56-15.クラン会議・続々
「今の話にあった想定は十分な確度で起こり得る未来だ」
けれど、と。ジュジュは続けた。
「どれだけ起こり得る可能性が高くとも、それは確定した結果ではなく、未来の予測に過ぎないものだ。だから私たちは計画を練らなくちゃならない。第二第三の案を持ち続けなければならないんだ」
そうね。御尤も。
「もしギルドがアルカ様とシノミヤの類似点に気付いていなかった場合。もし情報がギルドの支部長レベルまでは降りてこなかった場合。もしギルド本部が、全てを知った上で尚、アルカ様を利用しようと企んだ場合」
どれも起こり得る可能性だ。
「インチキが当てになるとは限らない。彼らだって惚けてしまうのが徹取り早いんだもの。こちらのスタンスがあくまで別人と言い張るものであるならば、彼らもまた気を遣う理由なんてありはしないのだから」
そうね。その通りよね。
「であるなら。私たちはどうするべきだろうか。お飾りの先導者に甘んじるのか。或いはギルドと危険な駆け引きを繰り広げながらでも我を通すのか。それともコツコツと信頼を積み重ね、良きところで全てをひっくり返すのか。選択肢は膨大だ。そうなるように動き続けるのが肝要だ。最も避けるべきは、選択肢を奪われ、身動きが取れなくなる事だ」
今この場で正解を導き出すことは目的としていない。どんな未来でも選べる選択肢を持ち続けることが重要だ。ジュジュはそう結んだ。
「選択肢が狭まれば向こうの思惑に従うしかなくなるかもしれない。或いは積み重ねてきた全てを放り出してでも、縁を切るしかなくなるかもしれない。そんなの冗談じゃない。そんなことのために私たちは頑張ってきたわけじゃない。失敗しても次があるだなんて軽く考えることはしないでほしい」
ええ。そうね。
私はもう何度もやり直してきた。都合が悪くなったら逃げて熱りが冷めるまで待ち続けた。
けれどそんなやり方はもう選ばない。永遠の寿命と人より優れた力があるからって、それで簡単にやり直しが利くからって、安易な道にはもう逃げない。
「前置きが長くなったね。具体的な話に戻ろうか」
ジュジュはそこで一呼吸置いた。
「ギルドは間違いなく制約を課してくる。それがランク制限という形にせよ、それ以外の何かであるにせよ、私たちは決して受け入れるわけにはいかない。理由は先ほど説明したとおりだ。選択肢を奪う目論見にだけは断固として抗わなければならない。先ずはそれが基本方針だ」
なるほどね。先程の話はここに繋がってくるのね。
「そうは言っても、ギルドに抗うのは簡単な話じゃない。クランにせよ、アライアンスにせよ、ギルドの制度を利用しようとしていることに違いはない。組織に属すならば、組織が課すルールだけは守らなければならない」
そうね。
「だから抗う方法は二つだ。一つは私たちの所属そのものがメリットになるのだと印象づける事。向こうからどんな条件でも残ってくれと言わせる事だ」
そんな制約を課すなら提案には乗らない。そう突っぱねられる関係性を築かなければならない。ただし、それで本当に縁を切ってしまうことだけはないように。それもジュジュが前置いた前提の一つだ。
「もう一つは自らルールを作り上げる側に立つことだ」
ルールはこちらで決める。間違いなく成果は上げるから、現場の細かい事に口を出すな。そう言える関係性を築くことも一つの手だ。
前者は規則を定める者との関係構築に重点を置き、後者は自ら規則を定める側に至ることを目指す。
どちらも言う程簡単な話じゃない。何故ならギルドはそこにこそ触れさせたくないからだ。
彼らだって先回りして対策を講じてくるだろう。
「ここで重要なのは、どちらかを選ぶことじゃない。どちらも選べるようにしておくことだ」
これもさっき話してくれた前提どおりだ。
「要するにギルドとは仲良くなっておこう。そういう話だ」
