57-12.交渉決裂
「なんだか普通に観光楽しんでるわね。私たち」
ノアちゃんは情報を引き出すどころか、バッチリ足止めされていた。かくいう私も時間を忘れて楽しんだ。アマノ恐るべし。イワト恐るべし。牧場だけでこの充実っぷりとは。
「そうですね。乳搾り体験は思いがけず新鮮な体験でした」
なにそのにぎにぎ。ちょっと、どこ見てるのよ。
「部屋に戻りましょう」
「今から試す気!?」
「作戦会議です。誤解しないでください」
「心配しないで♪ 防音は完璧だよ♪」
「二人とも! 顔見て話しなさい!」
「!!」
ウズメが二人の前に立ち塞がった。
私に背を向け、両手を広げてノアちゃんとアマノの邪な視線を遮ってくれた。
「「なっ!?」」
「ありがとう♪ ウズメ♪」
「~♪」
後ろからウズメを抱きしめる。
「「ずるい!」」
はいはい。
「ノアちゃん。それよりやるべきことがあるでしょ」
「作戦会議も重要です」
まだ言うか。
「ムリムリ♪ ノアが此方から情報を引き出すなんて百年早いよ♪」
見透かされてるやんけ。
「けどチャンスはあげる♪ 付いて来て♪ 今日は次で最後だよ♪」
とっておきの施設でも見せてくれるのかしら?
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「よく来てくれたわね」
待っていたのはアマノイワトの秘密ではなく、アマテラス様ご本人だった。
メグルとサグメさんも一緒だ。私たちは会食の席に招かれたようだ。
「先ずは食事にしましょう。話はその後よ」
もしかして結論が出たのかしら。
この会席の主旨を問いかける間もなく、すぐに豪華な料理が運ばれてきた。
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「メグル。懐かしの我が家はどうだったかしら?」
「まさかそのまま残っているとは思わなかったわ」
我が家? ここに家があるの?
あそっか。メグルって一時期アマノイワトに住んでいたんだものね。喧嘩別れしたって言っていたけど、アマテラス様はかつてのメグルの住居を残してくれていたのね。
どうりであっさり許してくれるわけだ。元々仲直りしたがっていたのね。なら今回の交渉も上手くいくんじゃないかしら。
「ここは豊かね。余裕があるわ」
メグル? どうして不機嫌なの?
「確かにあなた権能なら容易いことなのかもしれない。なにせあの主宰神アマテラスだもの。本来の力を出し切れるなら数千万どころか億の民くらい余裕を持って養えるでしょう」
「そうね。今の私ではそこまでの力を持ち得ないわ。認めるわよ。他の多くの神々にも手伝ってもらっているわ。今の安定は私だけの力じゃない。それが? 何か問題があるの?」
「別に。何の問題もありはしないわ。この安定が永遠に続くのであればね」
「続けるわ」
「そう。それが答えなのね」
「その件について問われた覚えはないのだけど」
「あなたの要求を聞かせて頂戴。私たちが手を取り合うには何を差し出せば良いのかしら?」
「もう。メグルはせっかちね。本当に変わらないんだから」
「お陰様で。今も元気にやっているわ」
「感謝の気持が足りないわ。これでもあなたのことは妹のように可愛がっているつもりなのだけど」
「ままならないものね。お互いに」
「そうかしら? 私はあなたに感謝しているのよ。だってアルカたちを連れて来てくれたじゃない」
「あの世界には手を出させないわよ」
「そんなものは要らないわ。私が欲しいのは原初神の力よ」
信じてないんじゃなかったの?
「より正確に言うなら、別天津神を呼び出すのが目的よ」
そっちか……。
混沌の原初神に用があるわけではないのね。……ならなんで私たちが役立つのかしら?
「天之御中主神だけでなく? 全員を呼び出すの?」
「その認識も間違っているわ。コトアマツは総称ではなく、一柱の原初神を表す名よ」
……これも神話と違うパターンなのね。
「呼び出してどうするのよ。新たな大地でも創造してもらうつもり?」
「そうよ。まさしくその通りよ」
「世界が欲しいならどこかに落ち着いたらいいじゃない。滅びかけの世界ならいくらでもあるでしょ」
「どれも神々が住まうには小さすぎるのよ。私は真の高天原を作り上げたいんだもの」
……なるほど。
ようやく腑に落ちた。アマテラス様は本当に全てを救いたいんだ。
スサノオ様と先代のアマテラス様は、命のサイクルを回すことで人々に救いを齎した。永遠に外界という暗闇を彷徨う宿命から解き放ってくれた。
しかし神々は違う。基本は不滅の存在だ。その力を失い弱り果ててしまうことはあっても、死という終焉はそう簡単に訪れない。
彼らはただ飢えに苦しみ続けることになる。だから滅びかけの世界を襲うのだ。糧を得て苦しみから逃れるために。
それはこのタカアマハラに住まう神々とて例外ではない。アマテラス様は彼らのために、界賊王と呼ばれるに相応しい所業に手を染めている。滅びかけの世界や、他の界賊たちを刈り取っている。
彼らには居場所がない。中央世界に見捨てられた彼らには他に住める場所がどこにもない。複層世界のどこを探しても決して見つかりはしない。アマノイワトとヤマタノオロチを除いては。
けれど限界はある。あの中央世界ですらも神々を持て余しているのだ。私に押し付けようとしているくらいだ。神々が何不自由無く生き続けるには、それだけ多くの糧が必要なのだろう。
「テラス。実は」
「待ちなさい」
けどメグル……。
ツムギの世界なら……イオスが全霊を以って生み出したあの大地なら……。
「アルカには何か心当たりがあるようね」
「その情報を明かす前に確認すべきことがあるわ」
「そう怖い顔をしないで。決して奪い取るつもりはないのよ」
「ならアマテラス。あなたは夢のために全てを捨てられるのかしら?」
「ええ。もちろんよ」
「ここまでの言葉に嘘偽りはないわね?」
「誓うわ」
「私たちのことを信じられる?」
「具体的な手段も告げずに隷属させようというなら断るわ」
「なら明かせないわね」
「そう。あなたたちは手段を持っているのね。それは土地かしら? それとも原初神を呼び出す方法? いずれにせよ、帰すわけにはいかないようね」
「待って!」
「ダメよ、小春。口を閉じていなさい」
「けど!」
「必要があるから争うのよ。覚悟を決めなさい」
「私に争うつもりなんて無いわ。横暴なことを言っているのはメグルの方じゃない」
「よく言うわ。拷問してでも吐かせる気満々のくせに」
「必要ならそうするわ。必要が無いことを祈っているわ」
「そこまで!!」
イコル!
「アーちゃん! めっ!」
「あなた誰?」
「私たちの切り札よ。若造の敵う相手ではないわ」
「あらメグル。ここをどこだと思っているの?」
「待ちなさい!」
アマテラス様の姿が掻き消えた。
『アマノイワトから逃げ出したいなら私を探しなさい。でなければ決して開きはしないわ。ここはそういう場所だもの。あなたならわかるわよね、メグル。楽しみに待っているわ』
……どうやら閉じ込められてしまったようだ。




