プロミュージシャン?結音と陽翔のチャルメラ
光子と優子は、いつもの柔らかな笑みを少しだけ引き締め、
譜面ノートを見つめていた春介と春海に、静かに向き直った。
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光子(真剣な声で)「……ただし、ひとつだけ約束して。」
その言葉に、春介と春海は背筋を伸ばす。
優子「音楽っちゅうのはね、人に“ワクワク”とか“感動”とか“楽しさ”を伝えるもんやけん。
どんな時も、聴いた人がちょっとでも笑顔になれるように――それを忘れちゃいかんよ。」
光子は少し間をおいて、静かに続ける。
「絶対にね、人を傷つけるような言葉や、差別的な表現は使わないこと。
それと、自分を蔑むような表現も、しないこと。
それは“自分の音を信じてない”ってことになるけんね。」
春海が小さくうなずいた。
「……人を笑わせるのと、笑いものにするのは違うってことやね。」
優子「そうそう! “真剣にふざける”っちゅうのが、うちらのポリシーやけん。」
光子「ふざけることも、ギャグも、全部“優しさの延長線”でやるんよ。」
春介が、少し考え込むように言う。
「音楽って……そう考えたら、めっちゃ責任あるんやな。」
光子「そう。でもね、“責任”って言葉は怖がらんでいいよ。
誰かを笑顔にしたり、ちょっと前を向かせる――それができるのは、音を持つ人の特権やけん。」
優子が、春海の頭をぽん、と軽くたたく。
「音楽は、心のごはん。
愛情とユーモアをちゃんと入れたら、みんなお腹いっぱい幸せになるけぇ。」
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二人の言葉を聞いた春介と春海は、顔を見合わせ、真剣にうなずいた。
「うん。俺たち、ちゃんと“笑顔になる音”を作る。」
「聴いた人が、ちょっとでも優しい気持ちになれるように。」
光子と優子は、同時に微笑んだ。
「それでこそ、うちらの家族やね。」
窓の外では、夕焼けがゆっくりとオレンジ色に染まり、
まるでその約束を祝福するかのように、音楽室を温かく包んでいた。
朝の庭。赤いアサガオが縁側の影をまたぐみたいに、ぐんと空へ。
春介はチューバのマウスピースだけ手に、春海はスティックを指で転がしながら、同じ花を見上げた。
「この“くるっ”てツルが伸びる瞬間、音にしたい」
「わかった。上に吸い上がる感じ——半音ずつ、でも最後は光る和音で」
縁側の小テーブルに譜面。鉛筆が踊る。
まずはメロディ。春介が鼻歌で「タラ…ララ〜♪」と上へ上へ、春海が机面を指で「トン、トトン」と風の拍を置いていく。
一週間後・仮タイトル「赤いアサガオ」
•テンポ:♩=92(朝の涼しさ→昼に向けて少しだけ速くなる)
•キー:G→A(途中で半音上行モジュレーション=“伸びる”感)
•モチーフ:3音の上昇+2拍の揺れ(風)
冒頭(ハミング案)
「ラ・ラララ〜(3度→4度→5度)」
春海がウッドブロックで「トン……トトン」。
風が葉を揺らす“間”を残す。
サビ(歌詞・試作)
赤い朝顔 空へ手をのばす
ひかり、ほどけて 頬に夏が落ちる
まだ小さな夢でも つるは迷わない
ぼくらの胸にも 同じ風がいる
Bメロ(歌詞・試作)
くるり輪を描く 影が笑って
眠気のにおいも 青く染まった
だれかの「がんばれ」じゃなくていい
ぼくらのリズムで 伸びていこう
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お披露目・家リビング
編成:
•春介:チューバ(低音で“土”)
•春海:ドラム(ブラシ→最後だけスティック)
•美香:トランペット(朝日のきらめき)
•アキラ:テナーサックス(風の流線)
•光子:トロンボーン(ツルの“伸び”)
•優子:ユーフォ(葉の厚み/ハーモニー)
1コーラス終わる。沈黙、からの拍手。
美香、目尻をぬぐいながら笑う。「荒いとこ、ある。でも——まっすぐで、ずるいくらい気持ちいい」
アキラが親指を立てる。「Bメロの“間”が効いとる。あそこ、もう半小節“吸って”からサビ入れてみ?」
優子「サビ頭、“ラ↑”を思いきって半音上げて。朝日がぱぁっと差す感じが出るけえ」
光子「あと、最後のサビで2度転調や。A→B♭、チューバは歩幅広げて“どん”と支えて」