随分シンプルに纏まったわね。
「ギルドは私たちを餌として利用するつもりだ。既にそう依頼されている」
先日私がギルド長から聞かされた話だ。
「文字通りの飴になるのも有効な戦略になるだろう。アライアンスに加盟する冒険者たちを先に手懐けてしまうのが手っ取り早いかもしれない」
アライアンスの構築にも、私たちの存在は必要不可欠なのだろう。
逆に言うなら、ギルドが私たちなくしてアライアンスの構築と運営は回らないと考えている証左でもある。
でなければ餌だなんて言い方はしない筈だ。もっと良いところだけを示し続けた方が、私たちが提案に乗ってくれる可能性だって上がるのだから。
あのギルド長は中々正直者なようだ。ジュジュが高く評価している人物なだけはあるのだろう。間違いなく付き合いやすいタイプの人間だ。
「そもそも何故ムスペル周辺のクランだけでアライアンスを組むのですか? それも一ヶ月という短期間での招致です。制度の規模に動きが見合っていないように思うのですが」
ノアちゃんの疑問も尤もだ。
本来であれば、もっとじっくりと進めるべき案件だ。
「一つは鮮度だね。ムスペルで起こった事件を軽んじさせないためだ。ここでギルドが大した動きを見せなければ、本当に大したことのない事件として記録されてしまうだろう。だからまだ事件の残滓が残っている内に大きく動きたいんだ」
へ~。
「もう一つは……これは確実とまでは言えないけれど、アルカ様の存在が原因だね。また喧嘩別れするのを避けたいのはギルドも同じなんだよ。それだけ本気でもあるんだろうね」
慌てて私を繋ぎ止めようとしているのか。
その場合は話が簡単ね。制約なんて殆ど掛けてこないでしょうし。むしろ好きにやらせておいた方が、反感を買わずに済むし、得られるものも大きいし、メリットも多いものね。
「その二つだけですか? もう一つありませんか?」
というと?
「ギルドはムスペル王国に対して牽制したいのではありませんか?」
……ああ。なるへそ。
「そうだね。その考えもあるだろうね。『雷光』がムスペル側のものとなるのは避けたいだろうからね」
現在『雷光』の立場はややこしい事になっている。
元々この英雄の名前は、ギルドのSランク冒険者のものであった筈なのだ。
しかし、ムスペル王国では六百年前から現地の人々に親しまれてきた英雄様でもある。
ムスペル王国が誇る『剣聖』に比肩し得る、唯一無二の存在だ。
加えて、現在『剣聖』の後継は不在となっている。それが公の情報というわけではないけれど、知っている者は知っている類の情報だ。
つまり、ムスペル王家が『雷光』の所属するクランオーナー(当時はまだクランを結成していないどころか、雷光と出会ってすらいなかったけれど)を男爵位につけたのは、いずれ剣聖の後釜として『雷光』を取り立てる為の布石だったのだと噂されかねないのだ。
そういう空気が出来上がってしまえば、ギルドが不利になる可能性もないではない。
だから牽制が必要なのだ。ギルドの目立つところに『雷光』を掲げておきたいのだ。
もしやすると、私よりハスミンちゃんの方が重要なのかもしれない。今のギルドにとっては。
「本当に欲しい餌とは、アイドルの握手会ではなく、新たな英雄譚なのかもしれませんね」
どうかしらね。そういう面も無きにしもあらずだけど、それはそれって感じじゃないかしら。
英雄譚に加わる栄誉は欲しいけど、どうせなら美少女英雄とのラブロマンスにも夢を見る連中は大勢いることだろう。
「大英雄様が可愛い女の子で歌って踊れたら最強ね」
「お姉ちゃん? ボクに何させる気なの?」
「もちろん何もさせないわ。ハスミンちゃんは私の大切な妹だもの。誰の目にも触れないところで大切に守り通すわ」
「流石にそれはまかり通らないよ。アルカ様」
え~。やっぱりアライアンス断ろうかしら?




