灯乃ちゃんに決まる
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【柳川家・性別判明の瞬間】
産婦人科の検査室。
やわらかな照明の下、優子はエコー台に横たわっていた。
お腹にジェルが塗られ、モニターには小さな命の影が映っている。
その横では、結音が小さな“応援旗”をぶんぶん振りながら、真剣な顔で画面を見つめていた。
技師さんがモニターをのぞき込み、穏やかに微笑む。
「はい……見えましたね。
うん、今回ははっきりわかりますよ」
優子は思わず息をのむ。
「えっ……どっちやろ。
拓実に電話つないどった方がよかったかも……」
横で様子を見ていた看護師が、くすっと笑う。
「では、おめでとうございます。
——女の子ですよ」
一瞬、部屋が静かになった。
次の瞬間。
結音がぴょんと飛び上がる。
「やったぁ! おんなのこ!」
そして優子のお腹にそっと手を当てる。
「ゆのんと、なかま〜」
優子は目を潤ませながら、静かに笑った。
「……ほんとやねぇ」
そっとお腹をなでる。
「うちの灯りの“灯”をもらって……
名前は、灯乃にしようって決めとったけぇ」
看護師が優しくうなずく。
「すてきなお名前ですね。
“灯”は優子さん、“乃”は結音ちゃんから一文字……かな?」
優子はゆっくりとうなずいた。
「はい。
光とやさしさのバトンを、次の子にもつないでいきたいんです」
結音はお腹に顔を近づけ、小さな声で話しかける。
「ひのたん、うんばぁ」
その瞬間。
モニターの中で、小さな影がぴくんと動いた。
看護師が思わず声を上げる。
「うわっ、また出ました。“うんばぁ”」
技師さんがモニターを指さして笑う。
「ほんとだ。今の、完全に“うんばぁ胎動”ですね」
検査室の空気が、一気に和らぐ。
優子はお腹を押さえながら、思わず笑った。
「灯乃……もう反応しとるやん」
結音は大まじめな顔でうなずく。
「ひのたん、わかっとる」
静かな検査室に、やわらかな笑いが広がった。
モニターの中では、小さな命がゆっくりと動いている。
それはまだ見えない未来へ向かって、
やさしく灯り始めた、新しい光だった。
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続章 インコ一家、祝福の乱入
待合室には、まだ「女の子ですよ」の余韻が残っていた。
優子は診察室のベッドから起き上がりながら、そっとお腹に手を当てた。
結音はその横で、まだ興奮冷めやらぬ顔で小さな旗をぶんぶん振っている。
「ひのたん! ひのたん!」
その呼びかけだけで、もう胸がいっぱいになる。
優子は笑いながら涙をぬぐった。
「もう、そんなに連呼したら、灯乃が照れるやろ」
看護師さんたちも、さっきの“うんばぁ胎動”を思い出して、まだ肩を揺らしていた。
そこへ、待合室に戻ってきた優子を迎えるように、女性部の古賀真理子たちが小旗を振る。
「ぶはぁ〜! おめでとう〜!」
「ひのたん、ようこそ博多〜!」
優子は、ありがとうと言いながらも、まだ少しふわふわしていた。
新しい命の名前が、こうして誰かの口から呼ばれるだけで、世界が少し広がる気がした。
そのときだった。
待合室の壁に設置されたモニターが、ぴこん、と音を立てて明るくなる。
画面の端に、小さなテロップが出た。
《徳島支部 緊急祝福中継》
優子「あっ」
光子の声がスマホ越しではなく、今度はモニターのスピーカーから響く。
光子「優子ー! 徳島支部がどうしても今すぐ祝いたいらしい!」
優子「えっ、今ここで!?」
画面が切り替わる。
徳島支部の特設台の上に、ずらっと並んでいたのは――
せきちゃん、せいちゃん、しらゆき、きびまる、あわみのインコ一家だった。
しかも、なぜか全員の前に小さな紙製マイクスタンドまで置かれている。
優子「ちょっと待って、なんでそんなに準備ええん」
由理恵の声が画面の向こうからする。
「優子さん、女の子って速報入った瞬間、せきちゃん閣下が急に鳴き出して……これは“やる気”やなって」
優子「判断が早すぎるやろ!」
結音はモニターの前まで走っていき、両手をぱたぱたさせた。
「ぴよぴよー!」
それを合図にしたみたいに、せきちゃんが胸を張った。
「せきちゃん、かっこいい!」
優子「いや、そこから入るんかい!」
待合室、早くも笑いが広がる。
せいちゃんがその横で羽を少し広げ、しらゆきがぴょこんと止まり木を移動する。
きびまるは落ち着きなく左右に首を振り、あわみは一拍遅れて、でもしっかり真ん中へ寄ってきた。
そして――
インコ一家による、まさかの“おめでとうソング”が始まった。
