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爆笑三姉妹〜陽翔・結音誕生から、燈真・灯乃、彩羽・悠翔誕生まで  作者: リンダ


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高熱ごっこ大惨事 ― せきちゃん閣下、またも誤読



記者会見後・爆笑オチ


「高熱ごっこ大惨事 ― せきちゃん閣下、またも誤読」


記者会見が終わり、

出演者たちが壇上を降りたあとも、会場のあちこちでは余韻が残っていた。


「よかったねえ……」

「最後の言葉、沁みたな」

「やっぱり本名で出るって強いよね」


そんな声が飛び交い、

ロビーでは軽い囲み取材や関係者同士のあいさつが続いている。


光子と優子も、ようやく一息ついていた。

まだ少し目は赤い。

けれど、張りつめた空気はだいぶ解けている。


そこへ、スタッフの一人が駆け寄ってきた。


「すみません、徳島支部から“どうしても今つなげてほしい”って動画通話が……」


優子が嫌な予感しかしない顔になる。


「その“どうしても”って、たぶんろくでもないやつよね」


光子も即答する。


「うん。しかも徳島支部って時点で九割ろくでもない」


それでも断る理由もなく、

二人はスマホ画面をのぞき込む。


すると画面いっぱいに、

どアップのせきちゃん閣下が現れた。


「せきちゃん、びょうきごっこ、できる!」


開幕から、嫌な予感が的中した。


優子が眉をしかめる。


「何それ」


画面が少し引く。

すると徳島支部のテーブルの上に、

毛布にぐるぐる巻かれたせきちゃん閣下が、

なぜか洗面器の横で、ものすごく苦しそうな顔をして寝転がっていた。


しかも片翼を額に当てている。


せきちゃん閣下

「うう……わし、三十九どごぶ……」


せいちゃん姫(画面の外から)

「五分て何。三十九度五分って言いたいんやろ」


せきちゃん閣下

「そうそれ! さんじゅうきゅうどごふん! たいへん! たいへん!」


そして閣下、急にむくっと起き上がって、


「でも、せきちゃん、まだやれる!」


と叫んで、

その場でよろよろ二歩ほど歩いて、

わざとらしくバタッと倒れた。


会場スタッフが一瞬黙る。

光子と優子も、二秒ほど言葉を失う。


そして優子が、真顔で言った。


「雑」


光子も続ける。


「再現の解像度が低い」


しかし、せきちゃん閣下は止まらない。


今度は毛布から顔だけ出して、


「ゴク・ゴクして……みず……さきに……子ども……」


と、ものすごく悲壮な声色でうわごとを再現し始めた。

だが途中で、自分で喉が渇いたのか、横に置いてあった小皿の粟を突然ついばみ始める。


優子が即ツッコむ。


「食っとるやないか」


せいちゃん姫が、すかさず画面に入ってきて頭をはたく。


せいちゃん姫

「病人が合間に粟バリバリ食うか! あんた全然切迫感ないんよ!」


せきちゃん閣下

「でも光子しゃんと優子しゃん、ねつでうなされとった!

