初めての練習試合、悔しさとインコの体重測定
第5話
初めての練習試合、悔しさとインコの体重測定
2048年10月下旬。
秋の空気はさらに澄み、夕方の体育館には、少しだけ本番前のような緊張が漂っていた。
この日は、博多ドンタクスにとって近隣チームとの軽い練習試合の日だった。
公式戦ではない。
けれど、ただの練習とも違う。
ラリーの重みも、一本のミスの悔しさも、いつもの練習よりずっと濃く出る。
それが試合というものだった。
更衣室で、美鈴はゆっくり膝を曲げ伸ばししながら、深く息を吐いた。
前回より動ける。
レシーブの感覚も少し戻ってきた。
一本、二本なら、ちゃんと拾える感触もある。
でも――
「……試合は別たい」
ぽつりとこぼした言葉に、隣でシューズの紐を結んでいた中原志穂が顔を上げる。
「緊張してます?」
「しとる」
「練習では拾えても、試合で同じようにできる気がせん」
志穂は淡々と答えた。
「まあ、最初はそんなもんです」
「むしろ、“全然緊張せん”って人のほうが危ないです」
「そういうもん?」
「そういうもんです」
「あと小倉さんの場合、たぶん試合中も何か言います」
「何か言いますって何ね」
「天然で」
「そこは否定しとく」
即答した美鈴に、志穂は少しだけ笑った。
⸻
体育館の外では、優馬と春介と春海が応援に来ていた。
今日は徳島支部ともリモートでつながっている。
リモート画面の向こうでは、福田由理恵、福田香苗、そしてインコ一家がすでにそわそわしていた。
せきちゃん閣下は止まり木の上で妙に胸を張っている。
「みすず! しあい!」
しらゆきもふわっと鳴く。
「がんばれー」
きびまるはなぜかその場で小さく足踏みしていた。
「ぼくも、しあい!」
あわまるが即座に返す。
「あんたはまず飛べ」
その横で、せいちゃん姫がふっとせきちゃん閣下を見て言った。
「そういえば、あんた最近ちょっと丸くなってない?」
せきちゃん閣下がぴたっと止まる。
「……せきちゃん、まるくない」
せいちゃん姫は冷静だった。
「いや、うちの見立てで10グラム太った」
「止まり木の沈み方が前と違う」
優馬が吹き出す。
「見立てが細かすぎるやろ!」
春介も笑う。
「止まり木で体重推定するん?」
春海が真顔で続ける。
「徳島支部、観察眼がプロ級やん」
せいちゃん姫は構わず続けた。
「この前より、お腹のラインが“ふっくら”から“ずっしり”に変わっとる」
せきちゃん閣下が慌てて羽を広げる。
「せきちゃん、メタボじゃない!」
あわまるがすかさず切る。
「いや、疑惑はある」
きびまるまで便乗する。
「ぼく、ちょっとそう思う」
「お前が言うな!」と、由理恵がつい突っ込んでしまい、画面の向こうで笑いが広がる。
香苗が笑いながら言った。
「あとで体重測定しようか」
せきちゃん閣下、明らかに固まる。
「……しなくていい」
せいちゃん姫がぴしゃり。
「する」
⸻
コートでは、試合前のアップが始まっていた。
博多ドンタクスの面々は、いつもの明るさを保ちながらも、どこか集中した顔つきになっている。
古賀真理子が全体を見回す。
「よし、今日は勝ち負けよりも、“今できることを試合で出す”のが大事やけんね!」
高山由紀が声を張る。
「声出していくよー! 迷ったら呼ぶ! 落としても引きずらん!」
城戸里香が頷く。
「ブロックつくから、後ろは信じていいよ」
鶴田ほのかが静かにボールを持ち上げる。
「一本目から丁寧につなぎましょう」
そして真理子が、美鈴の方を見た。
「小倉さん」
「うん」
「今日は練習の延長でいいです」
「拾えたらラッキー、拾えんでも次」
「最初から全部やろうとせんでよか」
美鈴は一度息を吸って、うなずいた。
「……うん。わかった」
でも、本心では少しだけ違った。
拾いたい。
ちゃんとやりたい。
迷惑をかけたくない。
