57-23.乱心
「逃げなさい!!」
「「「「アマテラス様!! 我らもお供致します!」」」」
「ダメよ! あなたたちもよ!! 足手まといなの!!!」
ゾンビたちは私たち以外も標的とし始めた。迂闊にも私たちが空へと逃げてしまったからだ。
あのゾンビたちが私たちだけを狙っているだなんて根拠の無い思い込みだった。
ゾンビたちは見失った私たちの代わりと言わんばかりに、逃げ遅れた飛べない者たちを片っ端から襲い始めたのだ。
私たちは慌てて地上に戻り、民の避難誘導を始めた。
ゾンビたちは触れるだけでその勢力を増してしまう。生者を自分たちと同じような存在に作り変えてしまう。
しかもそれだけじゃない。最初に現れた時と同様に、どこからともなくおかわりが現れる。だから結界等で囲ったところで意味がない。また壁外に次が送り込まれるだけなのだ。
足止めは容易なことではなかった。まずゾンビたちは死なない。物理的に消し飛ばないという意味ではなく、簡単にリポップするからだ。
厄介な性質だ。あっちのツクヨミは何を考えてこんな事をしているのだろう。いや。そもそも、歴代のアマテラスは何故このような機能を付けたのだろう。
意味がわからない。どうしてこうなった。
この状況はどうすれば打破できる?
簡単だ。管制室を奪い返せばいい。機能があるなら解除も出来る筈だ。
そのためには私とテラスの間でパスを繋ぎ、シーちゃんたちにテラスを介してアマノイワトへハッキングしてもらう必要がある。
しかしテラスは民が気になってそれどころではない。自ら最前線に飛び込んで一人でも多くを救おうと奮闘している。
彼女を呼び戻すのは簡単だ。抱き寄せ魔法を使えばいい。
けれど大人しくしているだろうか。今の気の高ぶった彼女と契約しても、最悪私の方が隷属させられてしまうだろう。それでは意味がない。私は彼女からも全てを奪わなければならない。そうでなければアマノイワトの制御を奪い取ることだって出来はしない。
チャンスは一度きりだ。イオスも居ない現状では、神との上下関係付き契約が上手くいくとは限らない。
何か他に手はないだろうか。せめてもう少しだけでも落ち着ける何か……。
『深層へ行きましょう。抱き寄せ直後は脱力するわ。その隙を逃さず潜りましょう』
そうね。とにかく時間を稼がないとね。ナイス、イロハ。
私はテラスを手元に呼び寄せ、深層へと潜り込んだ。
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「何考えてんのよ!? こんな時に!?」
「落ち着いて。ここは時間が止まっているから。少しだけ作戦会議よ。いいわね?」
「そうよ! あなたの世界に逃がしなさい! それで皆助かるわ!!」
「落ち着いて。あなたの妹が見逃す筈は無いでしょ」
「ツクヨミぃ!! 絶対に許さないわぁ!!!」
ダメだこりゃ。
完全に頭に血が上っているわね。抱き寄せ魔法には対象者のあらゆる慣性……思考すらも強制的に止める機能があるのに。すぐに元に戻ってしまった。
「テラス。作戦があるの。だからどうか落ち着いて」
「さっさと言いなさい!」
「変わらないわ。契約を結びましょう。皆に時間稼ぎを頼んで、私たちは落ち着いて契りを結ぶのよ。それで皆を助けられるわ。きっとよ」
「とっととやりなさいよ!」
「ダメよ、テラス。これは隷属契約よ。テラスが優位になってしまえば意味がないの。私はあなたからアマノイワトの権限を奪い取る必要があるの。だからあなたには落ち着いて感情と力を抑えてもらう必要があるの。今のあなたとでは契約出来ないわ。落ち着いて、テラス。深呼吸よ」
「落ち着いてなんていられる筈ないでしょ!?」
「わかってる。だから言ってるのよ」
「だいたい私からイワトを奪うですって!? それじゃああいつと同じじゃない!!」
「皆を救うためよ。テラスを救うためよ」
「嫌よ! イワトは私のものよ! タカアマハラの主宰神は私なのよ!! 私にはそれしかないの! あなたまで取り上げるなんて言うの!? 私は信じたのに! アルカなら一緒に守ってくれると思ったのに! なのに!!!」
テラスは私を突き飛ばした。
「テラス!」
「もうあなたなんかに頼らない! ここから出しなさい! 私が皆を救うの! 私の居場所は私が守るわ!!」
どうして……。
「アルカ様。ここはわたくしめにお任せを」
「ツクヨミ……」
「ツクヨミ!? ツクヨミですって!? あなたたち!! そういうことだったのね! 初めからグルだったのね!!」
……ごめん。
「ツク姉。ボコボコにしてあげて」
「がってんです♪」
私のツクヨミがテラスの正面に立った。
もちろんテラスの妹とは似ても似つかない。名前が同じだけの別人だ。しかしテラスはそうは思わない。自分の妹に対する憎しみをそっくりそのまま私のツクヨミに向けている。
彼女は八つ当たりがしたいだけなのだ。頭に血が上って冷静になれないのだ。なら発散させてあげるしかない。
「はっ!!」
「っ!?」
ツク姉は問答無用で殴りかかった。
テラスも負けじと応戦する。
テラスも中々のものだ。年若い神にしては十分な実力を備えている。しかし私のツク姉には及ばない。次第にその差は広がっていく。テラスが一方的に殴られ始めるまでそう時間は掛からなかった。
「このっ!!」
「逃がしません!!」
距離を離そうとするテラスと、徹底して距離を詰めるツク姉。
今はツク姉が有利だけど、テラスが神としての力をフルに発揮し始めたら勝つのは難しい。だから一発でも多く殴って反撃の芽を潰し続けるしかない。
あくまで圧倒しているのは接近戦の技量だけだ。力の総量はテラスの方が上だ。ただの守護神程度ならともかく、テラスはイワトのバックアップを受けている。それはこの深層においても変わらない。
けれどそれでもだ。今のテラスがツク姉に勝つ可能性は万に一つもありはしない。
「なんなのよ! なんなのよなんなのよなんなのよぉ!!」
泣き言を口にする余裕があるなら反撃の一つでもしてみせればいいのに。そんなことをしていたせいで、折角張れた障壁もあっという間に砕け散ってしまった。
「どうして! ばがっ!?」
顔面にクリーンヒットだ。痛そう。
「やめっ!? ぐぁっ!?」
今度はお腹。容赦ない。
「こっのぉ!! げぼっ!?」
ツク姉は容赦なく攻撃を続けた。テラスの心を叩き折るために、丁寧に丁寧に反抗の意志を潰していった。