せきちゃんも、うなされるえんぎ、できる!」


そう言うと閣下、今度は顔を横にして、


「……まだ、だいこん……きらんと……」


と低くうなされる光子の真似。


続けて、


「……ゴク・ゴク……して……」


と優子の真似。


さらに勢いづいて、


「……せきちゃん、鍋、止めん……」


と、なぜか自分の名言みたいに混ぜてきた。


光子が腹を抱えそうになりながら笑う。


「そこだけ自分仕様にしとるやん」


優子も吹き出す。


「しかも絶対鍋担当じゃないやろ、あんた」


せきちゃん閣下、得意げに胸を張る。


「せきちゃん、火を見る係!」


せいちゃん姫

「危なすぎるわ! あんた火ぃ見たらテンション上がって飛び込むやろ!」


会場の周りで聞いていた出演者たちも、だんだん笑い始める。

上官役の俳優なんて、ついに後ろを向いて肩を震わせている。


だが、閣下の勘違いはまだ終わらない。


突然、毛布をマントみたいに翻して立ち上がり、


「命令! ねろ!」


と、上官の真似をし始めた。


しかし、その直後に自分で言った命令に従ったつもりなのか、

その場でくるっと一回転して、止まり木の上に頭から半分落ちかける。


せいちゃん姫

「寝方が下手すぎる! しかもそれ“寝ろ”やなくて“落ちろ”やろ!」


せきちゃん閣下

「せきちゃん、支えられる側に回る……!」


せいちゃん姫

「支えられる前にまず止まり木にちゃんと乗れ!」


ここでついに、光子と優子が耐え切れなくなった。


優子が机を叩きながら笑う。


「ちょ、無理、無理……!

さっきまでめっちゃ真面目な会見やったのに!」


光子も涙目で笑っている。


「“支えられる側に回る”の解釈が雑すぎる……!」


せきちゃん閣下は、二人が笑っているのを見てますます調子に乗る。


「せきちゃん、名演技!

アカデミーしょう、とる!」


せいちゃん姫が間髪入れずに返す。


「無理や! まず台詞覚えてから言え!

しかもあんたの演技、全部“高熱”やなくて“ただのかまってちゃん”なんよ!」


せきちゃん閣下

「かまってちゃん、さいこう!」


せいちゃん姫

「開き直るな!」


そこで、徳島支部の後ろから由理恵さんの笑い声まで入ってくる。


「せきちゃん閣下、ずっとこの練習しよったんですよ。

“今日は光子さんたち絶対泣かせたる”って」


優子が即座に返す。


「方向が逆! 泣かせ方が逆!」


光子も笑いながら画面に向かって言う。


「でも、おかげで完全に泣き顔から戻れたよ」


すると閣下、ぱあっと羽を広げて、


「せきちゃん、きゅうえん成功!」


せいちゃん姫、最後の一撃。


「救援やなくて騒音やろ!」


会場、爆笑。



地の文


——重たい物語のあとにも、笑いは割り込んでくる。

しかも、たいていは空気も読まずに。


けれど、その不器用で盛大な勘違いが、

泣いたあとの胸のつかえを少し外してくれることもある。


光子と優子は、

遺体を見て、鍋を回し、熱を出して倒れ、

親の声を聞いてようやく泣いた。

その全部のあとで、最後に待っていたのは——


毛布にくるまって高熱ごっこをする、

徳島支部のせきちゃん閣下だった。


静かに終われない。

でも、だから救われることもある。


二人は笑いながら顔を見合わせる。


優子

「……最後にこれ来るの、うちらの人生って感じやね」


光子

「うん。

ちゃんとしんみり終わらせてくれん」


画面の向こうでは、

まだせきちゃん閣下が

「せきちゃん、三十九どごふん!」

とやっていて、

せいちゃん姫が

「もうええて!」

と追いかけ回していた。


そして会場には、

さっきまでの涙の跡を上書きするような、

やわらかくて大きな笑いが広がっていった。




監督がその一言を漏らした瞬間、

その場にいた全員が「いや、待ってください」と思った。

でも、いちばん先に反応したのは、もちろん本人——いや本鳥だった。



記者会見後・第二ラウンド


「せきちゃん閣下、主演決定してない


会場の笑いがまだ収まらない中、

監督がスマホ画面の向こうのせきちゃん閣下を見ながら、半分本気・半分冗談みたいに言った。


監督

「……今度このインコ、映画にしようかな」


一瞬、間が空いた。


その“間”を、せきちゃん閣下は

自分への正式オファーだと解釈した。


せきちゃん閣下

「えいが!? しゅえん!? せきちゃん、ついにハリウッド!?」


せいちゃん姫

「飛躍が早いわ! まだ“しようかな”しか言うてない!」


だが、もう遅い。

せきちゃん閣下の頭の中では、完全に超大作インコ映画の制作が始まっていた。


閣下は毛布をばさっと翻し、

止まり木の上に飛び乗ったつもりが少し滑って、

体勢を立て直しながら堂々と叫ぶ。


せきちゃん閣下

「タイトル!