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せきちゃん
「せきちゃん、かっこいい! ひのちゃん、おめでとう!」
せいちゃん
「ぴゅい、ぴゅい、ひのちゃん、ようこそ〜」
しらゆき
「ちー、ちー、ちー!」
きびまる
「ぴよっ! ぴよっ! ぴよぴよっ!」
あわみ
「……ちー!」
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そして、由理恵と愛ちゃん、正男くんが後ろから手拍子で合わせる。
「ひのちゃん、ひのちゃん、ぴよぴよぴよ〜」
「うんばぁ、ぶはぁで、おおきくなあれ〜」
旋律があるのかないのか分からない。
リズムは合っているようで、微妙にずれている。
せきちゃんだけ妙に堂々としていて、せいちゃんは途中からせきちゃんの尾羽をつつき始める。
きびまるは自分のテンポでどんどん先に行き、しらゆきは高音だけ妙に美しく、あわみは最後の一音だけやたら存在感がある。
完全にカオスだった。
看護師さんが壁に手をついて笑っている。
技師さんはモニターを見ながら、もう声も出ないくらい震えていた。
女性部は椅子に座り直す暇もなく、その場で膝を叩いている。
古賀真理子
「無理無理無理! お祝いソングの情報量が多すぎる!」
井上明美
「しかも、なんかちょっと癖になる!」
中原志穂でさえ、眼鏡を押さえて笑っていた。
「音程は自由だが、祝福の気持ちは満点」
優子は最初、ぽかんとしていた。
次の瞬間には吹き出し、それでも「ありがたく聞かな」と思って姿勢を正そうとする。
だが、せきちゃんが絶妙なタイミングで再び叫んだ。
「せきちゃん、かっこいい! ひのちゃん、ぴよ!」
優子「なんで自分の紹介挟むとよ!」
ついに耐えきれず、優子はお腹をかばいながら笑い崩れた。
涙はさっきの感動の続きなのか、今の爆笑のせいなのか、自分でも分からなかった。
「もう……あかん……腹筋崩壊する……でも、ありがとう……ほんとにありがとう……」
結音はそんな優子の膝にしがみついて、モニターを指さす。
「ひのたん、ぴよ!」
その一言で、また待合室が笑いに包まれた。
光子がスマホ越しではなく、今度はモニターの小窓から顔を出す。
「優子、よかったねぇ。
灯乃ちゃん、インコ界からも正式に歓迎されたばい」
優子は笑って、涙をぬぐった。
「歓迎のクセが強すぎるけどね……」
由理恵が画面の向こうで頭を下げる。
「徳島支部、全力で祝わせてもらいました」
その直後、せいちゃんが上品に一声鳴き、しらゆき・きびまる・あわみも続く。
「ちー!」
「ぴよっ!」
「……ちー!」
最後にせきちゃんが、いつもの調子で締めた。
「せきちゃん、かっこいい!」
優子はとうとう椅子にもたれかかって、笑いながら言った。
「うん、もう今日はそれでよか。
灯乃、こんなににぎやかに迎えられて幸せやね」
お腹にそっと手を当てる。
その下で、小さな命がまた、ぽこんと動いた気がした。
看護師さんが目を丸くする。
「また動いた!」
技師さんも笑いながらモニターを見る。
「今のは完全に“ピヨ祝い胎動”ですね」
優子は、もう笑うしかなかった。
「灯乃までノッてきたやん……」
待合室の空気は、涙と笑いと、インコの鳴き声と、女の子誕生の祝福でいっぱいだった。
こんなに騒がしいのに、なぜかやさしい。
それが、爆笑発電所らしい祝福の形だった。
【卓球団体“決勝前夜”ビデオメッセージ/柳川家 → 拓実】
(場所:博多・自宅のリビング 受信先:パリ代表宿舎 ラウンジ)
——スマホを横向きにして、優子とゆのん(結音)が画面センター。後ろで光子&陽翔が「うしろダンサー」みたいに手を振る。
テーブルには小さな手作り旗《ぶはぁ/うんばぁ》。腹部には「HINO」と刺繍したマタニティバッジが光る。
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優子(にっこり・落ち着いた声)
「拓実。まずは準決勝突破、おつかれさま。
今日、病院でね——性別、女の子ってわかったよ。名前は灯乃。
“家族の灯り”になってくれるようにって、二人で決めたあの名前、正式に採用です。」
(ゆのん、小旗をぶんぶん)
ゆのん「ぱぱ〜、ゆのんの いもうと、ひのたん〜! うんばぁ〜♡」
(優子のお腹がぽこっ。優子と光子が目を合わせて微笑む)
優子「ね、聞こえた? “うんばぁ胎動”いただきました。
パパのサーブ前の“深呼吸3カウント”、ひのも一緒にやってる気がする。」
光子(後ろから)「拓実〜、こっちはぶはぁ応援旗で全力待機やけん!
