58-23.顛末・前編 ー 【58章のまとめ】
もうすぐニクスの守護世界、クオレリアに到着だ。
今はシーちゃんシップに乗って外界を旅している。
クオレリアには世界樹を植えていない。レリアの存在があるからというのも理由の一つではあるけれど、何より世界樹がイオスの系譜ではないからだ。
女神エーテル、すなわちアイテールなエルちゃん自身はイオスの系譜なのに、その生み出したものが別系譜なのはなんとなく不思議な感じ。
けど仕方がない。そもそもエルちゃんは幾つもの名前を持っている。意外と横の繋がりも強かったりするものなのだ。
だからだろう。アマテラスを祖とするテラスが、混沌の原初神たるイオスの生み出した土地に根づけたのは。こちらの場合は、そもそも最初からテラスたちに適応するようにイオスが調整してくれたお陰なのかもだけれど。ありがとう、イオス。
テラスは立派に新世界の主宰神を務めてくれている。
あの世界が多くの神々を擁するようになるのも時間の問題だ。だから私たちには神々を導く役目がある。
自らの守護世界を失い、悲しみと絶望の果てに流れ着くのが新世界だ。神々はその心と身体を癒し、また次の世界へと旅立っていく。もちろん神だけではない。人も同じだ。
私たちはそんな循環の一環になりたいと考えている。複層世界全体のバランスを保ち、より良い未来へと繋げていくためにこそ、必要とされる存在になりたいと切に願う。
それが私の出した答えだ。新しい目標だ。
アマノイワトでの一件から得た、教訓とも言えるのかもしれない。そういう意味ではスサノオ様にも感謝したい。先代アマテラス様と共に、人知れず複層世界全体のバランスを保ち続けてきてくれたのだから。
スサノオ様と言えば、頂いた琴……天詔琴、あれを配信システムに組み込んでしまったのは本当に良かったのかしら? シュリちゃんがどうしてもと言うから渡してしまったのだけれど。
直接手渡してくれたテラス当人も、良い使い道だと太鼓判を押してくれていたし、特に問題があるというわけでもないとは思うのだけれど。
ただ気になるのよね。あれには心を集める性質もあるって話だし。これを機に私の人気が更なる爆増なんてことにでもなれば、折角仲直り出来た中央世界からまた何か言われてしまうかも。
テミスさんがあれだけ身体を張ってくれたのだから、私としてはまたすぐ喧嘩なんてことにはしたくないのよね。
『にしても都合の良い物を手に入れたわよね。タイミングが良すぎないかしら』
『いまさら』
そうよ、イロハ。今更何を言ってるのよ。
『少しは疑問に思いなさいよ。せめて誰がシュリの目に付くところへ置いたのかくらいは把握しておきなさいな』
え? わざとなの?
『当然でしょ。神々に声を届ける琴だなんて。そんなお誂向きな代物を使わない手は無いわ』
イロハが渡したの?
『ハルよ。決まってるでしょ』
『えへん』
あらあら♪ ハルちゃんの暗躍癖はいつも通りね♪
『ハル。そろそろ話してみても良いんじゃない?』
『……』
『ダメ』
『ねりなおし』
『ひつよ』
『だからこそよ。ケジメを付けましょう。ロキだって黙ってはいないわよ』
『むぅ』
ロキ? ロキさん? ロキさんと企み事? 例の件?
『イロハ』
『おしゃべり』
『私たちは備えなければならないわ』
別に無理して話さなくてもいいのよ?
『ダメだと今話したばかりでしょ』
『……』
『しかたない』
『すこしだけ』
聞きましょう♪
『ちゅうおう』
『つぶす』
……うん?
『けいかく』
『ロキ』
『きょうはんしゃ』
うん? うん? うんん???
「待って! ハルちゃん!」
「アルカ? ハルが何か?」
「あ、いえ」
ついウッカリ口から出てしまった。ノアちゃんが訝しんでいる。いやん♪ そんな目で見ないで♪
じゃなくて!!
『ハル。言葉が足りないわ』
『むぅ』
『イロハ』
『よろ』
『仕方ないわね。続きは私が話しましょう』
お願いします。出来る限り事細かに。
『別に本気で中央をぶっ壊そうって話じゃないわ。ただ中央世界の一極集中を崩そうってだけの話よ。要は複層世界にバランスを齎そうとしたのよ。アルカとは違うやり方でね。ここまではアルカも知っているわね』
えっと、うん。そうだね。前に原初神お姉ちゃんが言い当ててハルちゃんも認めてたもんね。
『問題はその目的よ。ハルは時間流の差を埋めたかったの』
そこは聞いてないね。確か前に話した時は、「健全な競争社会を取り戻す。全ては偽神に立ち向かうために」なんて話になっていたわよね。あくまでお姉ちゃんの推理って形で。
『アルカ』
『あう』
『パパ』
『ママ』
……ハルちゃん。
ありがとう。ハルちゃん。そういうことだったのね。
『けれどその必要は無くなった。今のアルカが中央世界に行ったとしても、アルカの大切な者たちが先に行ってしまうことはなくなったの』
……うん。まだ完全ではないけどね。特に肝心なクオレリアが含まれていないし。
『少なくともそのための手段は手に入れたわ』
だね。
『だからハルにとって……いえ。私たちにとっての目的は無くなってしまったのよ。いつも通り、アルカは自らその未来を掴み取ったの。それが出来る人たちに巡り合ってくれたのよ。だから少なくとも、私たちにとっては中央とやりあってまで叶えたい夢ではなくなったの。けれどロキはそうじゃない』
……なるほど。だから目的が問題なのね。
『一方的に手を引くと言えば、ロキは困るでしょうね。ましてや今だって中央に囚われているんですもの。私たちが助けに来るのを信じて仕込みだって続けている筈よ』
だからケジメが必要と。納得。
わかったわ。私がロキさんを引き取る。正式にテミスさんに申し入れてみる。計画についてはその後で話し合いましょう。取り敢えずはそんなところで良いのかしら?
『ダメよ。ロキはこのまま封じておくわ。今はまだね』
えぇ!?
『言ったでしょ。目的が問題なのだと』
ロキさんの目的っていったい!?
『こわす』
『いましめ』
戒め? 中央世界に何か制約を掛けられているの?
『彼女は「シギュン」を救いたいのよ』
えっと……ロキさんの奥さんだっけ?
『そう。シギュンは中央を離れられない。だから中央を壊したい。それがロキの目的なの』
それは……。
……シギュンさんはどうして?
『さあね。そこまでは語らなかったわ』
ならシギュンさんの件も含めて問い合わせてみましょう。
『やめなさい。ロキの目論見がバレるわ』
テミスさんなら……なんてわけにもいかないかしら。
『慎重に動きましょう。一度は手を組むと約束した相手よ。最大限の便宜は図りましょう。足を引っ張るなんて論外よ』
だね。
『ごめん』
『アルカ』
ううん。ありがとう。ハルちゃん。




