くなった。



ここからは、各担当が本格的に分かれて指導に入る。


由紀とみゆはレシーブの基本。

「低く」「でも固まりすぎん」「一歩目を止めん」。


ほのかと真理子はトスとつなぎ。

「持ち上げるんやなくて、運ぶ」「声を先に出す」。


里香とさよりはブロックとコースの考え方。

「飛ぶだけじゃなくて、相手を見る」。


千景、まどか、はづきは攻撃の入り口。

「助走のリズム」「打つ前の目線」「怖がって腕だけ振らない」。


明美とさやかは、ずっと笑いを混ぜながら場を回していた。


「今の顔、“点取ったのに職員室呼ばれた人”みたいになっとるよ!」

「ナイス! その一本、夕飯三杯いける!」


中学生たちの緊張が、少しずつ笑いに溶けていく。



その様子を見ていた春介が、ぽつりとつぶやいた。


「おばあちゃん、完全に中心やね」


春海も静かに言う。


「うん。自分がプレーするだけじゃなくて、“みんなを動かす人”になっとる」


そこへ優馬が後ろから来て、二人の肩のあたりに立った。


「そうたい」

「美鈴は昔から、人を前に向かせるのがうまかった」


春介が少し笑う。


「家ではバッグと戦ったり、階段と交渉したりしよるのにね」


優馬が吹き出す。


「言うな、それ」


春海も真顔で続ける。


「でも、そういう人のほうが子どもは安心するんかも」

「完璧すぎんけん」


優馬は、その言葉に少しだけ目を細めた。


「……そうかもしれんな」



夕方・高校生の部


高校生たちは、さらに空気が違った。


技術がある。

そのぶん、悩みも深い。


「学校ではうまい子ばっかり使われる」

「監督がおらんけん、何が正解かわからん」

「強い学校に行った子だけが得するのはずるい」


そんな声が、休憩中にぽつぽつ出てきた。


真理子が静かに聞き、志穂が要点を整理し、里香が技術面の話をし、由紀が場を和らげる。


そして美鈴は、最後にこう言った。


「不公平って感じるのは、ちゃんと本気やけんたい」

「でもね、本気の子に“場所がない”ってのは、やっぱりおかしい」

「やけん、今ここを作ろうとしとる」

「まだ狭いし、時間も足りんし、完璧やない」

「でも、2049年4月からは、ちゃんと広がる」


高校生たちが顔を上げる。


「爆笑発電所の本社体育館、拡幅工事中やろ」

「完成したら、一棟4面」

「それが2棟」

「そこを、無償で使わせてもらえる方針になっとる」


ざわっと空気が動いた。


「……マジで?」


「ほんとに?」


「じゃあ、場所で諦めんでよくなる?」


美鈴は、しっかり頷いた。


「まだ準備は必要」

「でも、“できん理由”より、“どうやったらできるか”を考えられる段階には来とる」

「そのための最初の一歩が、今日たい」


その言葉に、体育館の空気が少し変わった。


ただの体験練習じゃない。

ここは、「逃げ場」じゃなくて「新しい場所」になるかもしれない。


そう思えた顔が、いくつもあった。



その夜。


小倉家のリビング。

徳島支部ともリモートでつながっている。


由理恵と香苗が、今日の話を聞いて目を丸くしていた。


「すごいですね……」

「ほんとに大きな話になってきた」


せきちゃん閣下も、なぜか胸を張る。


「せきちゃん、しどうしゃ!」


せいちゃん姫が即座に返す。


「あんたはまず止まり木からちゃんと降りんしゃい」


あわまるが追撃する。


「この前、立つのに一分かかっとったやろ」


春介が笑う。


「まだ言われとる」


春海が真顔で続ける。


「10グラム増の影響は深刻やね」


せきちゃん閣下が羽をふくらませる。


「せきちゃん、きょうは2びょう!」


優馬が吹き出した。


「遅くなっとるやないか!」


香苗が笑いながら言う。


「いや、さっきまた量ったら、ちょっと戻っとったんですよ」


「えっ」と全員。


せいちゃん姫がじっと閣下を見る。


「……運動したと?」


閣下が得意げに胸を張る。


「せきちゃん、リビング3しゅう!」


由理恵が笑いながら補足する。


「ほんとに飛んでました。珍しく」


美鈴は声を立てて笑った。


「閣下も頑張りよるやん!」


せいちゃん姫が少しだけ満足そうに言う。


「まあ、2グラム減やけどね」


「細かい!」


リビングが笑いに包まれる。



笑いの中で、美鈴はお茶を手に静かに思った。