翼も明日(※準決勝)あるけん、二家族で“ダブル勝利”取りに行こ。」
陽翔(手をバタバタ)「ぱっぱ〜!びゅーん!びゅーん!」
ゆのん「かつ〜! うんばぁ〜!」
(優子、笑って)「…以上、“本日のベンチ入りサポーター”からでした。」
優子(カメラ目線で少しだけ真顔)
「最後にひとつだけ。
“守るんじゃなくて、信じる”。あなたが言った言葉、私も毎日唱えてる。
台上の一球目、迷わず前へ。家族の灯りは、もう点いてるけぇ。」
全員で「ぶはぁ〜!……からの、うんばぁ〜!」
(動画は笑い声ごとフェードアウト)
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受信側:パリ・日本代表ラウンジ
— コーチとチームメイトが自然に拍手。
コーチ「よし、タイムアウトのキーワードは“灯”。迷ったらそれでリセットだ。」
ダブルスの相棒「うんばぁ合図でサイン出すの、アリだな。」
拓実(目元を押さえて笑う)「反則級の応援、届きました。……行きます。」
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同時刻・ローラン・ギャロス練習コート(翼)
スマホで同じ動画を受け取った翼が、ラケットのグリップを握り直す。
翼(小さく)「“家族の灯り”、こっちにも点いた。——任せろ。」
コーチ「じゃ、風読みメニューいこうか。深い返球→ネット際→ロブ、の“アーチ三連”。」
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爆笑通信・特報テロップ(全国同時配信)
「柳川家、第2子は**女児・灯乃**に決定!
パリへ“ぶはぁ&うんばぁ”超遠距離ブースト送信——受信良好!」
BGM:『風のアーチ(Strings ver.)』うっすらイン。
画面下を流れるコメント欄には——
「#灯乃ようこそ」「#うんばぁ胎動」「#一球目は灯で整える」の波。
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【卓球ワールドカップ団体決勝 ― 日本 vs 中国】
――場所:パリ・ベルシーアリーナ
観客動員数 12,000人。国旗の波が揺れる中、アナウンスが響く。
「ファイナル、ジャパン vs チャイナ!」
チーム日本の中央、キャプテン・柳川拓実。
背中には「JAPAN 10 TAKUMI」。額には汗。手には優子から贈られた“灯乃チャーム”が揺れている。
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第1試合 ― シングルス(拓実登場)
相手は中国の世界ランク1位、呉天翔。
第1ゲーム、呉のドライブが炎のように襲いかかる。
しかし拓実は、冷静にブロック、ブロック、そして一瞬のスピン変化。
解説「柳川、完全に読み切った!サイドスピンからのフォアカウンター!」
スコアは11–9で日本。
しかし続く第2、第3ゲームは呉の爆発的なスマッシュに押され、1–2と逆転。
第4ゲーム、タイムアウト。
ベンチのスタッフが小声で告げる。
「拓実、“灯”や」
拓実は小さくうなずく。
深呼吸三回。優子とゆのん、そしてお腹の灯乃を思い浮かべ、再び卓上へ。
「――行くぞ」
ラリーは30本を超える死闘。
ついに相手のスマッシュを拾い切り、カウンターを叩き込む。
第4ゲーム 16–14。第5ゲームもデュースの末、11–9!
