57-25.逆転の一手
「残念だったわね! ツクヨミ! 妨害は失敗よ!!」
テラスはアマノとウズメを伴い、管制室目指して飛び立った。民はイコルとテルス、他の仲間たちに任せてきた。
アルカとの繋がりが彼女に安心感を齎した。素直に新たな仲間たちを信じ、何より大切なものを任せられるに至った。
『愚かな真似をなさりましたね。姉上』
ツクヨミの平坦な声がどこからともなく聞こえてくる。
イザナギとイザナミは千引の岩を隔てて最後にこのようなやり取りを交わした。
「報復に一日千人の命を奪い去りましょう」
「ならば一日千五百人の命を産み出そう」
と。
実は冥界と言葉を交わすのは難しいことではない。
ここは天岩戸であり、千引の岩で塞がれた黄泉比良坂だ。ならば声を届けることくらい出来て当然だ。どちらであっても声は大切な要素だ。この船が神話を再現したものである以上、その機能が実装されていない筈はない。
ならば当然、封印を解く方法は用意されている。
神話に倣うならば、塞いでいる岩をどければよい。死者の国側からそれを成す術が存在しないとは言われていない。あくまで千人の力が無いと動かせない岩であるだけだ。
加えて天岩戸としての特性も備わっている。ならばアマテラスがそれを動かせぬ道理はない。
結局のところ、外へと通ずる扉はアマテラスならば開けられるのだ。ただ、今まで内部に閉じ込められたことが無かったので、試したことが無かっただけなのだ。
それがシイナからアマテラスに伝えられた仮説だ。アマテラスはこれを信じ、一直線に扉を目指した。
当然ツクヨミは気付いていた。アマテラスが気付いたことをも察していた。だから戦力を集めざるを得なかった。
アマテラスの前には数多の屍鬼たちが立ち塞がった。
「ここは任せて~♪」
「先に行ってください!」
イコルとテルスが道を切り開く。
屍鬼たちの数には限りがある。アマノイワトがストックしている魂の数以上には生み出せない。多少生きた民を取り込んでその数を増してはいるものの、元々現在のイワトは順調に魂の輪廻を回していた。故に元の数はそう多いものではなかった。
アマテラスの進路を阻害しようと一処に集めれば、対処に当たっていた最上の神々までもが前線に現れるのは自明の理だ。この二柱に屍鬼の力は通じない。道を切り開き、アマテラスを前へ前へと押し進めていく。
「「主宰様!!」」
アマノとウズメのバックアップが、アマテラスを更に前方へと押し出した。扉は目前だ。あれを開けば冥界化は解けるだろう。岩をどければ冥府と現世は混じり合う。世界への影響を防ぐため、船は冥界化の機能を停止するだろう。
既にその鍵は解かれている。冥界化とは別に、船としての機械的なロックも施されてはいたが、シイナたちがハッキングによって解除を成功させている。あとはただ、アマテラスがその扉に手をかけるだけだ。それで全てが終わるだろう。
「届いた!!」
「はい。届きました」
「なっ!?」
何者かが扉の前に割り込んできた。
「サグメ!? 退きなさい!!」
「この身は御身の邪魔を致しません」
「ふざけないで!!」
アマテラスの伸ばした手は、その身体ごと、くるりと裏返った。
前は後ろに。後ろは前に。扉に背を向けたアマテラス。
その背に手の平を当てるアメノサグメ。
彼女の言葉は裏返る。彼女の力は天邪鬼。
彼女は出来上がったばかりの脆い繋がりをひっくり返す。
「そんなっ!?」
アマテラスが主に。アルカが下僕に。彼女たちの契約は書き換えられた。
「がっ!? はっ!?」
突如として流れ込む力。アルカの力が流れ込んでくる。制御された流れではなく、暴力的で異質な力の奔流として。
「うぐ……が……あぁぁぁぁああああああ!!!!」
「「主宰様!?」」
「サグメ!!」
「遅かった!?」
「マズいわ~!」
「やってくれましたね」
『これ以上の邪魔だてはご容赦を。姉上の無事を願うならば成り行きを見守られるべきかと』
「も~怒ったわ~!」
『ネクタル様。貴女様はこの世界に相応しくない。ただその場に在られるだけでバランスが崩れてしまいます。心苦しいですがどうかご退場を』
イコルの姿が掻き消えた。
『貴女もだ。ガイア』
続いてテルスの姿も消え去った。
二柱が抑えていた屍鬼たちが勢いを盛り返す。
残された少女たちの姿は瞬く間に飲み込まれていった。




