57-22.黄泉の方舟
さてどうしたものかしら。
テラスはアマノイワトの全てを把握しているわけではなかった。これを作り上げたのは先代以前のアマテラス様だ。
アマノイワトの封印は、私たちをこの船の中に閉じ込めてしまった。ツクヨミ様は現在、封印の外にある管制室を占拠している。当然私たちを出してくれるつもりは無さそうだ。
「そもそも何故管制室が外にあるのですか? それこそ最も守らねばならない箇所ですよね?」
「理由は知ってるでしょ。この封印装置はアマノイワト自体に備わった機能じゃないの。外部の特別な装置を使っているから、接続が完全に遮断されては困るのよ」
「ですが、完全には途絶えていませんよ。あなたや神ツクヨミは内部の我々に声を届けてみせました」
「正直その辺りの仕組みは知らないわ。知っていたら脱出の方法だってわかったでしょうね」
機能があることは知っていても、仕組みまでは知らないってありがちよね。
「なら管制室が外側にあるのは、外部装置との接続が問題ってわけでもないのかもしれないわね」
「というと?」
「守ることではなく、閉じ込めるのが目的だったのよ。最初からね」
……う~ん。否定は出来ないけど、目的がわからない。
「もう一人のウズメは? 今何処に?」
そうだ。先代ウズメは私にくれたから、次のウズメを生み出して側近に加えていたのか。上手くすればこっちのアマノやウズメと繋げられるかもしれない。
「まだよ。アマノがグズったから生み出してないわ」
あらま。
「他に味方になってくれそうな人や神は? 管制室周辺にはいないのかしら?」
「いないわね。私とアマノとウズメで十分回せたから」
なにげにハイスペック。しかしそれが仇となった。
「メグルから回収した鍵は? あれは何かのヒントになるんじゃないの?」
「残念ね。役には立たないわ」
なんでやねん。二人の思い出の品がキーアイテムになる場面じゃないんかい。
「中は私が知り尽くしているもの。わざわざ確認に行くまでもなく答えてあげるわよ」
「何処の鍵だったのですか?」
「あら。そこから? あれは私の私室の鍵よ」
おっとぉ~……。
どうしてそんなものを渡していたのか気になるところだ。
「マニュアルとか置いてないんですか?」
「あるわけないじゃない」
バッサリ。
「テラスって、アマノイワトから何かバックアップ受けてるよね? 神を生み出したり、人を半神に変えたりって、簡単に出来ることじゃないよね?」
ニクスだってそんな力は持ってなかったし。イオスに鍛え上げられた今なら別だろうけど。
「よくわかったわね。今も途切れてはいないわ」
「つまり、この船の主は変わらずテラスのままなのよね?」
「そうよ。間違いないわ」
「なら開けようと思えば開けられるんじゃないかしら」
「さっきから試してはいるのよ。けどいくら命じても反応しないのよ」
「シーちゃん。何かわかる?」
『ハッキングを試みます』
テラスとアマノイワトが繋がっているなら、テラスを介してシステムを直接弄れるかもしれない。
『まかせろ』
『ハルもやる』
『その前に契約を結びなさい』
「そうね、イロハ」
そうすれば私とテラスの間にもパスが繋がるもの。もしかしたらアマノイワトの管理者権限もこっちに移るかも。そうなればチョチョイのちょいね♪
「テラス。契りましょう。私の支配下に加わってもらうわ」
「手伝うわ~♪ コハルちゃん♪」
「私もお力添え致します。小春さん」
「ありがとう。イコル。テルス。お願いね」
イオスはいないけど、二人が力を合わせてくれるならきっと上手くいくだろう。
「仕方ないわね。さっさと済ませなさい」
「ええ。早速始めましょう」
『それは認められないね』
ツクヨミ様!?
「アルカ!! 外です!」
「なによこれ!? どっから現れたのよ!?」
突如として襲来したのはゾンビの大群だ。
メグルの家は完全に包囲されてしまった。
周辺に住んでいた人たちが突然湧き出した呻き声と異臭に驚いて逃げ惑っている。よかった。彼らが変えられてしまったわけではないようだ。
「まさか!? 黄泉比良坂!? 天岩戸と千引の岩を掛けたとでも言う気なの!?」
メグルがなんか叫んでる。
えっと確か……イザナギがイザナミから逃げた時の話だ。黄泉の国から逃げ帰ったイザナギは、黄泉比良坂……現世と冥界の境にある坂を千引の岩で塞いだんだ。
『マスター! カラクリが解けました!』
シーちゃん! 何か閃いたのね!
『この封印は冥界化です! 内側にいる者たちを擬似的に死者とする事で現世のあらゆる干渉から守り抜く結界です! だから管制室を外側に作る必要があったのです!』
なるほど! それでどうすれば出られるの!?
『まだわかりません! ですが一つ忠告を! あの屍たちに触れられてはなりません! 現世に戻れなくなります!』
なんですって!?
『神ツクヨミは本気です! 本気でアマテラスをこの船に縛り付けるつもりなのです! 神とて例外ではありません! あれに触れられれば二度と生者には戻れません!!』
っ!! とにかく逃げましょう!!