“まだ復帰したてやけん仕方ない”では終わりたくない。
その思いが、逆に肩を少し重くしていた。
⸻
試合開始。
最初の数点は、あっという間だった。
相手チームは、うまかった。
派手なパワーがあるわけではない。
でも、とにかく崩れない。
レシーブが低く、つなぎが正確で、ミスが少ない。
そして何より、美鈴はすぐに思い知らされた。
練習で拾える球と、試合で拾わなきゃいけない球は違う。
一球目。
やや甘く来た返球。
練習なら取れていたかもしれない。
でも試合になると、一歩目が遅れた。
「あっ」
落ちる。
次の一本。
今度は前に短い球。
反応した。
だが、ほんの一瞬ためらった。
そのためらいが命取りだった。
ぽとり。
真理子が「ドンマイ!」と声を出す。
高山も「次次!」と明るく返す。
でも、美鈴の胸には、ずしんと悔しさが落ちた。
取れたかもしれん。
今のは、行けたかもしれん。
その「かもしれん」が、たまらなく悔しかった。
⸻
中盤。
一本、長いラリーになる。
ほのかのトス。
千景の返球。
相手がつないでまた返してくる。
美鈴の前へ、やや速いボールが来た。
「来る!」
反応した。
体は動いた。
腕も出た。
だが、面が少しずれた。
ボールは横へ逸れ、そのままコート外へ。
「ああっ……!」
その瞬間、自分でもはっきりわかるほど、悔しさが込み上げた。
「……くっそ……」
小さな声だった。
でも、自分でも驚くほど、本気の声だった。
試合がいったん止まる。
高山がすぐ近くに来る。
「小倉さん、大丈夫!」
美鈴は唇をかんで頷く。
「大丈夫……やけど……今の、取りたかった……」
高山はにっと笑った。
「それでよかとよ」
「取りたかったって思えるなら、次ほんとに取りに行けるけん」
里香も後ろから声をかける。
「今の反応は悪くなかった」
「面だけ。次いける」
志穂は、いかにも志穂らしく淡々と言った。
「悔しいなら当たりです」
「本気でやってる証拠です」
美鈴は少しだけ息を吐いた。
そうだ。
悔しい。
でも、それは逃げたい悔しさじゃない。
もっとやれるようになりたい悔しさだ。
それなら、まだ前を向ける。
⸻
タイム中。
ベンチに戻ると、美鈴はタオルを握りしめたまま俯いた。
「……くやしか」
真理子が隣に座る。
「うん」
「でもね、小倉さん」
「今、ちゃんと“試合の悔しさ”になっとるよ」
美鈴が顔を上げる。
真理子は笑っていた。
「最初のころって、“動けん”“怖い”“迷惑かけたくない”が先に来るっちゃん」
「でも今の小倉さん、“取りたかった”ってなっとるやろ?」
「それ、もうプレーヤーの悔しさたい」
その言葉に、美鈴の目が少し見開かれる。
「……プレーヤーの、悔しさ」
「そう」
「ちゃんとコートの中に入っとる証拠」
その横で森本さやかが笑いながら言った。
「しかも今日の小倉さん、悔しがる姿がめっちゃ青春」
「園長先生というより、部活帰りの二年生みたい」
美鈴が思わず吹き出す。
「何歳若返らせると!」
明美も続く。
「でもそれくらい真剣な顔しとる」
「うちら、そういうの好きよ」
はづきが短く頷いた。
「悔しがる人は伸びます」
みゆもにこっと笑う。
「次、絶対一本取りましょう」
その言葉に、美鈴はようやく笑えた。
「……うん」
⸻
後半。
美鈴は、一本に集中した。
全部は無理でいい。
次の一本。
その次の一本。
すると、終盤でその瞬間はやってきた。
相手の返球が、後衛の間に落ちそうになる。
少し嫌なコースだった。
迷えば落ちる。
だが、美鈴は迷わなかった。
「私!」
一歩、踏み込む。
体を低くする。
腕を入れる。
ぱしっ。
ボールが、きれいに上がった。
「ナイス!!」
高山の声が響く。
真理子がつなぐ。
千景が返す。
ラリーの末、最後は相手のミス。
一点。
その瞬間、博多ドンタクスの全員が声を上げた。
「よっしゃああ!!」
美鈴自身、目を見開いていた。
