56-09.生まれた意味
ウズメさんは何でも教えてくれた。
本当に全身全霊を以って私の家族に加わってくれたのだ。
曰く、アマノさんも羨ましがっていたそうな。あの一瞬で二人は立候補合戦を繰り広げていたらしい。全然気づかなかった。ノアちゃんとセレネみたいに心が繋がっているタイプなのだろうか。或いはフィリアスみたいなものだろうか。
どうやら後者らしい。歴代のアマノ・ウズメは全員アマテラス様や他の子たちとも現在進行系で繋がっていて、情報のやり取りを続けているそうな。
アマテラス様は本当に抜け目のないお方だ。ウズメさんも私との結婚を即座に望んでくれたそうだけど、アマテラス様のことも変わらず尊敬しているようだ。しっかり心を掴んだ部下を送り込むよう、徹底しているのだろう。
そもそもアマノ・ウズメは全員アマテラス様が自らの手で生み出した存在だ。アマテラス様は原初神でないにも関わらず、神々の創造が可能なのだそうだ。
これはテルス(ガイア)も得意とするところだ。
逆にニクスには一切出来ない。神の創造は神々の中でも極限られた者たちにしか成せぬ御業なのだそうだ。
『神話的に考えれば、ニクスはむしろ神を産み出す側の筈なのだけれど』
まだ若いから。きっと成長したらそういう力も湧いてくるんだよ。たぶん。
『ニューグラマスはすげえのデス』
『オレたちのグラマスよりハイペースだぜ!』
何故かアルマとテラフが盛り上がっている。
比較対象はホノカさんかしら? あの人も随分なハーレムをお持ちなのだそうだ。
「え? ホノカさんとミアさんが?」
「(こくり)」
ハネムーン中の二人は賞金稼ぎのようなことをしながら旅を続けているそうだ。アマノイワトにもつい最近まで滞在していたらしい。
『グラマスは何やってるデス』
『元気そうで何よりだぜ!』
どうしよう。商売敵として敵対することになったら。
というか賞金稼ぎまでいたのね。界賊界隈って。
今後考えられる想定としては、体制側として界賊を捕らえて回ることになる私たちは、賞金稼ぎで生計を立てる人たちからすれば目の上のたんこぶにもなり得るだろう。
食い扶持がどんどん減らされていくことへの危機感が私たちに向けた敵意に変わるのも時間の問題だ。
もちろん全ての人、全てのタイミングで敵対が選ばれるわけじゃない。利害関係の一致で協力することだってあるだろう。積極的な情報共有だって重要だ。私たち体制側が出来ないことをアマテラス様のようなグレーラインの重鎮や、現場の賞金稼ぎたちに任せることもあるのだろう。
だから単純に悪い情報というわけでもない。特にホノカさんとミアさんとは直接会って話をしたこともある。
何なら二人は今現在も私たちがプレゼントした船で旅をしているのだ。やろうと思えば今すぐの通信だって可能だ。二人にも界賊に関する意見を聞いてみようかしら? 賞金稼ぎ界隈の話も聞けて一石二鳥よね♪
え? ウズメさんが? まだまだ話足りないから後に?
