57-07.新たな目標
話を纏めるとだ。
先ず、アマテラス様とスサノオ様の目的は最初から一致していたのだ。或いは、最初だけ一致していたと言うべきか。
二柱は外界を彷徨う者たちに救いの手を差し伸べた。それは単に衣食住や安全の確保に限った話ではない。彼らが正しく人や神々の輪に戻れるよう、その死すらも制御し、導いていたのだ。定期的な抗争はそのためのものだった。
彼らが活動を始めたのは、そうしなければ、いずれ複層世界全体の均衡が崩れてしまうと考えたためだ。
実際その兆しは今も現れている。多くの世界が滅びかけた結果、界賊という正義無き略奪者たちが活発化したことだ。
彼らが何も考えずに世界を守護神ごと滅ぼし尽くせば、そこに生きる命だけでなく、転生を待つ多くの魂までもが狭間の海を彷徨うことになるだろう。
狭間の海……外界の均衡が保たれているのは、それが見渡す限り一面の「無」であるが故だ。魂や滅びた世界の残骸が流れ出せば、何が起こるかなんて誰にもわからない。それこそ宇宙のように、新たな星々や塵が浮かび上がるのかもしれない。或いはかつて私たちの世界を襲った金属寄生生命体のような存在が、そこかしこに溢れ出すのかもしれない。何にせよ、それはもう今の外界とは別のものとなってしまうことだろう。
かの二柱は決して略奪者などではなかった。誰に褒められずとも、誰に誤解されようとも、人知れず世界のバランスを保ち続けてきた。
本来アマテラス様が滅びかけの世界から神や人々を招くのは、他の世界へ導くことが目的だった。タカアマハラとは、一時の休息の場でしかなかったのだ。
そもそも高天原とは天国のことじゃない。神々の住まいとされる場所だ。本来であれば人が足を踏み入れるなど許される場所ではない筈だ。
けれどそれでもアマテラス様はそのように名付けられた。人も神も関係なく、分け隔てなく迎え入れ、天国への橋渡しを務め続けてきた。
しかしこの均衡が永遠に続くことは無かった。スサノオ様と志を同じくしていたアマテラス様が、その生涯を終えられたからだ。今代のアマテラス様へと、その役目もろともに引き継がれた事で、均衡は段々と崩れ始めていった。
今代のアマテラス様は執着を持ってしまったのだろう。掬い上げた人々を手放せなくなってしまったのだ。自らが受け入れられればそれで問題ないと考えてしまったのかもしれない。
しかしそれではダメなのだ。魂を癒すには世界が必要だ。神の力だけでは足りないのだ。アマノイワトに補える機能は無い。あくまで一時的に貯め置く場所でしかないのだ。
アマテラス様は抗争の意味を取り違えた。スサノオ様に一方的に勝つ為の策を持ち込んだ。
ウズメが持つ知識に偏りがあるのもそのためだ。アマノとウズメにアマテラス様にとって都合の良い情報だけを持たせて、複層世界中にばら撒いているのだ。
それは万が一の逃げ場や後援者を作るだけでなく、情報の既成事実化こそが目的であったのだろう。
スサノオ様が頭を抱えるわけだ。
アマテラス様は暴走している。そう考えざるを得ない。
ただこれは、今私たちに見えている情報だけで判断したものだ。未だアマテラス様本人と直接話をしたわけじゃない。もしかしたらアマテラス様にはアマテラス様なりに正しい理屈があるのかもしれない。それを聞かずして結論を出すわけにはいかない。だから聞きに行こう。結論はそれからだ。
『姉者とサグメは貸しといてやろう♪ 見事解決した暁には二人ともくれてやろうぞ♪』
「!?」
「おやおや」
横暴だなぁ~。
なんとなくわかってきたわ。スサノオ様のキャラ。
「生憎だけれど、私は姉上の側に残るつもりだよ」
『なんじゃ。今更動くのか』
「遅くなって済まなかったね。代わりの報酬は姉上に請求しておくよ」
『それは良いのう♪ 一番大切な者を奪ってやれ♪』
あかんでしょ。
良い薬になるって言いたいのかもだけど。
「サグメさんはどうする? スサノオ様の下に残るなら帰ってもらっても構わないけど」
「……行かない」
……これはどっちかしら? スサノオ様の下に帰りたいのか、アマテラス様の下へ同行してくれるのか。反転してるからっていうか、単純に言葉が足りなくてわからないわね。私の質問も悪かったのかも。サグメさんと円滑なコミュニケーションを行うにはコツがいりそうね。
「……」
帰る様子は無いし、このまま付いて来てくれるっぽい。
「メグル。サグメさんはあなたに任せるわ」
「仕方ないわね。いらっしゃい。私たちの事情も伝えるわ」
「……不服」
これは? もしかして感謝されてる?
『マスター。オート翻訳機能をオンにしますか?』
……やめておきましょう。なんかかえってややこしくなりそうな気がするし。
『イエス、マスター』




