57-04.天邪鬼
「近いです」
ノアちゃんの尻尾がピンっと張っている。
ツクヨミ様の囚われた牢までもう直ぐらしい。
「イコルの案内は完璧だったわね」
「当然よ~♪」
ありがとう、イコル。本当に助かったわ。
「えへへ~♪ コハルちゃんが信じてくれたからよ~♪」
ナデナデ。何故かされる私。
「きゃっ♪」
お返しにイコルを抱きしめて頬ずりをかます。
「きゃはは♪ コハルちゃんたら♪ 甘えん坊さんね♪」
「イコルお姉ちゃん♪ 愛してる♪」
「あらあら~♪ 欲しくなってしまったのね~♪」
「やめなさい!」
「こんなところでおっぱじめないでください!」
自身の服に手をかけたイコルをノアちゃんとメグルが私から引き剥がしつつ阻止した。
「誰か居るのかい?」
あら? 今の声は?
「久しいねぇ。誰かの声を聞くのなんていつぶりだろうか」
静かな声だ。穏やかと言うべきか。それでもハッキリと伝わってくる。その言葉には、確かな力が宿っている。古い神の言葉だ。そう感じ取れる。
私たちは静かに牢へと歩み寄った。
そこには一人の神が居た。鎖に縛られるでもなく、姿勢良く床に腰を下ろしていた。
周囲には見張りの一人もいない。
在るのはただ一人の神だけだ。
「私はアルカ。あなたがツクヨミ様ね? 助けに来たわ」
「アルカ。聞き覚えの無い名だ」
近くで改めて聞いてみると、女性らしい声だ。
ツクヨミ様って女神だったのね。てっきり男神かと思っていたのだけど。見た目は……どっちとも取れるわね。
「最近台頭したばかりの半神よ。混沌の原初神一派よ」
「ふっふっふ。これまた妙なところからお声が掛かったものだね」
「スサノオを止めたいの。協力してくれるかしら?」
「ならばやめておきなさい。今更私の力に価値は無い」
「それでもよ。アマテラス様に恩を売るだけでも意味はあるわ」
「姉上に。そうか。二人はまだ争っているのだね」
ツクヨミ様のこれはどんな感情なのだろう。
あまりにもフラットすぎて、何の感情も伝わってこない。先程少しだけ笑った時もそうだ。儚いというか、朧げというか……まるで今にも空気に溶けて消えてしまいそうだ。
なんだろう。この相反する印象は。確かに永き時を生きた神としての力を持っているし、言葉にもその力が乗っているのだけど。それでいて本人は薄れかけているなんて。
格は凄いけど、力は失いかけってところかしら。そりゃこんなところに閉じ込められていたらそうなるわよね。
……もしかして今なら従えさせられるかしら?
『契約を結ぶのは待つべきかと。イコルの助力を得たとしても、完璧な契約を構築出来るとは限りません。それはイオスにしか成し得ぬものと思われます』
それもそうね。
だいたい女神と確定したわけじゃないものね。
『すみません、マスター。高度な擬態の可能性を捨てきれません』
仕方がないわ。何もかも曖昧な神様であるというのも、もしかしたらそういう神性なのかもしれないし。
「ツクヨミ様。力を貸してください」
改めて頼んでみた。今度は素直に。頭を下げて。
「構わないよ」
え? そんなあっさり?
さっきはやめておけと言っていたのに。
「やはり私の力が役立つとは言い切れない。しかし出来ることはさせてもらおう。それでも構わないかな?」
「ええ! 十分よ!」
私たちはツクヨミ様を牢から解放し、即座にヤマタノオロチからも脱出を図った。
今回は自重無しだ。どうせツクヨミ様を連れ歩いていればバレるだろうし。念願の転移も解禁だ。
首尾よく外界に飛び出し、シーちゃんシップに乗って、今度はアマノイワト目指して航界を始めた。
「無事に逃げられました。おめでとうございます」
「「「!?」」」
シーちゃん!? 侵入者よ!?
「どうぞお気になさらず。この身は何も致しません」
「小春! こいつがサグメよ! その言葉は全て反転しているものと思いなさい!!」
なんですって!?