春介と春海、顔を見合わせて同時にうなずく。
「——うちらの“風”、ちゃんと入っとるかな」
「入っとる。しかも赤い。」
その夜・簡易デモ録り
iPadで一発録音。タイトルを**「赤いアサガオ」**に決定。
アップ前に家族内共有。陽翔と結音が“揺れ拍”に合わせて体をフリフリ。燈真と灯乃はスヤ…(子守歌効果まで発揮)。
美鈴(音声メッセ)「よかねぇ。朝の匂いがする。サビ、もう一段だけ明るくしたら完璧たい」
優馬「タイトル勝ち。ジャケは縁側+赤い花な」
仕上げメモ(光子&優子から)
•ブラシは“シュッ・サラッ”で拍裏を撫でる(風の透明感)。
•チューバは“タ・ウー(短く→ふくよか)”の呼吸で土台に躍動。
•終止はsus4→3で“ほどける光”を描写。
•2番サビ前に一拍の無音。夏の朝の“吸い込む瞬間”を置く。
再テイク。終わった瞬間、みんなの口から同時に出たのは一言。
「——咲いたね。」
「赤いアサガオ」—つづき
翌朝。
春介は譜面台の前で腕を組み、春海はメトロノームを指でカチカチ。
光子が鉛筆を耳に挟んで言う。
「よし、博多南中・吹部版に編曲しよ。中低音は“土”、木管は“風”、金管は“ひかり”。」
優子がホワイトボードに配分を書く。
•Fl./Ob.:朝の“揺れ”モチーフ
•Cl.:Bメロのからみ(ハモりでツルを編む)
•A.Sax:陽だまりのライン(グリッサンドは控えめ)
•T.Sax/B.Sax:風の“うねり”
•Tp.:朝日のきらめき(高音は無理せず)
•Hr.:葉の厚み(裏拍で支える)
•Tb./Euph.:ツルの伸び
•Tuba:堂々“土”
•Perc.:ブラシ⇒スティック(最後だけ、そっと)
春海が手を挙げる。「先生質問、最後のサビ、スプラッシュいれても?」
優子「“しぶき”は1回だけ。ジャーンじゃなくてちょん。朝露やけえ」
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校内リハ
部室に「赤いアサガオ〈吹部版〉」のパート譜が配られる。
部長・井手口奈央が拍を数える。「ワン、ツー…」
——出だしから、クラが息を吸いすぎて“朝じゃなくて台風”みたいな音量。
春介が小声で「赤いアサガオじゃなくて“真っ赤な夕立”」とボソッ。
どっと笑いがこぼれ、奈央が肩を震わせながら「……もっかい!」
二度目。
今度は優しく始まり、BメロでA.Sax・由衣が、ふっと色気のあるスラーを入れる。
春海がブラシでシュッ・サラッ。
サビ手前——一拍の無音。
体育館の風が、窓の隙間を通る音だけが聞こえた。
「——サビ!」
トランペットのきらめき。ユーフォの包容力。
トロンボーンがぐいっとツルを伸ばして、チューバのどんが大地を固める。
終止。
sus4→3がほどける。
誰かの胃がぐぅと鳴った(お昼前)。
顧問・高倉先生が笑う。「お腹も鳴るほど良かった。……でも、サビ頭、もう一声“朝日”欲しいね」
光子が即興でハイトランペットの対旋律を口で歌う。「パ・パーン(5度跳躍)で“ひかり”を足す」
美香がトランペットを受け取り、「こう?(ぱぁ)」
部員「わぁ……朝が差した!」
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中庭ミニライブ
放課後の中庭。風鈴がちりん。
「本日ゲリラ演奏、**『赤いアサガオ』**いきます!」
1コーラス終わり、教頭が窓から顔を出す(厳しい顔)。
……と思ったら、スマホを横向きにして撮っている。
最後のサビ、A→B♭に転調。
チューバのどんに合わせて、観ていた1年生たちが自然に体を揺らす。
終わった瞬間、拍手の渦。
**「咲いたー!」**と誰かが叫ぶ(春海のクラスメイト・真帆)。
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夜・家スタジオ(簡易配信版レコーディング)
ミックス担当・アキラがヘッドホンを首にかけたまま親指を立てる。
「90%、出来とる。残り10%は……“朝露の粒”やな」
優子「ブラスの“息の白さ”足そ。アタック前のスゥを録っとく」
春介「低音もタ・ウー意識で丸くする」
春海「最後だけスティック。スプラッシュは“ちょん”の1回!」