「柳川、逆転勝利ーーー!!!」
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第2試合 ― 日本の若手が中国エースに敗れる
スコアは1–1。
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第3試合 ― ダブルス(拓実ペア再登場)
緻密なサーブと強烈なリターンで互いに一歩も譲らず。
日本ペアが先に2ゲームを奪うが、中国が粘って2–2。
最終ゲームは10–10。
拓実がバックサイドにボールを落とし、相手がわずかにミス。
「ナイスカットォ!ジャパン、再びリード!!!」
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第4試合 ― 中国が勝利し、2–2のタイ。
最後の全てはキャプテン・柳川拓実に託される。
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最終第5試合 ― 決勝シングルス
観客の鼓動が一斉に高鳴る。
「がんばれ拓実!」「ぶはぁ&うんばぁぁ!」
――博多の爆笑発電所女性部、全員中継で声援。
優子とゆのんもテレビの前で手をつなぎ、光子と陽翔も隣で見守る。
「パパ、がんばれぇ〜!」
「ひのたん、けるけるしてる!」
第1ゲーム、11–8。
第2ゲーム、9–11。
第3ゲーム、11–9。
第4ゲーム、10–12。
すべてがギリギリ。
そして――最終第5ゲームへ。
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静まり返るアリーナ。
拓実、サーブを構える。
相手は中国の新星・李志涵。
超低弾道のバックサーブを返し、ラリーが続く。
10–10、デュース。
観客が総立ち。
解説「ラスト2ポイント、どちらも譲らない!」
拓実、台の端ギリギリを狙ったフォアカット!
李が打ち返すも、ネットイン。
11–10、日本マッチポイント。
サーブ前、拓実が小さくつぶやく。
「ひの、見てろ」
サーブからの3球目攻撃。
スマッシュ炸裂。
ボールがコーナーを突き刺す――!
「ポイント・ジャパン!!!」
「柳川拓実、勝ちましたぁぁぁ!!!」
チーム全員がコートに駆け寄る。
観客総立ち、拍手と涙の嵐。
⸻
日本、卓球団体・世界王者へ。
拓実は涙をこらえながら、天を見上げて一言。
「……ひの、パパやったよ」
⸻
博多・柳川家リビング
ゆのん「ぱぱ〜!すご〜い!」
優子(涙ぐみながら)「ほんとに……やったね……」
光子「翼もすぐやね。今度はテニスで続くよ。」
陽翔「つばしゃん、びゅーんってする〜!」
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全仏オープン準決勝 ― 風を読む者、赤土を制す
(場所:パリ・ローラン・ギャロス/センターコート)
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コールが鳴る。
「青柳 翼――! 対するはクレイ巧者、ディエゴ・ナルバエス!」
相手は南米の土魔術師。深いスピン、いやらしいムーンボール、突然のストップ。
“相手を苛立たせてから刺す”のが信条の老獪派だ。
ベンチで翼は目を閉じ、いつもの風読み呼吸。
指先がグリップを撫でるたび、観客のざわめきが遠のいていく。
胸ポケットの中には、家から届いた小さな紙旗——《ぶはぁ/うんばぁ》。
⸻
第1セット ― 風見の目
開始早々、ナルバエスは高弾道のスピンでペースを奪いに来る。
翼は一歩、いや二歩、立ち位置を後ろへ。
深い返球→ネット際→ロブの“アーチ三連”で、相手の足を前後に裂く。
6–4。
解説「青柳、風と高さを完全に料理してきました!」
⸻
第2セット ― 罠
ナルバエスがギアを上げ、ドロップからのパッシングで流れをひっくり返す。
タイブレーク、5–7で落とす。
観客席がどよめき、南米応援団の太鼓が高鳴る。
ベンチ。コーチが短く言う。
「風速、半ノット上がった。ロブは1球目で見せず、3球目に回せ」
翼はうなずき、胸ポケットの旗を指で軽くトントン。
⸻
第3セット ― 赤土の迷路
ラリーは30本超。
相手のドロップに対して、翼は滑り込むスライス返しで時間を奪い、
次のボールで逆クロスへ“風の一刺し”。
6–3。
相手が初めて天を仰いだ。
⸻
第4セット ― 影の時間
夕方の風向きが変わる。サイドから吹き上げる逆風。
ナルバエスがムーンボールをさらに高く、さらに深く。
一瞬の躊躇が命取り、4–6。
スコアは2–2、最終セットへ。
⸻
第5セット ― 家族の灯り
観客席の一角で、日本の旗が揺れる。
「ぶはぁ〜!」
「うんばぁ〜!」
同時刻、博多。
光子は陽翔を抱きしめ、テレビの前で小さく旗を振る。
光子「聞こえとう? “家族の灯り”、ここから送るけん」
お腹の燈真が、ぽこん。
パリの空へ、そのリズムが乗る。
翼の足が、もう一歩だけ軽くなる。
⸻
ファイナル・ゲーム
2–2、30–40(BP)。
相手のドロップ——読む。
最短距離で滑り込み、クロスへ柔らかく持ち上げるロブ。
追うナルバエス、背面ロブ返し——風に押し戻されてアウト。
観客、総立ち。
5–3、サービング・フォー・ザ・マッチ。
トスが上がる。逆風。
翼はトスを1センチ前へ。フラット70%。
リターンが甘く浮いた——。
“アーチ三連”の最終形。
深いフォア、ネット前ストップ、そして——
決めのトップスピン・ロブ。
赤土の空に、完璧な弧が描かれる。
ボールはベースラインの白をかすめて落下。ラインアンパイアの腕が横へ——イン。
「ゲーム、セット、マッチ! 青柳 翼!
