57-15.状況整理
「中央は絶対に何か言ってくるわね」
だよね~。
私に軍を持たせたくないって言動で示してるし。
「アマテラス……すなわち界賊王の勢力が実質的に小春のものとなる。これは絶対に避けるべき事態よ。或いは意図的に取り込ませて戦争の口実にでもするつもりかしら」
「我々もそこまでバカではないと信じて頂けた結果では?」
「ノアにしては殊勝な物言いね。本音は?」
「言及することで可能性が生じるのを防ぎたかったのかもしれません」
神の言葉には力が宿る。わざわざ口に出して禁ずることで新たな可能性が生まれる危険もある。その理屈も間違いじゃない。
もちろん、単に向こうもその可能性に思い至っていないだけかもだけど。アマテラスの真意だって中央が把握していたわけでもないのだろうし。性格や立場的に、手を結ぶだけならともかく、合流することはあり得ないと考えたのかもしれない。でなければ私たちを近づけさせはしなかっただろう。
「アマテラス一派を引き取るなら、その犯した罪諸共に抱え込まなければなりませんね」
だからこそあり得ないと断じたのかもね。私たちをそこまでバカじゃないと信じたって見方も的外れではなさそうね。
「悪魔女と界賊王のコンビとか、どっちが悪役かわかったもんじゃないわね」
「何をどう言い繕っても私たちが悪役でしょ。それ」
中央に居座る圧倒的な統治者っていうのも、その手の属性を持ちがちではあるけれど。
「まあそういう問題は追々よ。アマテラスを中央に差し出せば納得してくれるかもしれないわ」
そんなわけないでしょうに。言わんとしていることはわかるけども。
「もっと本質的な問題に迫りましょう」
ノアちゃんの発言は表面的だと? メグルはそう言いたいのかしら?
「そのためにもここまで上がった情報を整理しましょう」
だいぶとっ散らかってきていたものね。振り返りは大切よね。
「一つ。私たちは、原初神が生み出した広大な大地を有している。これは大勢の神々が暴れまわってもびくともしない頑強な代物よ。きっとアマテラスの有するタカアマハラを丸ごと迎え入れたって養い切れるでしょう」
以前、イオスが邪神から取り返して蘇生した数多の神々をあの大地に集め、私たちの修行相手としてくれた。まさしく原初神にのみ許された、世界の根幹となり得る創造神話だ。
その大地は今、ツムギの心世界に移されている。イオスが付きっきりでツムギを鍛え上げ、世界を御するに相応しい格を持たせようとしてくれている。だから二人は修行中だ。私たちも半年以上は姿を見ていない。
「一つ。アマテラスの真の目的は、原初神「コトアマツ」を呼び出し、同様の大地を生み出してもらうこと。アマテラスは私たちの有するこの大地のことを把握していない」
何の偶然なのかしらね。或いはこれも必然だったのかも。
「一つ。復活した神々、滅びかけた世界の守護神たち。それら大勢の神々を一時に受け入れたことで、中央世界は現在パンク寸前の状態である。その対処を私たちに任せてきた」
前者については何も言ってこなかったのに、後者の時はすぐさま責任を取れなんて言ってきたあたり、中央世界の神々は私たちを舐めているわよね。
「一つ。中央世界は集まりすぎた神々を放出するために、小春の創軍計画に賛同。しかし、本来隠れ蓑にするつもりだった冒険者計画のみを採用すると掌返し。創軍計画は撤廃」
ある意味中央のスタンスはハッキリしているわね。
「一つ。中央の要求は界賊たちの討伐。あくまで軍も、討伐軍として創設するよう要求されていた」
最初は簡単なお使い程度の話かと思っていたのだけど、実体は想像以上に根深い問題だったのよね。
「一つ。中央は小春とアマテラスの同盟を黙認」
必要なことだからね。かと言って界賊王との同盟を表立って認めるわけにいかないのも道理だ。
「一つ。アマテラスは人も神も纏めて救おうとしている。それはスサノオや先代アマテラスの志とは異なるものである」
救うという目的は同じだけど、その手段が違う。先代たちは命のサイクルを回すことで、彷徨える者たちを正常な輪廻に戻そうとしてきた。しかしアマテラスは全てを生きたまま続けさせようとしている。そのための大地を欲している。
アマテラスが志を違えた理由は二つ。一つは、先代たちの方法で救えるのは人々だけであり、神々はついでに抱え込むことくらいしか出来ないから。そしてもう一つは、アマテラス自身が終わらせたくないと思ってしまったから。
彼女は優しすぎたのだ。古き神々のような調停者たり得る覚悟は持てなかった。誰に恨まれても世界のバランスを優先し、自己犠牲すら辞さぬ彼らの覚悟を良しとはしなかった。
気持ちはよくわかる。私だってきっと同じことをしただろう。いくら救うためだからって、人々を戦場に駆り立てて命を奪うだなんて、認め難い蛮行に映るだろう。
けれどスサノオ様と先代アマテラス様が成し遂げてきた偉業は、確かにこの複層世界にとって必要なことだった。でなければとっくにこの時間軸のバランスは崩れていたことだろう。中央世界の連中だって、今代のアマテラスだって、それはわかっていた筈なのだ。