おっけ~♪ 聞かせてもらいましょう♪
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「イコルってウズメには嫉妬しないのね」
「お人形さんみたいなものだもの~」
なんて失礼な。
いえ。なんとなくはわかるけども。
もちろん本気でウズメを人形なんかだと思っているわけじゃない。意外と感情豊かだし、お喋り好きでもある。しっかり個性が備わっている。ただ役目を果たすだけの人形では断じてない。
私はウズメから多くの話を聞きながら仲を深めていった。
だからこそ見えてきたものもある。アマテラス様は間違いなく神様だ。人の倫理観や価値観で測ろうとすること自体が間違いなのだ。
イコルがウズメを人形と形容したのは、ウズメ本人の自覚や資質の話じゃない。その役割や在り方の話だ。
「このウズメ」にとってはアマテラス様と私が全てだ。
段々とその比重も私に傾けてきてくれてはいるけれど、他の誰かが入る余地は無いようだ。
精々いたとしても「同期のアマノさん」だけみたいだ。
だからウズメの精神構造には作為的なものがある。
しかしこれは私や本人の意思で取り払える壁でもある。
機能が欠落しているとか、解除できない制約が課せられているとかそういう話じゃない。
シンプルに言うなら、私とアマテラス様以外への興味が薄いのだ。このウズメは。
これはアマテラス様の方針でもあるのだろう。あくまで情報収集はおまけで、メインは婚姻関係の方にあるようだ。
別に情報収集はしなくてもいいそうだ。普段はネットワークを断ってしまうことすら出来るようだ。
盗聴器のような役割が無いとまでは言わないけれど、本来の目的は電話としての使い方だ。自発的な情報提供や、貸し借りの申し出ならばいつでもウェルカムという意味で繋いでいるに過ぎないようだ。
アマテラス様はそういう設計方針でウズメを産み出した。
なんなら自分を裏切って心の底から嫁ぎ先に染まる事も織り込み済みらしい。そんな余地すら仕込んでいた。
だからイコルはウズメを人形だと形容したのだ。彼女がどんな道を選ぼうと、アマテラス様の敷いたレールから外れることは不可能だからだ。
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ウズメの出生については、人と神々の最たる違いとも言えるのかもしれない。
神々は生命を創造する際、愛や種の発展ではなく、実利によって生み出すものだからだ。太古の創生の時代ならともかく、今の安定した世では、後継種たる神々を生み出す機会は滅多に存在しないようだ。
もちろん愛だって目的の一つにはなり得るだろう。しかしそれはほんの一部だ。全体からすれば僅かな一例だ。
かといって神々は、子世代に全てを託し、種そのものの繁栄を目指すこともない。
代替わりだって起こり得るけど、それはあくまで本人が終わりを望んだからだ。後進に後を譲って更なる発展を目指す可能性は皆無と言ってもいいそうだ。
アマテラス様が歴代の「アマノ」「ウズメ」に同じ名を与え続けてきたのは、同じ役割を期待していたからだ。
彼女たちは機能的にではなく、その在り方によって縛られ続けている。
けれどこれは神にとって何一つおかしな話じゃない。
ニクスが先代の役割を継ぐために生み出され、その役割から逃げる道を選べなかったように。
神の不死性を司るイコルが、古き時から変わらず生き続けてきたように。
本来ニクスより年上である筈のノルンが、かつての妹分であったニクスを今では母と慕うように。
神にとって「役割」とは無くてはならないものなのだ。
故に。だからこそ。
神々は決して進歩を望まぬのだ。
あくまで課された役割の邁進に勤しむのだ。
ウズメの場合はその役割が酷く限定的なのだ。
量産品の特化型。言葉を選ばないのであれば、そういうことなのだろう。
そして何より、役割が神としてはちっぽけ過ぎるのだ。
もちろん神話の中にだって、ただ結婚しただけで出番を終える神様は珍しくもないのだろう。
けどだからって、そのためだけに生み出されたわけでもない筈だ。何かしら司ってはいた筈なのだ。
ウズメにはそれがない。最初から政略結婚の道具でしかない。文字通りの意味で。
本人も全てを理解した上で受け入れている。むしろ現状を楽しんでいる。会ったばかりの私を心の底から好いてくれている。なんとも都合の良い存在だ。私に一目惚れをしたと言ってくれた子は数多といるけれど、最初からそのために生み出されましたとまで言ってきた子は……まあ何人かだけだ。
『なんで前例がいるのよ。おかしいでしょ』
そこはほら。前々から神々とも関わってたし。
神々にとっての生命のプレゼントとは、わかりやすく手っ取り早いものなのかもしれない。




