56-13.クラン会議
今度はクランの方針会議だ。
「クランマスター会議に出席してもらいたいんだ」
ジュジュは最初にそう切り出した。
「約一月後。ギルド主催の会議が開かれることになった。会場はこのムスペル王国だ」
今回は絞るのね。良かったわ。半年後にギルド本部で全クランマスターを集めるとか言い出さなくて。
「彼らはアライアンスを持ちかけてくるよ」
ハッキリと言い切るのね。
「もちろんギルドが主導する形でね」
なるほど。そこから裏付けを取ったのか。
「アライアンスってどういうものなの?」
「先ず正式な制度として存在するわけじゃない。あくまで今回が初めての試みとなる筈だ。だから詳しい内容はまだ決まっていない。クラン同士の繋がりを強める枠組み、それが建前になると思う」
実際は牽制としての意味合いの方が強いのかしら?
それとも例のトロフィー問題? 私たち【デウス・グラティア】がサークラを起こさないように、ギルドがしっかり管理しますよって話かしら。
「ギルドは私たちを孤立させたいの?」
「うん。つまりはそういう事だね」
「どういう事ですか? アライアンスとは同盟のことですよね? それともこの場合は連盟と呼ぶべきでしょうか。ともかく、皆で手を取り合おうという話ではないのですか?」
ノアちゃんが尤もな質問を投げかける。
「形の上ではね。皆で対等な関係を結び、ルールを敷きたいんだ。仲良くするのが目的ではある。けれど本当に防ぎたいのはクラン同士の統合だ。一極集中を避けたいんだ。皆に抜け駆けするな。私たちに吸収するな。ギルドはそういう約束を結ばせたいんだよ」
ジュジュがノアちゃんの問いに答えた。
「個々の存在を明確に分断する為の同盟であると?」
「うん。境を失われてはギルドが困る。手に負えなくなってしまう。主導権を握る者が変わってしまう。だから最大値を設けたい。まず間違いなく、クランに所属できる冒険者の数にも制限を設けてくるよ。Sランクは二人まで。とかね」
制限は厄介ね。現時点でもうちにはSランクが四名もいるんだもの。他所に移れなんて言い出しかねないわね。
「何か大きな脅威が現れた時には、ギルドが代表してアライアンスを動かすんですね」
「うん。そうだね。先日の新種騒動ではうちに任せきりだったでしょ。あれも本来ギルドとしては、あまり都合の良い話ではないんだよ」
冒険者ギルドとして解決したのか、ムスペル王国と協力して解決したのか。或いは【デウス・グラティア】が単独で解決したのか。その境目も曖昧になってしまう。
事件には成果だけでなく責任も伴うものだ。誰が解決したのかも大切なことだけど、誰が事件の責任を負うのかも大切な事なのだ。でないと押し付け合いになってしまう。
成果はムスペル王国に。責任は冒険者ギルドに。そんな形になってしまえば最悪だ。
だから私たちの所属をハッキリさせたいのだ。ギルドが制御出来る形に押し込みたいのだ。
単一のクランにあるまじき力を持ってしまった私たちの責任は負いきれない。けれどアライアンスという新たな枠組みの内でなら、その問題も解決出来る。つまりそういう話だ。
「実に合理的な戦略ね」
「それには同意します。ですが、肝心の私たちが乗る旨味はなんですか?」
ノアちゃんはもう一歩踏み込んだ。
「一般的には情報共有や人材派遣、手厚いサポートなんかが期待出来るだろうね。共同訓練の斡旋なんかも頼めば手配してくれる筈だ」
「ですがそれは」
「うん。私たちにはどれも必要の無いものだ。むしろ彼らは私たちからそういうものを引き出したいんだ」
そう。無いのだ。私たちにとっての旨味なんて。
「だから私たちをアライアンスのトップに据えるんだ。全責任はギルドが負う。だからなんでも好きにやってみろ。お前たちに相応しい席を用意してやったぞ。なんて。そんな甘い言葉で釣ろうと考えるんじゃないかな」
実際、世界一のクランを目指すなら悪くない提案だ。
「これは対抗手段でもある。ムスペル王国が私に男爵位を与えたように。ギルドも遅ればせながら、デウス・グラティアを取り立ててくれるという意味でもある」
それも事実上、全冒険者の中でトップの席だ。
あくまでギルドの下ではあるけども。
上が全ての責任を負うというのは、逆に全ての責任を取り上げるという意味でもある。上下関係をハッキリさせるための提案だ。本当になんでもかんでも好きにして良いという意味じゃない。当然の話だけど。
「それが何故孤立することに繋がるのですか?」
「結局はお飾りや切り札にしかなれないからさ」
私たちは人を動かすための組織じゃない。極めて優れた小隊だ。名目上のトップを任されたからって、本当に作戦指揮の全てを担うわけじゃない。
そもそも誰もついて来たりなんてしないだろう。デウス・グラティアは誕生したばかりのクランだ。未だ名を知られぬ弱小クランだ。誰がなんと言おうとそれが実態だ。
たとえ四人ものSはランクが所属していたって。ムスペルを脅かす未曾有の脅威を払ったからといって。すぐに名声までをも伴うわけじゃない。
そもそも私たちは先の事件で禄に被害者も出していない。だから成した事の大きさを知るのは極一部に限られる。
なんなら『雷光』の噂も期待外れだと批判されかねない。あまりにも事件解決がスムーズ過ぎた。人の目にその脅威が映ることはなかった。だからこそ人々は気落ちするのだ。見たかった英雄譚が見られなかったと悔しがるのだ。「過ぎたるは及ばざるが如し」まさにそういうことなのだろう。
「いずれは皆も理解するのでは?」
「そうだね。何年も経てばきっと気付くだろう。私たちにはそれだけの力がある。間違いなく味方は増えていくよ」
私一人で英雄ごっこに明け暮れていた時とは違う。今はジュジュがいる。皆がいる。きっと上手な立ち回りを演じて見せるだろう。私みたいに敵ばかり増やす事は絶対に無いと言い切れる。
「けれどそこでギルドが足を引っ張るのさ」
「……ああ。だから孤立させるという話になるのですね」
「そうだよ。ギルドとしては、本当に私たちに全権を奪われては困るんだ」
ギルドもギルドで人を使うプロフェッショナルだ。私たちの上をいく巧みさで利用してみせるだろう。
「それらを踏まえた上で、ジュジュの選んだ選択は?」
ノアちゃんに倣って、ここはストレートに答えを聞いてみた。
「受けるよ。アライアンスの申し出も代表の座もね。やっぱり近道には違いないから。世界一のクランを目指すならさ」
ふふ♪ 楽しそう♪ 良い顔するわね♪