取れた。
ちゃんと取れた。
しかも、試合で。
さっきまで取れなかった、あの悔しさの中で。
志穂が横から言う。
「はい、来ました」
「“少し拾える園長先生”、試合版」
「そこ名前にするの!?」
でも、美鈴は笑っていた。
悔しさの中で拾えた一本。
それが、胸にまっすぐ残った。
⸻
試合は、結果だけ見れば相手に分があった。
まだまだ課題は多い。
美鈴自身も、もっと取れた球があったと思っている。
けれど、試合後の表情は、不思議と明るかった。
「悔しいけど、ちょっと楽しかったやろ?」
由紀にそう聞かれ、美鈴は少し考えてから答えた。
「……うん。悔しい。でも、楽しかった」
「なんか、自分がちゃんと“試合した”って感じがする」
真理子が満足そうに頷いた。
「それで十分たい」
「次はもっと取れる」
その横で、さやかが笑いながら言う。
「でも小倉さん、今日めっちゃ“くっそ……”って言いよったね」
「聞こえとった!?」
「聞こえとった」
「やだ恥ずかしか!」
はづきが真顔で返す。
「よかったです。人間味あって」
「フォローになっとるようで微妙!」
体育館がまた笑いに包まれる。
⸻
帰宅後。
小倉家のリビングには、試合帰りの空気と、お茶の湯気と、いつものにぎやかさがあった。
リモート画面の向こうでは、徳島支部がまだつながっている。
優馬がすぐに聞く。
「どうやった?」
美鈴はソファに座って、少しだけ肩を落とし、それから笑った。
「悔しかった」
「思ったより取れんかった」
「でも最後に一本、ちゃんと試合で拾えた」
春介が頷く。
「それはでかいね」
春海も言う。
「練習でできる、じゃなくて試合で出たのが強い」
徳島支部の向こうで、せきちゃん閣下が突然胸を張った。
「せきちゃん、すわるの1びょう!」
一同、きょとんとする。
そして閣下はさらに続けた。
「たつのは1ぷん!」
春介が吹き出す。
「何その謎記録」
優馬も笑う。
「遅すぎやろ!」
せいちゃん姫がすかさず切り返した。
「それはあんたがメタボだけや」
リビングが爆発した。
「またメタボ言われた!」
由理恵が笑い転げ、香苗も手で口を押さえる。
せきちゃん閣下は必死に羽をふくらませる。
「せきちゃん、メタボじゃない!」
せいちゃん姫はまったく動じない。
「最近、うちの見立てで10グラム太ったやろ」
あわまるも冷静に頷く。
「止まり木の角度が変わった」
春海が真顔になる。
「また見立てが細かい」
春介がにやっとする。
「ここまで来たら測ったほうが早いやろ」
香苗が笑いながら、小さなデジタルスケールを持ってきた。
「じゃあ、ほんとに量ってみようか」
せきちゃん閣下、固まる。
「……いや」
せいちゃん姫が即答する。
「乗る」
由理恵がなんとか閣下をなだめ、スケールの上にそっと乗せる。
ぴっ。
全員が画面に顔を寄せる。
香苗が表示を見て、目を見開いた。
「あっ……」
「どうやった!?」と優馬。
香苗は笑いをこらえきれない顔で言った。
「……ほんとに増えとる」
「前回より10グラム近く太っとる」
一拍置いて、大爆笑だった。
「ほんとやったん!?」
「せいちゃん姫の見立てすごすぎる!」
「インコ界の健康診断やん!」
せきちゃん閣下は呆然としていた。
「……せきちゃん……」
せいちゃん姫が勝ち誇ったように言う。
「ほら見ろ」
「メタボや」
あわまるまで腕組みみたいな姿勢で頷く。
「これはもう疑惑じゃない」
きびまるがなぜかうれしそうに言う。
「かっか、ふとったー」
「お前も気をつけろ!」と香苗が突っ込み、また笑いが起きる。
美鈴は涙をにじませながら笑った。
試合の悔しさは、まだちゃんと胸に残っている。
もっと取れた。
もっとできた。
次は、もっと。
でも、その悔しさを抱えたままでも、こうして笑っていられる。
家族がいて、仲間がいて、徳島支部のインコ一家まで騒いでいる。
