56-14.クラン会議・続
「提案を受ける。ならば問題はどのように解決しますか?」
ノアちゃんが再び問いかけた。
今のジュジュの話を纏めると、アライアンスに加盟することで、具体的には二つの問題……デメリットが見えてくる。
一つはランク制限。一つはお飾り化。
実績不足による信頼度の低さという問題もあるけれど、それはアライアンスに加盟することによって生じる問題というわけじゃない。元々乗り越えなければならない課題だ。
何故なら私たちは、被害を待つつもりがないからだ。いつだって事件は起こる前に解決したいからだ。そこで手を抜くつもりがないからだ。それ故に過小評価されるのみならず、危険視され目の敵にされる可能性は、常に付き纏うだろう。
かつての魔王事件と同じだ。あの時と同じように、いずれムスペル王国やギルドが敵に回る可能性だって無いとは言い切れない。故に、決して無視できる課題ではない。
しかしそれはそれとしてだ。この件については、アライアンスの件とは切って分けるべき問題だ。むしろアライアンスはその手の問題を吸収してくれる制度であると見るべきだ。
何事も立ち回り次第だ。毒を以て毒を制す。先に味方を作っておけば、多少理解を超えてしまったとて、理不尽に詰められる可能性は減らせるだろう。
話を戻そう。
具体的な問題点の一つ。能力制限は実に厄介だ。
一つのクランにSランク四人は流石に多すぎる。それは誰がどう見ても明らかだ。バランスを欠いている。冒険者が如何に自由な職業とて、超えてはならないラインを超えている。
何故ならSランク四人という数字は、冗談抜きで小国なら滅ぼせてしまうものであるからだ。
クランという枠組みに大きすぎる戦力。もしこれがギルドの枠すらも外れて、自らの欲望に従って動き出せば、間違いなく世界の脅威となる。だから皆が警戒する。当然の話だ。
もちろんこれも、アライアンスへの加盟と代表就任によってある程度は吸収できるだろう。事実上、ギルドの最高戦力として扱われるのだから、むしろ多少の箔は必要不可欠だ。
そう考えれば、Sランク四人も決して多すぎない数字と言えるのではなかろうか。
ただ如何せん、うちのクランに所属するA・Bランクの中にも、オーバーS相当の実力者が揃っている。
ムスペル貴族たちの眼の前で、大ベテランSランクのクレアを下した「シノミヤ」。
英雄『雷光』の後継者「ハスミン」。
この二人のみならず、既に先の新種事件にて、他のメンバーも同等の戦力であると証明されてしまっている。
何故なら皆それぞれが別のダンジョンで問題解決に当たる姿を晒してしまったからだ。
私たちは一人一人が、ダンジョンから溢れ出す新種魔物たちを食い止められる実力者であると示してしまったのだ。
まだ真実の全てを知る者は少ないかもしれないが、いずれ話は広まるだろう。少なくとも、ギルド側は既にそれらが真実であると知っている筈だ。なんなら報告だって上げたし。
元々「キトリ」「マチルダ」「エレノア」「フラン」の四名は、ムスペルのみならず、他の地域でも名の知れたSランクたちだ。
彼女たちは何故再び故郷ムスペルに集まってきたのか。
その直後に発生した、国家存亡……どころか、世界滅亡にすら繋がりかねない未曾有の大事件との関連性は?
隣国「ヴァガル帝国」にて、先日皇帝の配下に加わったばかりの「悪しき魔女アルカ」の反応は?