録り終え。
縁側から、風鈴と夜の虫。
再生ボタン——。
陽翔が画面の波形に合わせて頭を左右にふり、
結音が真似して“ちょん”で手を上げる。
燈真と灯乃は、曲の半ばで吸い込まれるように眠り、
光子が笑う。「子守歌の称号も授与やね」
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アップ&反響
動画タイトル:「赤いアサガオ(School Yard Live)」
#朝の匂いがする #博多南中吹部 #赤いアサガオ #ファイブシード発芽
コメント抜粋
•「Bメロ前の無音で涙出た。朝の窓開けたみたい」(主婦・39)
•「低音が“土”すぎて家庭菜園したくなる」(中2/バスケ部)
•「転調で日が差す!音で天気が変わる曲スゴ」(サックス講師)
•「うちの園でも流したい。お昼寝導入曲に良すぎ」(保育士)
再生数がスルスル伸びて、地域FMから「今週の庭うた」に選出。
DJコメント「朝、コーヒーが先か、この曲が先か迷いました」
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ファミリー講評会(夜食=冷やしうどん)
美鈴「サビ前の“間”、罪。泣ける」
優馬「タイトル勝ち。……ジャケ、誰か描ける人—」
ひより(東京支部・音楽教師、ビデオ通話)「校内合唱の教材にしたい。パート譜、ちょい手直しして送って」
祥子(女性部・中長距離)「朝ランの最後に聴くと、もう一歩伸びる。モジュレーションで心拍上がるのよ」
ももちゃん(江津・ビーグル、※字幕):ワン!(=散歩BGMに最適)
春海が照れ笑い。「……よし。二曲目いこ。」
春介が手を挙げる。「『夕方の打ち水』とかどう? ちゃぽん→風でリズム作って」
光子「賛成。朝が咲いたら、暮れも涼しくせんと」
優子「タイトル、仮で**『打ち水マンボ』**」
美香「それマンボ入った瞬間、春介が“うにゃマンボー”ってボケるやろ」
春介「もう言ったのに!」
どっと笑い。
縁側の風鈴が、ちりん。
赤いアサガオは、月明かりの下でも、細いツルをさらに一段、空へ。
——“朝の曲”が生まれた夜、次の風の設計図が、もう机に広がっていた。
——この一本の“朝”が、二人の“はじまり”になった。
地域FMのオンエア後すぐ、学校宛にメールが届く。
「駅前サマーフェスタのオープニング演奏(有償)、お願いできませんか?」
春介と春海は顔を見合わせ、同時に小さくガッツポーズ。
光子がにやり。「これが“プロの一歩目”やね。契約書、まずは読むところからや」
優子はチェックリストを差し出す。
「①ギャラ条件 ②著作権表記 ③動画UPの範囲 ④安全対策 ——大事な順に、笑いより先に」
最初の現場
•会場:駅前特設ステージ(朝市の横、風鈴が揺れる)
•編成:ミニ吹(春介Tb/→Tuba持ち替え、春海Dr/Per、光子Tb、優子Euph、美香Tp、アキラB.Sax)
•セットリスト:
1.赤いアサガオ(Festival ver.)
2.うにゃマンボー(ショート)
3.ルパン’ジャズ(アンコール)
音出し一発目、低音が地面を固め、朝のざわめきが音楽へ合流する。
サビ手前の無音で、屋台のおじちゃんが手を止めた。
—そして、拍手。財布の奥から取り出された、最初の正式なギャラ封筒。
受け取る手がわずかに震える。春海が深呼吸して言う。
「ありがとうございます。次も、朝を咲かせます。」
“プロの約束”(ふたりのメモ)
•だれかの朝を少しだけ明るくする音を出す
•差別・嘲笑ゼロ、真剣にふざけるのはOK
•練習を笑いでごまかさない(でも笑って続ける)
•家族と学業を優先し、嘘のないスケジュールにする
•契約書は笑う前に読む(by 優子)
夜、封筒を食卓に置くと、家族の拍手が包む。
光子が静かに言う。「ようこそ。音で生きる世界へ」
優子が続ける。「でもここは笑ってないと迷子になる世界やけん。うちらがずっと横におる」
縁側では、赤いアサガオがもう一段だけ高く伸びた。
二人は次のタイトルを書き込む——『打ち水マンボ』。
プロへの二歩目は、もう始まっている。
玄関を開けた瞬間——
青柳家では、ちいさな豆腐屋さんが行進中。
陽翔がおもちゃラッパをぷーっと鳴らしながら、腰をちょい反らせて「とーふ〜♪」と伸ばす。音はドレの往復、テンポ♩=96くらいでビタッとキープ。