『爆熱のせきちゃん 〜三十九どごふんの奇跡〜』!」


会場、即笑い。


優子が腹を押さえる。


「待って、“三十九度五分”を最後まで言えとらんのにタイトル化すな」


光子も続ける。


「しかも奇跡の中身が高熱しかない」


監督がもう笑いを隠していない。


監督

「いやでも、ちょっと見たくはある」


せいちゃん姫

「見たらあかん! そこで肯定したら、もう止まらん!」


その警告もむなしく、せきちゃん閣下の勘違いはさらに加速する。



閣下、勝手に映画設定を盛る


せきちゃん閣下

「第一章! せきちゃん、たおれる!

第二章! せきちゃん、ふっかつ!

第三章! せきちゃん、おふろではねる!」


せいちゃん姫

「ただの迷惑な一日やろ!」


せきちゃん閣下

「第四章! せいちゃんひめ、なみだの看病!」


せいちゃん姫

「誰が泣きながらあんたの粟係やるん!」


せきちゃん閣下

「ラスト! せきちゃん、次の災害にそなえ、翼をひろげて飛び立つ!」


せいちゃん姫

「飛ばんやろあんた! カーテンレールまでしか行けんやろ!」


会場がまたどっと沸く。

子役たちはもう椅子からずり落ちそうなくらい笑っている。


上官役の俳優がぼそっと言う。


「これ、脚本いらないな。本人が全部持ってくる」


監督がうなずく。


「しかも全部間違ってるのに、妙に画が浮かぶんですよね……」



勘違い、ついに“実写化”へ


せきちゃん閣下は、自分が主演映画の企画会議の真ん中にいると完全に信じたらしい。

画面の外へ走って消えたかと思うと、数秒後、頭に何かを巻いて戻ってきた。


どう見ても、包帯のつもりらしい。

でも実際には、ティッシュをちぎって頭に乗せただけである。


せきちゃん閣下

「重傷のせきちゃん、登場!」


せいちゃん姫

「軽傷どころか無傷やろ!」


さらに、片翼をだらんと下げて歩き始める。


せきちゃん閣下

「うう……せきちゃん、もうだめ……」


しかしそのまま、テーブルの上の粟を見つけてピタッと止まり、


「でもごはんは食べる!」


と元気に食べ始める。


優子、即断。


「主演失格」


光子も頷く。


「病人設定の維持が一秒もできてない」


監督が笑いながらマイクもないのに言う。


監督

「だめだ、この子、感情の連続性がない」


せいちゃん姫

「そうなんよ! さっきから言うてるやろ!」



閣下、まさかの“災害大作”にスケールアップ


ところが閣下、主演インココメディで終わらせない。


突然、羽をぶわっと広げて、

ものすごく低い声を出そうとして失敗したみたいな調子で宣言する。


せきちゃん閣下

「次回作!

『せきちゃん対巨大余震』!」


会場一同

「出た!」


せきちゃん閣下

「地面がゆれる!

せきちゃんもゆれる!

止まり木もゆれる!

でもせきちゃん、負けない!」


ここで閣下、止まり木を自分でがたがた揺らし始める。

もちろん揺らしすぎて、自分が落ちる。


せいちゃん姫

「敵、全部あんたやないか!」


せきちゃん閣下(床から)

「第二波! 津波注意報!」


せいちゃん姫

「どこから来たんその注意報!」


せきちゃん閣下

「緊急避難!

