57-27.最後のメッセージ
「てなわけなのよ。お姉ちゃん」
今日も今日とて私世界で絶賛ゴロ寝引き篭もり中の原初神お姉ちゃん。
原初神+神話ネタとか、このお姉ちゃん以上に詳しい人もいないので、やむを得ず現況を伝えて相談してみることにした。
「考えられる可能性を一つ上げるとしたら、小春たち自身でしょうね」
どういうこっちゃ。
「過去改変が出来ないというのは正確な認識ではないわね。ただ限りなく起こりにくいだけよ。影法師はわかるでしょ。過去私のように突然その時間軸上に現れるものたちよ。ああやって形に残るものならわかりやすいわよね。隣り合った時間軸を変えれば、こちらの世界にも影響が生じるのよ」
え……なにそれ衝撃の新事実過ぎるんだけど……。
過去は変えらないんじゃなかったの? それは絶対の理だと思っていたのに。
「過去Aが過去Bに置き換わったとしても、既にその時点で誰もがAと認識しているから失敗するのよ。過去とは所詮記録と記憶の集合でしかないもの。けれど誰もAを知らないとするなら話は別よ。AがBに置き換わった後、初めてAを知るタイミングになった時、それはBに置き換わっているの」
……う~ん。理屈はわかる気もするけど。
結局知らないことには過去を変えようもないんじゃない?
「例えば今回の場合であれば、別の過去時間軸では原初神の名前という話題自体が出ていなかったと考えれば辻褄は合うわ。アマテラスの記憶が書き換えられていたとしても、改変後に初めて話題になったと考えれば矛盾は起きないでしょ」
「えっとつまり……どこかの時間軸の私たちが過去改変を試みた結果として、この時間軸にもその影響が生じたの?」
「ええそうよ。そこはいつも通りよ」
「目的は?」
「時間稼ぎでしょ。実際今も休戦状態に持ち込めているじゃない」
なるへそ……。
一応理屈は合っているのかしら?
「これはあくまで仮説よ。可能性の話よ。そんな未来もありえたかもしれないわね、という話。正直可能性はそこまで高くないと思うわ。やっぱり過去改変は難しいもの。ほぼ不可能と言い切っても間違いない程よ。隣合った時間軸を変えたからって、自分の時間軸の過去が変わるかどうかは運次第みたいなものだもの」
うん。そうね。理論上あり得るかもって程度の話よね。
「それより警戒すべきは明確に意図を持って干渉を行った第三者の存在ね。或いはアマテラスをこそ疑うべきなのかもしれないわね」
「テラスが自分で?」
「違うわ。復活を目論むアマテラスの方よ」
「……動機はわからないけど、手を加えられる位置にはいそうだよね」
「そういうこと。なら後は動機を推理するだけね」
決め打つのは早計かもだけど、それはそれで進めるべき推測だよね。
「アマテラスがテラスの記憶を書き換えた理由。それも、何故か肝心要の原初神の名前を……」
「テラスの計画が望ましくないものであったとしたら。テラスはテラスで、アマテラスの思惑とは別の考えで原初神を呼び覚まそうとしていたのでしょ。ならそれを妨害したかったのかもしれないわね」
「そんなに違うかな? 結果は同じじゃない?」
「先を越されそうになったのかも。主宰神は一柱だけよ。先にテラスの高天原を生み出されては都合が悪かったのかもしれないわ」
「乗っ取るつもりだったのに?」
「高天原の主宰神になった後では乗っ取れないのかもしれないわね」
なるほど。これも筋が通っているように思う。
「もちろんまだ見ぬ第三者の可能性だってあるわ。或いはスサノオがアマテラスの目論見を潰そうと仕込んだのかもしれないわね」
そっか。スサノオ様はテラスの行動に頭を抱えていたものね。計画の妨害を企てていたとしてもおかしくはないわね。
ならサグメさんの暗躍も、スサノオ様の意思を反映したものだったのかも。だとしたら二人とも相当な狸ね。
「第三者だとしたら誰が考えられるの?」
「偽神の可能性は今更言うまでもないわね。他のというなら思金神とかかしら。天岩戸を開けるための策を授けたとされる知恵の神よ。ただそもそも、アマテラスは主宰神というその立場上、何かと敵対する神も多かったのよ」
「中央の干渉って可能性もあるよね」
「ええ。そうなると別系統の神が出張ってきていたとしてもおかしくはないわね。基本は不可侵だけど、テラスのような野良神なら話は別でしょうし」
動機という意味ではある意味誰にでもある。なにせアマテラスもテラスも複層世界全体を敵に回してもおかしくないような計画を本気で実現しようとしていたんだもの。
善意の第三者が世界の崩壊を防ぐために、せめてもの抵抗として刻み込んだ傷跡なのかもしれない。
「お姉ちゃん的には誰が一番怪しい?」
「アマテラスよ」
即答だぁ。
「このまま待っていても彼女はきっと来ないのでしょうね」
「どうして? 諦めちゃったの?」
「そうよ。どうやっても現世には帰れないと思い知ったからよ」
「……それはなんで? 冥界化したアマノイワトには顔を出せるんじゃなかったの?」
「出来る出来ないの話ではないわ。彼女自身がそれを選べないのよ」
「よくわからないわ」
「彼女が本当に欲しかったものはとっくに向こう側にあったのよ。そして何より彼女は自らの愚かさを悟ったのよ」
「……けどアマテラスは」
「だからテラスがいるのよ。記憶の改変はアマテラスからのせめてものメッセージよ。原初神は呼び覚ませない。何故なら別天津神と呼ばれた神々は、とっくに役目を終えてお隠れになられたから。代表格である天之御中主神だって例外じゃない。彼らは天津神たちに後の世を託して引退したの。それを自らの欲のため、力が及ばぬからと呼び戻すだなんて、とんだ恥知らずの行いよ。たとえそれで高天原を再建出来たとしても、誰一人として付き従う者はいないでしょうね」
……それは……考えてもみなかった。
「天津神とは別れた存在であると思い出させたかったのね」
「そうよ。言葉の通りよ」
「……うん。腑に落ちた。ならサグメさんの行動は」
何のことはない。天邪鬼である彼女らしいやり方だったのだ。
「ツクヨミに思い知らせるためね。きっと彼女は最後まで認めないのでしょうから」
……それは私の役目なのね。そしてテラスの役目でもあると。
どんな言葉で言い繕ったって、本当に全てを取り戻したいと願っているのは、もう彼女だけなのだから。