その全部が、美鈴を少しずつ前に運んでくれていた。
美鈴は笑いながら、ふっと言った。
「……よし」
「私も負けん」
「閣下もダイエットするなら、私ももっと拾う」
優馬がうなずく。
「ええ勝負やな」
春介がすぐ乗る。
「おばあちゃんは守備強化、閣下は体重管理」
春海も真顔で続ける。
「どっちが先に成果出るかやね」
「そこ一緒にせんでよ!」
リビングにまた笑い声が満ちた。
そしてこの日、美鈴ははっきり知った。
悔しさは、前に進む人間だけが持てるものだと。
笑いは、その悔しさを折れずに抱えていくための力になるのだった。
⸻
第6話
キャプテンの声と、広がるコート
2048年11月初旬。
秋の空気が少しだけ冷たさを帯び始めたころ。
博多ドンタクスの練習は、いつもより少し重たい空気の中で始まっていた。
理由ははっきりしている。
――前回の練習試合。
善戦はした。
手応えもあった。
だが、あと一歩届かなかった。
その「あと一歩」が、チーム全体の中に静かに残っていた。
⸻
アップが終わり、ゲーム形式に入る。
最初の数本はいい流れだった。
だが、ミスが一つ出ると、そこから少しずつ空気が沈む。
レシーブが乱れる。
声が減る。
トスが合わない。
「……あれ」
美鈴はその変化に気づいた。
これ、幼稚園でも見たことある。
誰かが転ぶ。
周りが戸惑う。
次の子も慎重になる。
そして全体の動きが止まる。
――空気が止まる。
その瞬間。
相手側の返球が中途半端な位置に落ちかけた。
「来る!」
でも、誰も声を出していない。
一瞬の空白。
そのまま落ちる――
その直前。
「私が行く!!」
美鈴の声が、体育館に響いた。
一歩、踏み込む。
低く入る。
腕を出す。
ぱしん。
ボールが上がる。
「ナイス!!」
その声に、ほのかが反応する。
トス。
千景が打つ。
一点。
⸻
その瞬間、止まっていた空気が一気に動いた。
高山が声を張る。
「いいよ今の!! 声出していこう!!」
里香がうなずく。
「ブロックつくよ! 後ろ頼む!」
みゆが低く構える。
「次、来ます!」
美鈴はその中心にいた。
さっきまでの「悔しい」「取れなかった」が、別の形に変わっていた。
――声を出す。
――つなぐ。
――流れを戻す。
「よし、次も来るよ!!」
自分でも驚くくらい、自然に声が出た。
⸻
その後のラリー。
今度は相手のスパイクがやや速く落ちる。
美鈴は反応する。
「来い!」
一歩。
踏み込む。
ぱしっ。
また上がる。
「ナイス!!」
由紀が笑う。
「来た来た!! 今日の小倉さん、完全にキャプテンやん!!」
美鈴が思わず返す。
「いや、まだ“仮キャプテン”たい!!」
志穂が冷静に言う。
「もう正キャプテンでいいです」
「昇格早くない!?」
体育館が笑いに包まれる。
だが、さっきとは違う。
笑いながら、動けている。
⸻
休憩時間。
みんなが水を飲みながら壁際に座る。
真理子が腕を組んで美鈴を見る。
「……今の、よかったね」
美鈴は少し照れる。
「たまたまよ」
志穂が首を振る。
「たまたまじゃないです」
「声出したから、みんな動けた」
里香も続く。
「さっき、完全に空気止まりかけとった」
「でも“私が行く”で戻った」
みゆが静かに言う。
「安心しました」
「誰かがはっきり言ってくれると、動きやすいです」
さよりがやわらかく微笑む。
「それ、キャプテンの役目です」
美鈴は少し黙った。
キャプテン。
その言葉が、少し重くて、でも少しうれしかった。
⸻
そのとき、体育館の入口から声がした。
「すみませーん」
振り向くと、地域のスポーツ振興会の担当者と、学校関係者らしき人たちが立っていた。
真理子が対応に出る。
「どうされました?」
担当者が頭を下げる。
「突然すみません。少しお話よろしいでしょうか」
⸻
練習後、全員が集まる。
担当者が資料を広げながら話し始めた。