3–2、決勝進出ーー!!」
翼はラケットを胸に当て、客席に一礼。
胸ポケットをそっと叩く。
《ぶはぁ/うんばぁ》——そして、ひの。
家族の合図が、確かにここまで届いた。
⸻
コートサイド・インタビュー
——勝因は?
翼「風を信じたこと。それから……画面の向こうのチャポン隊ですね」
(客席爆笑)
「家族と、これを支えてくれるみんなに、明日もう一度“アーチ”を描きます。」
⸻
博多・同時刻
テレビの前で、光子が手を合わせる。
陽翔「つばしゃん、びゅーん!つぎ、かつ!」
光子「うん、勝とうね。赤ちゃんも、今“ぽこん”って」
優子「こっちも“ひのたん”が蹴ったよ。……拓実の金、翼の優勝、ダブルで取りにいこ」
⸻
次章予告
• 団体表彰式――拓実、金メダルの重みと“灯乃コール”
•全仏決勝――青柳翼 vs 世界1位、風と度胸の最終章
パリの風は止まない。
家族の灯りは消えない。
物語は、頂点へ。
全仏オープン決勝 ― “アーチの頂へ”
(ローラン・ギャロス・センターコート/赤土の祭典)
⸻
決勝の相手は、世界ランキング1位の王者、カール・メイヤー(ドイツ)。
“鉄壁のバックハンド”“無表情のマシーン”と呼ばれる男。
風で崩せるタイプではない。だが、翼には“風”以上のものがあった。
胸ポケットに忍ばせた紙旗——
《ぶはぁ》《うんばぁ》《ひの》
そして、手首に結ばれた青いリボンには、光子の手書きでこうある。
“家族の灯りは、風より強い”
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第1セット ― 様子見の風
カールの精密なバックハンドに押され、翼は防戦一方。
ブレークを許して 3–6。
ベンチでタオルを頭にかぶり、目を閉じる。
聞こえるのは、博多からの時差中継。
「つばしゃーん!いけーっ!」
陽翔と結音の声が、イヤホン越しに届く。
翼はゆっくり笑う。
⸻
第2セット ― 風が戻る
ゲームカウント2–3。
サービスエースで追いつき、ブレークチャンス。
相手のミスを誘い、6–4。
一気に流れが変わる。
解説「青柳、風の読みが完全にハマってきました!」
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第3セット ― 火花と赤土
カールが怒涛の攻撃。翼はコートを走り抜ける。
左足で滑り込み、右腕でトップスピンロブ!
ボールがアーチの頂を描き、ベースラインに落ちる。
観客「おおおおおおっ!」
デュースを制し、タイブレーク11–9。
コーチがこぶしを突き上げる。
⸻
第4セット ― 限界の呼吸
カールの精密機械のようなプレーが再び襲う。
サーブ速度215km/h。翼は反応できず、4–6。
スコアは2–2。
全ては、最終セットに託された。
⸻
第5セット ― “家族の灯り”
照り返す太陽。風はほとんどない。
「風が止んだ時こそ、心の風で打て。」
光子の言葉を思い出す。
第8ゲーム、4–4。
相手のドロップを追う——滑り込みながら逆クロス。
ラケットのエッジに当たったボールが、ネットに触れてイン!
「奇跡のリターン!青柳、ブレーク成功!」
6–5、サービング・フォー・ザ・チャンピオン。
観客総立ち。博多でも爆笑発電所の面々が固唾をのむ。
⸻
サーブ。リターン。ラリーが続く。
30–30。
翼が囁く。
「陽翔、結音、見とけ。」
相手の強打をギリギリ拾い、カウンター。
風の代わりに、“心の灯り”がボールを運ぶ。
——白いラインをかすめてイン!
