57-21.謀反
『君たちの決断には驚かされたよ』
この声は……ツクヨミ様? 何を言ってるの?
私世界を出てアマノイワトに戻るなり、どこからともなく声が降ってきた。
テラスがやっていたのと同じだ。イワトの機能だろう。
「ツクヨミ! あなたにその部屋を使う許しは与えていないわよ!」
テラスの様子がおかしい。明らかな敵意を浮かべている。どころか焦りすら……。
『姉上。どうか全てを忘れ、健やかにお過ごしください。タカアマハラの運営はこの私が引き継ぎます』
「なんですって!?」
……どうしてそうなるの?
ツクヨミ様は最初からそれが目的だったの?
役目を果たさなくなったアマテラスの代わりになろうと?
つまりこれって……。
「返しなさい! そこは私の居場所よ!!」
『どうかご理解を。姉上の幸せを願っております』
「待ちなさい!!」
ツクヨミ様の言葉はそこで途切れた。
テラスがどれだけ呼びかけようとも反応を示すことはなかった。
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「まさかツクヨミにハイジャックされるなんてね」
「この場合は謀反では?」
二人とも呑気ね~……。
「どいつもこいつも!」
ほら。テラスが荒れてるじゃない。
「ツクヨミがテラスの罪を引き受けてくれるそうよ。良かったじゃない。これで問題解決ね。気兼ねなく嫁げるわよ」
「っ!!」
メグルはどうして……いえ。任せておくべきかしらね。
「……挑発には乗らないわよ」
あら。テラスも意外と冷静ね。
「力を貸しなさい。全て取り戻すわ」
「本当に必要なの?」
「当然でしょ! 私のタカアマハラよ!」
「違うわ。タカアマハラにとってあなたが必要なのかと聞いているのよ」
メグル……。
「関係ないわ! ここが私の居場所なのよ!!」
テラス……。
そっか。それが本心なのね。
「居場所なら小春が用意してくれるわ。あなたのような自分勝手な独裁者に統治されるくらいなら、道理を弁えた古き神に委ねた方がタカアマハラの皆も幸せではないかしら?」
「ふざけないで! 協力する気が無いなら黙ってなさい!」
「いいえ。黙らないわ」
「私はアルカに頼んでいるのよ!」
「小春は私のものよ。テラスも小春を利用したいなら先に言うべきことがあるでしょう?」
「っ! あんたに言われなくたって!!」
テラスは私に向き直った。
「アルカ! 私の全てを差し出すわ! 代わりに私の全てを守りなさい! 自分のものとして守り通しなさい!」
「がってん♪」
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「ツクヨミは私たちの決断に驚いたと口にしたわ」
「覗き見されているわね。まさかサグメさんが?」
私世界の中まで? 或いは記憶を覗かれた? 何にせよ、出来るとしたらサグメさんの方だろう。
「ツクヨミに脅されているのか、最初からグルだったのか。そうなるとスサノオの関与も疑わないとね」
スサノオ様には動機がある。アマテラスの変化に頭を抱えていた。一計を案じたとしてもおかしくはない。
「問題はタイミングよ。ツクヨミとサグメはいつから覗いていたのかしら?」
「気付かない内に私の本体がハッキングされていたのかも」
先ほどまで私たちは、深層ではなく表層寄りの私世界で過ごしていた。だから時間の流れにもズレがない。アマノイワトからテラスが姿を消した後、こちらでも一晩経っている。
その間私自身の肉体は相変わらずメグルの自宅で待機していた。私世界は私の心の中の世界だ。肉体まで潜り込めるわけじゃない。
待機中も特段不審な点は見当たらなかった。干渉等も受けていない筈だった。
けれどもしサグメさんの力が私の感知できない類のものであったなら、気付かぬ内に本体を通じて私世界でのやり取りを覗かれていた可能性はある。
そしてサグメさんは私にとって馴染み深い系譜とは言い難い。別系統の力は認識しづらいものだ。ルーちゃんのお陰で完全に認識出来ないという程ではないけれど。
「サグメさんが本気っぽいのは間違いないわね」
「あの子のことだから、単なる仕返しなんて可能性もなくはないわ。あの子空気読めないのよ。負けず嫌いだし」
特別な理由なんか無く、それでもノリノリで協力している可能性があると。厄介ね。
「テラス。あなた自力では管制室に戻れないのよね?」
「無理よ。イワトを内側から破る手段なんて存在しないわ」
「ならどうやって開けるつもりだったのよ」
「アルカのせいでしょ!? あなたこそどうやって私を引きずり込んだのよ!?」
あ~……。これ私のせいかぁ~。
私がテラスを抱き寄せ魔法で強引に召喚し、その隙にツクヨミ様たちが管制室を制圧したと。ごめんちゃい。
「実は抱き寄せ魔法の仕組みってよくわかってないのよね」
「はぁー!?」
ごめんて。
「万が一の為の非常手段くらい用意してないの?」
「知らないわよ! 私が作ったんじゃないもの!!」
そっか。アマノイワトは先代以前のアマテラス様が作った船なのね。
「探しましょう。きっとどこかに隠されている筈よ」
事故に備えない筈がないもの。
それに向こうの声だって届けられるんだ。内と外が完全に切り離されているのだとしても、何かしら越える手段は残されている筈だ。
「そうね! 行くわよ! アルカ!」
「がってん!」