結局はこれも「それはそれ、これはこれ」ということなのだろう。いつものやつだ。ままならないものだ。
「勢力は大きく分けて六つ。一つは我ら【アルカディア】。一つはアマテラス率いる【タカアマハラ】。一つはスサノオ率いる【革命軍】。一つは【中央世界】。一つは界賊や界賊狩りに落ちた狭間の海の【航界者】。一つは守護世界を失った【元守護神】。多すぎね。だから混乱するのよ」
それはそう。
「【中央世界】は【アルカディア】に【航海者】の討伐と、【元守護神】の保護管理を求めている」
要するに複層世界全体のバランスを取れって話よね。
「【タカアマハラ】は【元守護神】や付随する死に瀕した人々を救いたい。そのためには【航海者】や【元守護神】が元々管理していた世界を糧とすることも厭わない。本来別の意味を持つ【革命軍】との争いも徹底的な勝利で収めたい」
全方位に喧嘩売ってるわね。【中央世界】にも良くは思われていないし、私たち【アルカディア】のことは現在進行形で監禁中だし。フルコンプよ。台風の目は私たちじゃなくてアマテラスの方だったわね。
「今現在、小春や私たちに何かしらの要求を持ちかけてきているのは【中央世界】と【タカアマハラ】の二つだけよ。スサノオの【革命軍】も期待はしてくれているけど、明確に何かしてくれと頼んできたわけではないわ」
ふむ。そう考えればやるべきこともわかりやすくなるかしら。
「【タカアマハラ】を取り込むということは、全ての関わりも引き受けるということよ。流石に無茶が過ぎるわよね」
「つまり精算が必要なのですね。私たちはただテラスに手を差し伸べるだけでなく、その前にやらかしたことのツケを払わせる必要があるのですね」
「そうよ、ノア。せめて中央世界からのマークだけは外させないとよね」
「仲直りを要求するのではないのですか?」
「だって無理でしょ。今更中央の連中だって認められないもの。自分たちが反逆者として扱ってきたアマテラスとスサノオの行いが必要なものだったなんて」
「それではツケを払うことにはなりません」
「そう? 全ての偉業を手放して、ただ悪の権化として歴史の闇に消えていくのも償いと呼べるのではないかしら?」
「存在を消すのですか? 中央に内緒で匿うと?」
「まあ言っちゃえばそういう話よ。話が複雑過ぎるもの。一つ一つ紐解いていったら時間が掛かりすぎるわ。そんな責任を纏めて負えなんて言われても背負いきれないでしょう?」
「だからと言って率先して隠蔽に手を貸すのは納得し難い選択です。加えて何一つ解決はしません。中央は我々が【タカアマハラ】と接触してことを知っています」
「黙認すると言ったじゃない。知らなかった筈の出来事を口実に私たちを問いただすことは出来ないわ」
「それは建前です」
「そうよ。必要なのは建前なのよ。真実どころか納得すら必要ではないの。ただ口出しを封じられればそれまでよ」
「理屈は理解出来ます。ですがやはり納得できません。中央の納得が必要ないのだとしても、私たちの納得は必要です」
「そうね。ノアの言う通りよ。アマテラスだってそう考えたから勝手をしているんだもの。道理でね。アマテラスがノアを気に入るわけだわ」
「それはメグルも同じです。テラスはメグルを気に入っています」
「けれど私たちは喧嘩別れしたわ。そこはやっぱりノアとは違うのよ」
「私だって似たようなものじゃないですか」
「どうかしら。それはまだわからないわ」
「敵対するつもりはないと?」
「あるならとっくに動いているわ。監禁に留めたのは致命的な亀裂を生じさせないためよ」
「テラスには我々を纏めて相手取る力があるとでも?」
「無いわよ。だから最初に姿を消したのよ。今度は私たちを分断させるつもりよ。サグメを攫ったのもそういう理由でしょ。単純にあの子の力が厄介だったのもあるでしょうけど」
「いっそアルカ一人で行動させてみましょうか」
「良いわね。私たちは全員小春世界で待機よ」
まだ話纏まってないのに強引に締めにきたわね。
「結局私たちの目指す方向性はどうするの? メグルの言うように纏めて匿う? それともノアちゃんの言うように、社会的なケジメを付けさせてから手を差し伸べる?」
「それを決めるのはアルカです」
「あなたが決断なさい。小春」
仲良し~。
「私たちは道を示したわ。後はアマテラスと話しながら決めてしまいなさい。どうせ小春はそっちの方が得意でしょ」
「もちろん第三の選択肢を見出しても構いません。私たちはアルカを信じています。期待しています。どのような道を選んでもアルカの選択ならば納得します」
強引ねぇ~……しゃあない。腹括るか……けどその前に。
「二人はこう言ってるけど? 他に意見は無いかしら?」
……し~ん~。
「皆? 遠慮する必要はないのよ? これだけ集まってるんだから他の意見もあるでしょう? テルスはどう? チグサは? シーちゃんでもいいのよ? 誰か? いないの?」
「観念してください。アルカ」
「観念しなさい。小春」
はぁ~い。




