58-02.譲れぬ境界
「移住者なら受け入れるわよ」
「寄越すわけがないだろう!」
今日のテミスさんは完全に喧嘩腰だ。私が先に挑発したようなものだけどね。
とはいえ仕方がない。これは中央の望みでもあるんだし。
「何をそんなにカリカリしているのよ。先に手を引くと表明したのは貴方たちの方じゃない」
「言っておらん! そんな事は! 一度たりとも!」
「界賊討伐に伴う創軍は認めない。中央はこれに戦力を派遣しない。冒険者ギルド制度を元にした新たな制度発足を見逃すのみ。その上で界賊問題の解決を私たちに要請。中央は一切の責任を負うつもりがない」
それがこれまでの前提。
「にも関わらず、私たちがその拠点とするために原初神に頼んで新たに生み出した土地を中央の管理下に置きたいと。こんな一方的な話がまかり通ると本気で思っているの?」
「何もかもを見逃すとは言っておらんだろう!」
「何もかもを管理出来ないなら、管理者を気取るのはやめてしまいなさい」
「勝手なことを!!」
わかるけどね。中央の言い分も。
明らかに巨大な勢力が生まれようとしているのだ。神々の管理者を自認する者たちが放っておける筈もないだろう。
けれどそれはそれだ。このまま舐められっぱなしでもいられないのだ。
「貴方たちはよくよく理解しているのでしょう? 原初神は端っから中央の下につくような存在ではないの。その原初神が土地を与えたのよ? 貴方たちにではなく、私たちにね。私たちには大義名分があるの。中立を表明するだけでも感謝してもらいたいものね」
「原初神の私物化が許されると思うのか!? 本気で中央を敵に回すつもりか!?」
「中立だって言ってるじゃない!」
「敵対と同義だ! それは!! 何故わからぬ!?」
今回ばかりは本気で引く気が無さそうね。
「今回私は失態を犯したわ。イオスの顔に泥を塗ったの。辛うじて命は救われたけど、危うく見限られるところだった。同じ失敗は繰り返せない。これは何も命惜しさに言ってるわけじゃない。イオスが私を滅ぼせば、偽神がこの時間軸を滅ぼすわ。いずれ必ずそんな未来が訪れる。それとも中央が私たちの代わりに偽神を討ち取ってくれるのかしら? この時間軸を守り抜いてくれるのかしら? 複層世界中の生きとし生けるものたち全ての未来を担保してくれるのかしら?」
「卑怯だぞ。自らの命どころか全てを人質に取るなど」
「そう受け取ってもらっても構わないわ」
だから私の自由を見逃しなさい。せめて戦って勝ち取りなさい。それならイオスは新しく誰かに興味を向けてくれるかも。その誰かが偽神を打倒してくれるかもしれないから。
「これは必要なことなのよ。私が中央に頭を垂れれば、イオスは今度こそ私を許さないわ」
「そこまでしろとは言っておらんだろう」
「同じことでしょ。それを判断するのはイオスだもの」
「……どうして貴殿はそう、事態を大きくせねば気が済まんのだ」
「責任転嫁はやめて頂戴。もう懲りたでしょ」
「……そうだな。まったくだ」
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「なんだかまた逞しくなったね。アルカ」
テミスさんが帰った後、ニクスがしみじみと呟いた。
「そう? 旅のお陰かしら」
「命を落としかけたからじゃない?」
「……え? ああ。いえ。違うのよ。イオスに何かされかけたのは間違いないんだけど、ツムギが防いでくれたの。そもそも何をされそうだったのかも知覚出来なかったから、死の恐怖とかは別に感じていないのよ」
「なにそれ……こわ……」
「案外とただの雷で済ませてくれるつもりだったのかも」
「どうだろうね。お母様は気まぐれだから」
流石に甘すぎるかしら?
「本気で中央と覇を競うの?」
「そんなことしないわよ。ニクスまで何を言うのよ」
「だって中立だって」
「だから中立だって言ってるじゃない」
「……本気でわかってないの?」
「中央が認められないことくらい理解してるわよ?」
私たちが彼らに匹敵する勢力に育つ未来だって無いとは言い切れないものね。
「そうだけど、そうじゃなくて」
「どういうこと?」
「無法者たちも抱え込むんでしょ?」
「存在そのものが悪に染まるのを懸念してる?」
「う~ん。ちょっと違うかなぁ。ただ新しい秩序が必要になるのは間違いないよね」
「もっと自由都市みたいなイメージなんだけど」
「自由を保つには力が必要だもの。内にも外にもね。となればやっぱり覇を唱えるしかなくなるんだと思うよ」
「そりゃあ荒事も覚悟の上よ?」
「行き着く先の問題だよ。中立ってことは、中央とも対等に渡り合わなくちゃいけないんだから。やっぱりそれは敵対と同義なんだよ」
「もちろん理解しているつもりよ」
「どうかな。アルカの認識はまだちょっと甘いんじゃないかな」
「ニクスまでそんなことを言うのね」
「アルカこそ覚悟を持たなくちゃだよ。いっそ中央にあげちゃうのも一つの手だったかもしれないね」
「イオスはそんなこと気にしない?」
「やり方次第さ。一方的に取り上げられたのならそりゃ怒るよ」
「難しいわね。あの願いは失敗だったかも」
ツクヨミさんもそれをわかっていて選ばなかったのかしらね。肌に合わないって、そういう意味だったのかも。もちろん土地に満ちるイオスの力がって話でもあるのだろうけど。
「けれど必要だったのは間違いないよね。ツムギは戻ってこないし、それこそうちの世界を使うわけにもいかないし」
「そうよね。アマノイワトも頼れない以上、拠点はこちらで用意するしかなかったんだものね」
「せめて中央が場所くらい提供してくれていればね」
「それこそ無理な話でしょ」
「だと思う。私も」
ままならないものね。皆勝手な事ばかり言うんだから。