ぱっと考えてみるだけでも、それだけの疑念は浮かんでくる。なんならもっと踏み込んで受け止めている者たちもいる筈だ。
例えば「魔女アルカ」と「女誑しシノミヤ」の関係とか。
……割と洒落になってないのよね。
魔女アルカが複数の美少女を連れ歩いていたことだって、知っている人は知っているわけだしさ。
なんなら、先日ヴァガル帝国が国を挙げて開催した武闘大会には、魔女アルカの愛する少女たちが大勢参加していたわけなのだし。
そこに来ての「シノミヤ」だ。
シノミヤは貴族令嬢に取り入り、着実にその勢力を拡大しつつある。連日異なる少女と王都や周辺ダンジョンを練り歩く姿まで目撃されている。
どう考えてもアウトです。マジすんません。
この世界の情報伝達速度はそう早いものじゃない。SNSなんかあったらとっくにバレていたことだろう。電話すら存在しないのは幸いだったと言うべきか。
しかしギルドは違う。彼らだけがこの世界で唯一即座の情報伝達手段を握っている。そういう魔道具が存在している。
これも数はそう多くはないから、どこのギルド支部にでもあるものではない。しかし少なくとも、ムスペル・ギルド本部・ヴァガルの三者を繋ぐ通信網は間違いなく存在する。
だからぶっちゃけ気付いている人は気付いてると思う。
ギルド本部は慎重にならざるを得ない。「魔女アルカ」は既に世界最大の二大国に潜り込んでいる。
一方では皇帝の側近として。
もう一方では王国貴族の伴侶として。
そう暴いてしまうわけにもいかない理由がある。
一度「アルカ」は表舞台から姿を消していた。ギルドと袂を分かち、影に潜んで力を蓄えていた。
その成果を披露したのがヴァガル帝国の武闘大会だ。これはより大きな影響を齎した「金属寄生生命体」事件よりも、遥かにわかりやすく危機感を煽った筈だ。
後者は常識から外れ過ぎていた。正しく事件の全容を把握できた者が少なすぎた。
しかし前者は違う。誰が見ても明らかな箔が付いてしまったのだ。挙句、ヴァガル皇帝との縁まで結んでしまった。
これは世界規模の脅威だ。今の皇帝勢力が世界征服に乗り出したら。アルカがそれに協力したら。誰一人として止められる者など居ないだろう。どこの国家が束になろうと、決して抗えはしないだろう。
ムスペル王国まで完全に掌握されれば、本当の本当におしまいだ。
アルカディアやとある地下都市だってアルカの縄張りだ。
他にもかつての大恩から、アルカを英雄と称え続ける国々も残っている。
極めつけはエルフの国だ。今まで何千年と人族との国交を持つことの無かったエルフたちが、アルカディアとだけは友好関係を結んでいるのだ。
この数年で、アルカは着実に支配の準備を進めてきた。
世界の半分以上は既に「魔女アルカ」の手に落ちている。
こと此処に至ってギルドに出来るのは恭順だけなのだ。
正確に真実を見通す者こそ「魔女アルカ」に抗おうなどとは考えない筈だ。
既にギルドは一度敵対している。次は完全に滅ぼされると理解している。だからギルドは優しく接するだろう。真実を知る者たちは口を噤むだろう。
誰も責任を負いたくないのは人間たちだって同じだ。むしろ力なき人間たちこそ、そういう性質を持ちやすいものだ。
「結局話を纏めると、アルカの正体に気付いているから好きにさせてくれるってことですか?」
「もちろん気付いているのは上層部のほんの一部よね。そこはノアちゃんが一番詳しいところでしょ。まあともかく、何かあっても上からの圧力って形で黙らせてくれるんじゃないかしら? 誰かが突っ走ろうとしてもね」
「そう都合良くいくでしょうか」
「適度に飴を与えましょう」
「黒幕の存在を忘れていませんか?」
「そうね。彼らは間違いなく既得権益を守ろうとするでしょうね」
「誘い出せると?」
「ええ。同等の誰かが台頭してきたのなら、戦わずに眺めているわけにもいかないでしょうし」
エデルガルト卿。
かの家は代々あらゆる組織に精通し、世界を裏から支配してきた黒幕だ。
そんな彼らにとって、ギルドの情報網は生命線だ。
決して失うわけにはいかない筈なのだ。
「当初の計画は始まる前から頓挫しましたね」
「何を言っているの? ノアちゃん。アルカとシノミヤは別人よ。頓挫なんてしていないわ」
「……酷いマッチポンプです」
「そうとわかっていてもギルドは乗ってくるわ。ノアちゃんはとっくに承知しているものと思っていたのだけど」
「バレないことを前提にした策のつもりでした」
「あら。ノアちゃんにも素直なところが残っていたのね」
「いえ。良いんです。私の立場で最初から開き直ってしまうのは危険ですから。アメリもミユキお姉ちゃんも敢えて口にしなかったことなのでしょう」
「アメリはともかく、お姉ちゃんは気付いてないと思う」
「……それもそうですね。ミユキお姉ちゃんもあれで意外と素直ですから」
意外とかしら? お姉ちゃんはずっと素直よ? 素直すぎて空気が読めないところもあるくらいには素直よ?
まあ、地頭良すぎてサラッと策略仕込んだりもするから分かりづらくはあるかもだけど。
けどまさか、ノアちゃんがまだそんな勘違いをしていただなんて。近くに居すぎた弊害かしら? お姉ちゃん、仕事できるもんね。カッコいいお姉ちゃんの姿ばかり見ていたら誤解してしまうのも無理ないのかも。
「アルカ様。ノア。少しばかり視野を広げ過ぎだ。私たちクラン【デウス・グラティア】が検討すべき内容を外れてしまっているよ」
そりゃそうだ。
「ごめんなさい。会議を続けましょう」