光子「ちょ、待って。リズム、合っとるやん…!誰が教えたと!?」
陽翔「とーふ〜♪ しんせん〜♪」
ぷぷっ、とキメのスタッカートまで入れてくるもんだから、光子は腹筋崩壊。「うちの低音隊、将来有望すぎん?」
一方の柳川家——こちらは屋台の音色。
結音がラッパを高めに構えて「チャ〜ルメ〜ラ〜♪」を原曲調で正確に三度上へ。
優子「え、転調までしてきた⁉︎」
結音「いらっしゃいませ〜♪」
拍の“裏”で小さく足をトン。完全にリズム刻んでる。優子は思わずスマホを構え、「本日の看板娘、完璧すぎる」
そこからは二家族リモート合流。
光子「はると、そっちのラーメン屋さんに出前お願いできる?」
陽翔「できゅ〜!」(ぷー♪)
優子「ゆのん、お豆腐何丁にする?」
結音「いっぱい!」(ちゃ〜るめ〜ら〜♪)
録れた動画はそのまま爆笑通信・ミニ配信へ。
コメント欄が秒で溢れる。
「リズム感、親より仕上がってない?(誉め言葉)」
「チャルメラの♯、正しい……天才現る」
「豆腐×ラーメンの異色セッションで腹減った」
夜、片付けのあと。
光子「音、拾う耳ができとるね。拍の頭も分かっとる」
優子「うん。“真剣にふざける”を、もうやっとる。……うちらの子やね」
二人で顔を見合わせて、ふふっと笑う。
小さなラッパがソファの上で静かに光っていた。
動画が投稿されるや否や、SNSのタイムラインは“陽翔&結音ラッパ兄妹”一色になった。
タイトルは光子のセンスで――
「豆腐屋とチャルメラ、奇跡の二重奏」
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SNSでの反響
#爆笑通信キッズ #ラッパ兄妹 #音感モンスター #チャルメラvs豆腐屋
再生数はわずか30分で10万回を突破。
コメント欄は笑いと称賛の嵐。
「絶対親の遺伝子、音楽的DNAやん」
「リズム正確すぎて吹いた、いやマジで吹いた(ラッパだけに)」
「豆腐屋のテーマで涙出るの初めて」
「音感の民の末裔」「将来は“ちびピーチ★”確定」
「チャルメラがドビュッシーに聞こえるのなんで」
中にはプロミュージシャンや音楽講師からのコメントも。
「3歳でこのピッチ感、絶対音感+拍感両方持ってる」
「吹奏楽界に新しい風来たかも」
「うちの生徒にも見せたい。“遊びから音楽へ”の見本だね」
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各支部の反応
爆笑通信・博多女性部:
古賀真理子「うちの洗濯物干しながら見よったけど、笑いすぎて洗濯バサミ飛んだ」
高山由紀「これPTAでも流そ!教育的指導の鑑よ!」
森本さやか「チャルメラのとこで犬まで遠吠えしよった(笑)」
中原志穂「豆腐屋のテンポ♩=96ってどこで覚えたのよ…」
東京支部・篠崎店長&ひより先生:
篠崎店長「ミライマートでも流します!“お買い得チャルメラDay”!」
ひより「これ教材にしたい。“リズム感の芽”の実例すぎる!」
江津支部・春野家:
楓ちゃん「ももちゃんもラッパほしい〜!」
和人パパ「こっちの商店街にも来てほしいくらいやな」
裕美ママ「笑って癒やされた。やっぱり小倉家はすごい」
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そして本人たちの反応
光子「うちの子ら、もうステージ立てるんやない?」
優子「うちの結音、チャルメラで食っていけるで」
翼「ラーメン屋コラボ来たらどうする?」
拓実「“チャルメラ・オブ・ゴールド”とか作曲してええ?」
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投稿から3日後、視聴数300万回突破。
ラッパ玩具のメーカーが公式アカウントで反応。
「弊社製ラッパ、まさかのプロ音感に使われました」
それに光子がリポスト。
「正式に“プロラッパー”認定やね」
優子も便乗。
「次は“チャルメラ協奏曲”作るけぇ!」
コメント欄、再び炎上寸前の盛り上がり。
音楽と笑いと愛情が、SNSの中でめくるめく連鎖していく。
——小さなラッパの音が、世界中に笑顔を届ける最初のファンファーレになった。