せきちゃん、粟の器をくわえて高台へ!」


せいちゃん姫

「真っ先に私物持って逃げるな!」


光子がもう涙を拭きながら笑っている。


「だめ、ほんとに無理……。

災害対応の優先順位が終わっとる」


優子も続く。


「“人から先!”ってあれだけ言うたのに、粟から逃がすな!」



監督、うっかり乗る


監督が、完全に遊び始めた。


監督

「じゃあ、その映画、キャッチコピーは

“守りたかったのは、命か、粟か”

でどうですか」


会場、爆笑。


せいちゃん姫

「そんな葛藤ないわ! 百パー粟や!」


せきちゃん閣下

「深い……! 監督、深い……!」


優子

「いや、深くない。めちゃくちゃ浅い」


光子

「むしろ粟皿くらい浅い」


それを聞いた農家役の俳優まで乗っかる。


農家の父親役俳優

「野菜役なら出ます」


せきちゃん閣下

「白菜、友情出演!」


せいちゃん姫

「野菜をキャスト化するな!」



閣下の勘違い、ついに賞レース想定まで行く


もう誰にも止められない。


せきちゃん閣下

「そして、映画さいのう賞!

主演男優賞!

最優秀高熱賞!

最優秀うわごと賞!」


せいちゃん姫

「そんな部門ないわ!」


せきちゃん閣下

「受賞スピーチ!

“このたびは、三十九どごふんをいただき——”」


せいちゃん姫

「賞じゃなくて体温やろ!」


せきちゃん閣下

「“まず神に感謝、つぎに粟に感謝——”」


優子

「粟の優先順位高すぎるやろ!」


光子

「しかも神より具体的」


ここで、会場にいた記者の一人がもう完全に仕事を忘れて笑っている。

司会者まで肩を震わせている。

さっきまできれいに締まっていた記者会見の残り香が、

いまや完全に“インコ大暴走発表会”に塗り替えられていた。



せいちゃん姫、ついに総ツッコミ総括


画面の向こうで、せいちゃん姫が大きくため息をつく。

そして、まっすぐカメラ目線で言い放つ。


せいちゃん姫

「皆さん、よう聞いてください。

この子、映画にしたらたぶん九十分ずっと勘違いし続けます。

倒れた思たら食べる、主演言うたら滑る、余震と戦う言うたら自分で止まり木揺らして落ちる。

こんなん、感動作やのうて“全国インコ迷惑特集”です!」


場内、大拍手レベルの笑い。


せきちゃん閣下は、しかしどこ吹く風。


せきちゃん閣下

「全国公開!

せきちゃん、舞台挨拶で飛ぶ!」


せいちゃん姫

「飛ばんっちゅうとるやろ!」


せきちゃん閣下

「じゃあ走る!」


せいちゃん姫

「それただの小走りや!」



オチ


ひとしきり笑ったあと、優子が息を整えながら画面に向かって言う。


「でもまあ、ほんとにこのインコ映画化したら……」


光子が続きを取る。


「絶対、静かには終わらんね」


せきちゃん閣下、得意満面。


せきちゃん閣下

「せきちゃん、静かに終わる才能、ゼロ!」


せいちゃん姫がすかさず締める。


せいちゃん姫

「それだけは、今日いちばん正確や!」


会場、最後の大爆笑。


地の文:


——重たい涙のあとには、

ときどき理屈を超えた笑いが要る。


しかもそれは、

ちゃんとした冗談でなくていい。

盛大な勘違いでも、

雑な再現でも、

粟を優先して逃げようとするインコでもいい。


むしろ、それくらいどうしようもない笑いのほうが、

人の胸に残った重さを、少しだけ動かしてくれることがある。


監督は笑いながら、ぼそっともう一度言った。


「……ほんとに、今度このインコで一本つくるか」


すると画面の向こうで、

せきちゃん閣下が翼をばさっと広げて叫ぶ。


「主演・せきちゃん、決定!!」


せいちゃん姫、即答。


「決定してない!!」


そして、また笑いが起こる。

静かに終わるはずの一日を、

きれいに台無しにするくらいの、

最高にやかましい笑いだった。

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