自分が始めたバレーは、もう自分一人のものじゃない。

仲間とつながり、子どもたちとつながり、地域の未来へつながろうとしている。


正式移管は、2049年4月から。

それまでは、今ある二面のコートで、空いている時間に、少しずつ育てていく。


小さくてもいい。

狭くてもいい。

ここで始まる子たちがいるなら、それはもう意味のあるコートだ。


美鈴はふっと笑った。


「……春までに、もっと準備せんとね」


優馬がうなずく。


「忙しくなるぞ」


「うん。でも、楽しみ」


その表情には、疲れよりも、確かな灯があった。


そして博多ドンタクスはこの日、

“自分たちがプレーするチーム”から、“誰かのスタートを支えるチーム”へと、確かに一歩進んだのだった。










第8話


「ここで続けたい」


――コートが“場所”になる日


2048年12月初旬。

博多の空気は、吐く息が少し白くなり始めるくらいの冷たさになっていた。


けれど、いつもの二面体育館の中は、外とはまるで違った。

子どもたちの声。

ボールの音。

走る足音。

大人たちの指示。

笑い声。


今ではもう、ただの“体験会”の雰囲気ではなかった。


「ナイス! その一歩よかよ!」

「声出して、次いこ!」

「今のタイミング、めっちゃよかったやん!」


博多ドンタクスのメンバーたちが、小学生から高校生までの子どもたちをそれぞれ受け持ち、少しずつ教えている。


正式移管は2049年4月から。

まだ今は、その前段階。

空いている時間を使っての合同練習にすぎない。


――のはずだった。


でも、ここに集まる子どもたちの顔は、もう“お試し”の顔ではなくなっていた。



午前・小学生の部


美鈴は、低学年の子たちのボールコントロールを見ていた。


「そうそう、腕はこう」

「ボールば見て、あわてんでよかよ」

「うん、今の当たり方、よかった!」


そのすぐ横では、由紀が大きな声で高学年グループにレシーブ姿勢を教えている。


「お尻ばちょっと落として! でも落としすぎん!」

「“座る”やなくて“構える”やけんね!」


里香とさよりはネット際で、ブロックの位置取りを簡単に説明している。

ほのかと真理子は、トスの基本。

みゆは守備の一歩目。

千景、まどか、はづきは、助走や打点の入り口。


すでに役割分担が自然にできていた。


そして、その中に、何度も顔を見せるようになった子がいた。


小学校6年生の五十嵐聡美。


最初は少し遠慮がちだった。

けれど、練習を重ねるたびに、ボールへの反応が変わってきた。


レシーブ姿勢も、最初はぎこちなかった。

今では、低く入ろうとする意識がはっきり見える。


しかも何より――


目が変わってきていた。


美鈴は、そのことにずっと気づいていた。



その日も練習の最後、小学生の部の締めとして、軽いミニゲームをした。


聡美は後衛に入っていた。

相手コートから返ってきた緩いボールが、やや前に落ちそうになる。


迷う距離だった。

ほんの少しでも遅れれば落ちる。


だが、聡美は踏み込んだ。


「いく!」


ぱしっ。


少し乱れたが、ちゃんと上がった。


「ナイス!!」


みゆが思わず声を上げる。

真理子がつなぐ。

返球。

ラリーは続き、最後は相手のミス。


一点。


その瞬間、聡美の顔がぱっと明るくなった。


その笑顔を見て、美鈴は胸の奥が少しあたたかくなるのを感じた。



練習終了後。

子どもたちが片付けを手伝い、保護者たちが迎えに来る中で、聡美が美鈴のところへ来た。


少し緊張した顔だった。


「……園長先生」


美鈴は笑う。


「ここでは美鈴さんでもよかよ?」


「……じゃあ、美鈴さん」


「うん」


聡美は少しだけ息を吸ってから、まっすぐ言った。


「私、ここで続けたい」


美鈴は、一瞬言葉を失った。


聡美は続けた。


「学校の部活がどうなるかわからんし、ちゃんとできる場所があるなら、ここでやりたい」

「もっと上手くなりたいし」

「……ここ、好きやけん」


その一言が、まっすぐ胸に入ってきた。


好きやけん。


それは、美鈴自身が何度も抱いてきた気持ちだった。


バレーが好き。

コートが好き。

仲間とつなぐ感じが好き。

そして何より、ここに来ると前を向ける。


美鈴は少し目を細めて、やわらかく答えた。