「現在、博多地区でも進んでいるんですが――」
「学校の部活動を、地域のスポーツ団体へ移管していく流れが本格化しています」
ざわっと空気が動く。
由紀が腕を組む。
「先生たちの負担の問題よね」
担当者はうなずく。
「はい。授業に加えて部活指導まで抱えるのは、現実的に厳しくなっています」
「それに――」
少し言葉を選ぶ。
「専門の指導者がいる学校と、そうでない学校の差が大きくなりすぎている」
「強いところに人が集中してしまう問題もあります」
志穂が静かに言う。
「公平じゃない、ってことですね」
「はい」
資料には、数字と現状が並んでいた。
参加率の低下。
指導者不足。
地域格差。
そして――
「そこで、地域のスポーツ団体に“受け皿”になってほしい、という話が来ています」
担当者は、まっすぐに言った。
「博多ドンタクスさんにも、バレーの受け皿になっていただけないかと」
体育館に静けさが落ちた。
⸻
真理子がまず口を開く。
「……やりたい気持ちはある」
由紀も頷く。
「そりゃね。子どもたちがちゃんとスポーツできる場所は必要やもん」
里香が現実的に言う。
「でも、場所が足りん」
全員の視線がコートに向く。
今使っている体育館は――二面。
「小学生から高校生まで、男女全部受け入れるとなると……」
「絶対足りんね」と志穂。
「時間も回らん」とみゆ。
美鈴は静かに聞いていた。
そのとき、担当者が続けた。
「実は、もう一つ動きがあります」
全員が顔を上げる。
「爆笑発電所の本社に、体育館使用許可の要請が出ています」
「え?」
美鈴が思わず声を出す。
担当者は資料をめくる。
「現在、本社の体育館は拡幅工事中で――」
「完成すれば、一棟で4面コートが確保可能になります」
ざわっと空気が動く。
さらに続ける。
「しかも体育館は2棟あります」
「……え」
「つまり、最大で8面分の運用が可能になります」
由紀が思わず言う。
「それ……ほぼ大会会場やん」
担当者はうなずいた。
「はい」
「そして――」
少し間を置いて、はっきりと言った。
「爆笑発電所側から、“地域スポーツ団体への無償提供”の方針が出ています」
一瞬、言葉を失う。
⸻
美鈴は、その場で立ち尽くしていた。
体育館。
コート。
子どもたち。
笑い声。
いろんなものが、一気につながった気がした。
優馬の顔が浮かぶ。
美香。光子。優子。
そして、幼稚園の子どもたち。
「……できるかもしれん」
ぽつりと、美鈴が言った。
全員が振り向く。
「私たちだけじゃ無理でも」
「この場所があれば」
「ちゃんと受け止められるかもしれん」
真理子がゆっくりうなずく。
「……やる?」
由紀が笑う。
「やるしかないやろ」
志穂が短く言う。
「条件は整い始めてる」
さよりが静かにまとめる。
「問題は“覚悟”ですね」
美鈴は、ゆっくり顔を上げた。
「……やる」
「子どもたちが、ちゃんと好きなスポーツできる場所、作ろう」
その声は、もう迷っていなかった。
⸻
その夜。
小倉家のリビング。
リモートの向こうでは、徳島支部も話を聞いていた。
せきちゃん閣下が胸を張る。
「せきちゃん、しどうしゃ!」
せいちゃん姫が即座に返す。
「まず自分の体重管理からやろ」
あわまるが追撃。
「コートより体重増えとるけんね」
春介が吹き出す。
「閣下、まだ引きずられとるやん」
春海が冷静に言う。
「10グラムの重みは大きいね」
優馬が笑いながら美鈴を見る。
「……大変になるぞ」
美鈴は笑った。
「うん」
「でも、やりがいあるやろ?」
その目は、完全に前を向いていた。
⸻
こうして――
一人の園長先生がもう一度始めたバレーは、やがて地域の未来を支える“コート”へと広がろうとしていた。
そして美鈴は、プレーヤーとしてだけでなく、
“支える側のキャプテン”としての一歩を踏み出したのだった。




