58-05.最初の一手
「おつかれ。アルカ様」
クランマスター会議を終えて寮へ戻ると、ジュジュが出迎えてくれた。
「ありがとう、ジュジュ。お陰で無事に乗り切れたわ。ジュジュもお疲れ様。これで一区切りね」
「うん♪ そうだね♪」
今晩ちょっとした飲み会を予定しているけれど、それが終わったら私はまた界賊の件で動かねばならない。ギルドの件はまたジュジュたちに任せる予定だ。
「アライアンスは締結されたわ。ジュジュの想定通り、あの中にはエデルガルトの手下もいない筈よ」
少なくとも、そう自覚して動いている人物は一人もいなかった。
「もう一つの件はどうかな? 考えておいてくれた?」
「アルカとしてグレンに会うかって話よね。ジュジュが必要だと思うなら会いに行くわ」
私個人の考えとしては避けるべきかとも思うけどね。
「シノミヤの正体には気付かれなかった?」
「どうかしら。向こうからのアクションは無かったけれど」
「そっか。てっきり声を掛けてくるものかと思っていたけれど」
「シノミヤさん。大遠旅団からお客様が参られました」
噂をすればだ。どうやらジュジュの予想が正解らしい。
「ありがとう、ナドリさん。構わないから通して頂戴」
「はい。では応接室の方へご案内致します」
「お願いね」
さて。なんて言ってくるかしら。
「ジュジュはどうする?」
「やめておくよ。これでも貴族だから」
そうね。【大遠旅団】程の組織が貴族と密会なんて、あまり良い噂にはならないものね。
「了解。じゃあまた後で」
「うん。よろしくね。アルカ様」
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私はレーネを伴って応接室へと移動した。
お客様は女性の方だった。向こうも気を遣ってくれたのだろう。この寮に女性しか住んでないと知っていたのだろう。それはそれでちょっと怖いけど。今更か。女性オンリークランなのは周知の事実だし。
「大遠旅団一番隊副隊長、メルビス・アークルードだ。久しいな。アルカ」
ばれてーら。
「いや。失礼。今はシノミヤと名乗っているのだったな」
なんでわかったし。
「えっと……」
「むぅ? もしや覚えていないのか? それは普通に傷つくぞ……」
あかん。クールなお姉さんを凹ませてしまった。
「一番隊の副隊長って確かベルメルさんの筈じゃ?」
イロハが発掘してくれた私の記憶だ。間違いない。
「やはりアルカなのだな」
しまった。嵌められた。
あんまりにも自信たっぷりに言うから確信しているものとばかり。迂闊だったわ。
「ベルメルは私の姉だ。これで思い出したか?」
「……えぇ!? まさか本当に!?」
そうだ! いたわ! 可愛いのが!
「あの頃私はまだ八つ程だったからな。気付けぬのも無理はないか」
「無理に決まってるでしょ!? 成長しすぎよ!?」
「十年も経てば変わるに決まっているだろう」
「大きくなったわね~!」
「アルカは成長しておらんではないか。それは魔術による変装か? それともエルフの血でも混ざっているのか? どちらであっても驚きはせんがな」
「まあそんなところよ。……まさか脅しに来たわけじゃないわよね?」
「無論だ。命の恩人にそのような真似をする筈がなかろう」
私はまた誰かの命を救っていたようだ。忘れたけど。
『森に一人で入って迷っていたこの子を偶然救い出したのが、旅団と関わるキッカケになったのよ』
な~るへそ。
「なら今日は何をしに?」
「そう邪険にしないでほしい」
別にそんなつもりはなかったのだけれど。
そうね。この子は私に会いたくて来てくれたのよね。事務的に対応するのは違うわよね。
「ごめんなさいね。あまりにも動きが早くて警戒してしまったのよ。久しぶりね、メルちゃん。元気そうで何よりだわ」
「むぅ……その呼ばれ方は面映ゆい……」
「あらごめんなさい♪ うふふ♪」
「だが思いの外悪くない」
なら遠慮なく。
「メルちゃんはいつから冒険者に?」
「十からだ」
「ならかれこれ八年くらいは活動してるのね。もうすっかりベテランね♪ あの大遠旅団の一番隊副隊長ですものね♪ まだまだ若いのに凄いじゃない♪」
「むぅ……」
ふふふ♪ 照れてる照れてる♪
気分はすっかり親戚のおばさんだ♪
「ベルメルさんは元気?」
「姉は引退した」
あら。
「子どもが出来てな。今はヴァガルに住んでいる」
「そっかそっか♪ おめでとう♪」
幸せに暮らしているなら何よりだ♪ 大遠旅団の中では一番お世話になった人だもの♪
「アルカ。私をこのクランに置いてくれないか?」
え?
なんか急に踏み込んできた。
「これは提携の申し出だ。アライアンス運営の上で、我ら大遠旅団の経験は役立つだろう。盟主を貴殿らが務める以上、我らと深く関わることは得策だと思うのだが。如何に」
なるほど。
「良いわよ」
「本当か!?」
「ただし貴女には大遠旅団を辞めてもらうわ。スッパリと」
「いや! そういうことでは!」
「表向きには癒着なんて出来ないもの。もちろんあなたの存在を隠したりはしないわ。これが最大限の譲歩よ。そちらが条件を飲めるのなら提携の申し出を受け入れましょう」
「……飲もう」
「あら。ここで決めてしまっていいの? 持ち帰って考えてもらって構わないのよ?」
「いや。いい。総隊長から仰せつかっている。何を求められても承諾するようにと。貴殿らならば無茶は言わぬからと」
グレンさんらしいわね。
私がアルカだと気付いたのもグレンさんね。それですぐさま部下を送り込んでくるだなんて。相変わらずそっちもやり手なのね。一代で世界最大のクランを作り上げただけのことはあるわね。
「私は相当な無茶を言ったとは思わないかしら?」
「思わん。動揺してしまったのは私の至らなさ故だ。アルカの立場からすれば当然の提案だ」
偉い偉い。ちゃんと自覚しているわね。
「そうね。あなたは少し素直すぎたわね。もう少し上手く運んでいれば違う結果もあったのでしょうね」
例えば指導役を務める、或いはその逆みたいな。何か真っ当な理由で人の行き来を始めたのなら、辞める必要までは無かったものね。普通なら。
残念ながらうちは普通じゃないから、最初から答えなんて一つだけだけど。
「けれどグレンさんは、あなたのそういう人柄を見込んで送り込んできたのでしょうね。何よりも拙速を尊ぶのが得策だと判断したのでしょう。今回の場合はね」
「うむ……」
そりゃ複雑よね。最初からメルちゃんの離脱も込みで指名されただなんて言われれば。
この八年、メルちゃんが直向きに頑張ってきたであろうことは想像に難くない。私に恩があろうが、それはそれだ。引退したお姉さんとも別れて、メルちゃんは旅団に残ることを選んだのだ。その旅団からこんな風に抜けることになるとは想像もしていなかったのだろう。
「悪いけど、いつか戻せるなんて約束は出来ないわ。だからもう一度よく考えておいてね。向こうを辞めるなら辞めるで手続きも必要でしょ。時間はあるわ。急いでいるからって安易に流されず、自分の未来は自分で選びなさい」
「……うん。アルカ姉」
ふふ♪ そっちの方が"メルちゃん"らしいわね♪