「……ありがとう」

「その言葉、すごく嬉しか」


聡美は少し照れたようにうつむく。


「まだ正式には4月からやけどね」

「でも、そう思ってくれる子が一人でもおるなら、うちら本気で準備せないかんね」


聡美が小さく、でもしっかりとうなずいた。



その話はすぐに、ドンタクスの大人たちにも伝わった。


午後の中学生の部が始まる前、壁際に集まったメンバーたちに、美鈴がそのことを話す。


「……“ここで続けたい”って、初めて子どもからはっきり言われた」


一瞬、みんなが静かになる。


真理子がゆっくり息を吐いた。


「……来たね」


由紀もうなずく。


「来たね、ついに」


志穂が静かに言う。


「もう“体験の場”じゃなくなってるってことですね」


里香が腕を組む。


「受け皿になるって、こういうことやね」


さよりもやわらかく続ける。


「責任、重くなりますね」

「でも、だからこそ意味がある」


美鈴はうなずいた。


「うん」

「なんか、急に背筋が伸びた」

「私たちが思っとる以上に、子どもたちはちゃんと見とる」


その時だった。


体育館の入口のほうが、急にざわついた。


「えっ」


「うそっ」


「まじで!?」


子どもたちの声が、波のように広がる。


全員が振り向く。


そこに立っていたのは――


光子と優子だった。



二人は、帽子にラフな上着という、少し目立たない格好をしていた。

……が、目立たないわけがなかった。


小倉光子。

柳川優子。


爆笑発電所の看板タレント。

音楽でも、お笑いでも、旅番組でも、チャリティー活動でも知られる存在。

福岡どころか、全国区で顔が知られている二人が、普通に体育館の入口に立っている。


「お疲れさまでーす!」


光子が手を振る。


「差し入れ持ってきたばーい!」


優子もにかっと笑う。


「あと、お母さんの様子ば見にきた!」


体育館が、一瞬静まり返ったあと――


大爆発した。


「うわああああ!!」


「ほんもの!?」


「えっ、普通に来た!?」


「やばっ!!」


小学生はもちろん、中学生も高校生も一気にそわそわし始める。

中には固まる子もいる。

保護者のほうが口を押さえている。


由紀が笑う。


「いやもう、完全にイベントやん!」


明美が肩を揺らす。


「子どもたちの目の輝きが三段階上がった!」


美鈴は額に手を当てた。


「……あんたたちねぇ」

「普通に来ると、こうなるっちゃん」


光子が悪びれもせず笑う。


「いやー、でも応援したかったっちゃん」

「お母さん、今めっちゃ頑張りよるやん?」


優子も頷く。


「それに、ドンタクスが地域の受け皿になろうとしよるの、うちらも本気で応援したか」


その言葉に、空気が少しだけ落ち着く。


ただの“有名人来ました”で終わらせない。

そこが、やっぱりこの姉妹だった。



だが、子どもたちにとっては、それでも衝撃だった。


小学生の一人が、こっそり友だちに言う。


「……ここ、すごくない?」

「バレーしに来たら、普通に光子さんと優子さんに会えると?」


別の子が真顔で返す。


「それ、もうご褒美やん」


中学生の男子が、小声で言う。


「絶対サボれんやつやん……」

「こんなん、ちゃんと来るしかないやろ」


高校生の女子たちもざわつく。


「え、ほんとに来るんだ……」

「ていうか、ここ本社とつながっとるんやもんね……」


そのざわめきを聞きながら、春介が壁際でぼそっと言う。


「……まあ、たしかにモチベーション上がるよね」


春海が真顔で頷く。


「“練習頑張ったら有名タレントに会えるかも”は強すぎる」

「ほぼ合法チートやね」


優馬が吹き出す。


「言い方よ」



光子と優子は、そのまま子どもたちの練習を見学し始めた。


ただ見ているだけではない。


「今のナイス!」

「その声よかやん!」

「一歩目、めっちゃ速かった!」


褒め方がうまい。

盛り上げ方がうまい。

しかも、ちゃんと一人ひとりを見ている。


聡美がレシーブを上げたとき、光子がぱっと反応した。


「今のよかったよ!」


優子も続ける。


「ナイス粘り! 落ちると思ったやろ、あれ!」


聡美の顔が、ぱっと赤くなる。


でも、うれしそうだった。


その様子を見て、美鈴は少し笑った。


「……ずるいね、あの二人」


