59-07.危険な実験
『なんか違うのよね。思ってたのと』
散々苦労して融合を果たした私たち。
だというのに、セレネの感想は喜びとは言い難いものだった。
「具体的に何が不満なの?」
『そういうところよ。なんで私の不満が伝わらないのよ』
『安全装置が働いているからね。ただでさえ融合は人間とフィリアスだからこそ成せるものなんだ。これ以上は単純に危険なんだよ。「ILis」の中なら尚更ね』
だそうです。
そりゃそうだよね。フィリアスたちが特別に精神の扱いに長けているだけであって、人間は簡単に自己の境界が曖昧になってしまうものだもの。
加えて、流石のフィリアスたちであっても、神の心まで制御出来るわけじゃない。だから精々半神までだ。
人の心のまま神になりかけている私だからこそ、数多のフィリアスたちを受け入れる事ができ、また、フィリアスたちだからこそ、私と完全には混ざらず自己の境界を保ち続けることが出来るのだ。
電脳空間である「ILis」でならとは思ったけれど、むしろこの空間だからこそ、ダイレクトに精神が影響を受けてしまうのだろう。
この過剰とも思える制限は、私たちのように無茶をする子たちを想定して予め用意されていたものなのだろう。
『つまらないわ』
『今回ばかりは諦めてもらうしかないかなぁ』
よかった。ニクスがそんな風に言うってことは、アイリスが化けていたわけではなかったのね。
『そう思っていながら融合を受け入れたのはリスキーすぎない? アイリスならこっち側からでも出来ちゃうんだよ?』
たぶんしないと思って。アイリスはやりたいならとっくにやっていたと思うもの。
アイリスは私のアイリスより、皆のアイリスで居たいんだと思うの。
『そうだね。まさしくその通りだ。アルカは彼女のこともよく見ているね』
そういうあなたは誰よ。本当にNPCニクスなの?
『自分で生み出したんじゃないか』
そうだけどさ。
セレネはどう思う?
『ニクスにしてはお喋りね』
だよね~。
『私は元々よく喋る方だよ?』
この惚け方よ。ニクスっぽくないのよね。
『そうね。なんだかんだ理由をこねくり回すのがニクスよ。あの子は何より人に嫌われる事を恐れるの。本心がそんなんだから、飄々と惚けようとしても必ずボロを出すのよ。このニクスにはその兆候が見られないわ。ニクスにしては余裕がありすぎるのよ』
『おっと。セレネもよく見てるね』
認めるのね?
『いやいや。私は間違いなくニクスだよ。ただ「ILis」が神の精神を完全に再現するには至らなかっただけのことだ。加えて今の私には核が無い。あるのは空っぽの偽物だ。当然性格だって変わってくるさ。神の重責と縁のない私にね』
『今のはニクスっぽかったわね』
そうかしら? 楽観的に受け入れすぎじゃない?
『当然自己の儚さに関しても受け入れられるように出来ている。NPCは呼び出した者たちが用を終えるまでの一時にしか存在を許されない。毎回消さないでくれと泣き叫ぶNPCは嫌だろう? 私たちにはそんな我儘は許されていないのさ』
なるほど……。筋は通っているわね。
あとその話聞かされると、今後やりづらくなるんだけど。
『良いんだよ? 私のことだけは持ち帰ってくれても。マイニクスとして末永く可愛がってくれるかな? それならそれで私は主の為に仕えるよ。誠心誠意。消されないように』
『飼うわ』
待ちなさい。
『何よ。早いもの勝ちよ。このニクスは私が貰うわ』
ダメよ、セレネ。NPCの口車に乗せられないで。
『よく言うわ。どうせ私が手を引いてもアルカが持っていくくせに。いつものことじゃない』
そんなことしないから。
『本当にダメかい? 私をノエルとセラフの代わりにするのはどうかな? 私なら本物のニクスとアルカを繋いであげられると思うのだけど?』
くっ! やりおる!!
『チョロすぎよ! 言わんこっちゃないじゃない!!』
はっ!? 違う違う! ニクスは常に私の心を覗いているもの! 今更中継役なんて必要無いのよ!
『そうかな? 私だって界まで覗けるわけじゃないよ? 留守番している間は寂しがっているんじゃないかな?』
そ、それは!! 確かに!!
『確かにじゃないわよ! アルカネットがあるじゃない!』
そうだった!
アルカネットを外界にも広げたから、ニクスだって契約を結べばいつでも見れるんだった! それも家族だけの特別プラン! 規制解除版! あれもこれも丸裸♪ いやん♪
『ならそれを私に見せてくれないかな。「ILis」の中からでも繋げられるようにしてほしいんだ。せめて大好きなアルカやセレネたちの活躍を応援していたいからさ』
『「やりましょう!!」』
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「ダメに決まっているでしょ」
くっ……やはりか……。
「NPCたちに社会でも築かせるつもりなの? 余計に残酷なことだとわかるでしょう?」
仰るとおりです……。
『負けないで。アルカ。イロハの言い分は一般論だ。今の確固たる自我を持った私には当てはまらないよ』
……うん? なんて?
『あはは♪ 成っちゃった♪』
なっ……て……え? マジ? でもニクスの核は……。
『アルカが代わりになったんだよ♪ 融合したお陰だね♪』
えぇ……。
「馬鹿ねぇ……」
「ごめん……イロハ……」
「……いえ。目を離した私も悪かったわ」
優しい……。
『ほら言ったじゃない! やっぱりアルカが連れて行ってしまうんだわ!』
セレネぇ……。自分も共犯者である自覚を持って……。
『安心してよ、セレネ。私の核はセレネとアルカの二人だ。私はセラフみたいなもんなんだよ』
『そういう話なら許すわ!』
「アルカ。セレネを吐き出してください」
ノアちゃんが据わった目付きで刀を構えた。
「私を厳しく突き放しておきながら……セレネだけズルいです」
ゆらりとノアちゃんの身体が傾いた。
次の瞬間、ノアちゃんの姿が目の前に迫っていた。