「ゲーム、セット、マッチ!青柳 翼ーー!!!」
「全仏オープン、初優勝です!!!」
⸻
翼はその場に膝をつき、ラケットを抱きしめる。
顔を上げると、空に青い旗が揺れていた。
《ぶはぁ》《うんばぁ》《ひの》《とーま》
すべてが、空へ、風へ。
⸻
博多・青柳家リビング
光子「やったぁーー!!!」
陽翔「びゅーん!びゅーん!パパ、つよーい!」
結音「ぱっぱ〜、すごぉ〜い♡」
お腹の燈真がぽこん、と反応。
光子「……ちゃんと届いとったね。家族の灯り。」
⸻
表彰式
翼がトロフィーを掲げ、ウィナーインタビュー。
翼「この勝利は、家族、仲間、そして……日本の“笑いの力”に捧げます。
風が止んでも、笑いは止まらない。
それが、僕たちのエネルギーだから。」
観客の笑いと涙が入り混じる。
⸻
そして――帰国便へ
翼と拓実、同じ飛行機に乗り合わせる。
二人は黙ってグータッチ。
翼「お互い、“家族の灯り”で勝ったな。」
拓実「あぁ。次は、世界中を照らそう。」
⸻
柳川拓実 ― 世界卓球団体戦 優勝インタビュー(パリ・ベルシーアリーナ)
カメラが寄る。照明が少し眩しい。
汗を拭った拓実が、マイクを握り、少し言葉を詰まらせながら口を開いた。
「……今年の初め、うちの家族にとっては、本当に辛い出来事がありました。
世の中の多くの人を巻き込んだあの事件で、僕たちも深く傷ついて……。
それでも、妻はお腹の中の新しい命を守りながら、ずっと僕を支えてくれました。
娘の結音も、まだ小さいのに“ぱっぱ、がんばれ〜”って、毎晩声をかけてくれて……。
だから、今日のこの優勝は、家族の頑張りと、あの“笑顔”の力で勝ち取ったものだと思います。」
言葉を終えると、客席の日本人応援団が涙ぐみながら拍手を送る。
画面の隅には優子と結音の笑顔が映り、「ママと一緒に泣いてます」とテロップが流れる。
拓実は少し笑いながら、最後にこう締めくくった。
「これから生まれてくる“灯乃”にも、パパの金メダルを見せてあげたいです。
家族の灯りがあれば、どんな闇でも照らせる。そう信じています。」
――観客総立ち。
優子の目からこぼれた涙が、結音の小さな手に落ちる。
「ぱっぱ、きんめだる〜!」
その声が、パリの会場にも届いたかのようだった。
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青柳翼 ― 全仏オープン 優勝インタビュー(ローラン・ギャロス)
センターコートの夕日が、赤土を黄金色に染める。
優勝トロフィーを手にした翼が、英語で一言コメントした後、日本語で話し始める。
「この数ヶ月、家族も仲間も、苦しいことが続きました。
それでも僕たちは、信じ合って、笑い合って、前を向くことを忘れませんでした。
妻の光子は、今、新しい命をお腹に抱えながら、遠くから僕を支えてくれています。
そして、息子の陽翔と、優子の娘・結音。二人の“ぶはぁ〜”と“うんばぁ〜”の声が、
この会場の風になって届いたんです。」
会場の観客が笑いながら拍手する。
翼は続けて、静かに語る。
「僕が勝てたのは、技術でも運でもなく、“家族の灯り”です。
みんなが笑ってくれる限り、僕は何度でも立ち上がれる。
今日のこの優勝は、家族と仲間、そして世界中で笑いを信じる人たちに捧げます。」
観客からのスタンディングオベーション。
空には青い旗が揺れていた。
《ぶはぁ》《うんばぁ》《ひの》《とーま》
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同時刻・博多の青柳&柳川家リビング中継
光子「……ほんとに、よう頑張ったね……」
優子「うん……二人とも、ようここまで来たね……」
陽翔「ぱっぱ、びゅーん!」
結音「ぱっぱ、きんきら〜ん!」
2人の赤ちゃんがお腹の中でぽこん、と同時に反応する。
“家族の灯り”は、確かに次の世代へと受け継がれていた。
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