真理子が笑う。


「でも、こういう“ずるさ”は大歓迎たい」



休憩時間になると、子どもたちはさっきまで以上に真剣になっていた。


小学生までが、急にレシーブの構えを丁寧にする。

中学生は声が出る。

高校生は目つきが変わる。


由紀があきれ半分で笑う。


「いや、わかりやすすぎやろ!」


みゆも珍しく笑う。


「でも、すごいです」

「集中力、倍くらい違います」


さやかがにやにやする。


「これは今後、“今日は誰が来るかわからんよ効果”が使えるかもしれん」


志穂が真顔で言う。


「それ、かなり強いですね」


美鈴が苦笑する。


「バレー指導にタレント乱入を組み込むな」


だが、本気でわかっていた。


これは単なる“話題性”じゃない。

子どもたちにとって、「ここは何かが起きる場所」「自分の頑張りが、誰かに見てもらえる場所」になり始めているのだ。


それは、大きい。



練習の最後、光子と優子が子どもたちの前に立った。


光子がにっこり笑う。


「今日はみんなの練習、ちょっとだけ見せてもらったけど――」


優子が続ける。


「めっちゃよかった」

「うまい下手だけやなくて、“やりたい”って顔しとる子が多かった」


体育館が静かになる。


光子が言う。


「バレーって、うまくいかん日もあるやん」

「悔しい日も、しんどい日もある」

「でも、ここに来たら“またやってみよう”って思える場所になったらよかね」


優子が、美鈴たちドンタクスのメンバーを見る。


「うちのお母さんたち、まじで本気やけん」

「やるなら、ちゃんと応えてくれるよ」


美鈴が少し照れながらも、まっすぐ子どもたちを見る。


「うん」

「やる気があるなら、うちらも本気で支える」

「まだ今は二面しかないし、時間も限られとる」

「でも2049年4月からは、もっとちゃんとした形になる」

「その春までに、一緒に土台ば作ろうや」


その言葉のあと。


小さな声だったが、はっきりと聞こえた。


「……私も、続けたい」


聡美だった。


そして、その声に続くように、


「俺も」

「うちも」

「やりたい」

「ここで頑張りたい」


ぽつり、ぽつりと声が上がっていく。


小学生。

中学生。

高校生。


その一つひとつが、体育館の空気を変えていった。



練習が終わったあと。

子どもたちが帰った静かなコートで、美鈴たち大人は輪になって立っていた。


誰もしばらく口を開かなかった。


最初に真理子が言う。


「……本気でやらんといかんね」


由紀が頷く。


「うん。もう“手伝えたらいいね”の段階じゃなか」


志穂が資料を見ながら言う。


「時間割、指導体制、年齢別の導線、保護者対応」

「全部、組み直したほうがいいですね」


里香が続ける。


「コート数足りん分は、4月までの暫定運用考えんと」

「でも、春以降は本社体育館が本格的に使える」


さよりが静かにまとめる。


「つまり今から春までが、準備期間であり勝負期間ですね」


美鈴は、今日の子どもたちの顔を思い出していた。


緊張していた子。

笑った子。

悔しがった子。

そして、「続けたい」と言った子。


その全部が、もう他人事じゃなかった。


「……やろう」


美鈴が言った。


全員が顔を上げる。


「本気で、受け皿作ろう」

「この子たちが“来てよかった”って思える場所にしよう」

「バレーが好きな子が、場所のせいで諦めんでよかように」


その声に、みんながしっかりとうなずいた。


そしてその輪の外で、差し入れの箱を片付けながら光子が笑う。


「いやー、なんか本格的になってきたね」


優子もにやりとする。


「でも、いいやん」

「ここに来たら、頑張る理由がいっぱいある」

「バレーそのものもそうやし――」


二人、顔を見合わせる。


「たまに、うちらにも会えるしね」


「自分で言うな!」


美鈴のツッコミで、最後にまた大きな笑いが起きた。


けれどその笑いのあと、体育館には確かに残っていた。


ここはもう、ただの練習場所ではない。

誰かの「続けたい」を受け止める場所になり始めている。


そして博多ドンタクスは、この日から本当の意味で、


**“地域の未来を育てるチーム”**になろうとしていた。




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