第89話 勇者の聖剣
魔界から戻って1か月ほど経つと、周囲の人たちの支えもありレイアの精神状態も落ち着きを取り戻していった。
文献検索はエルフリードやヨハンに任せ、レイアは神聖力を高めたり使いこなす鍛錬に集中するようになった。
余分なことをしない代わりに休息を取れるようになり、あらゆる面で安定感が出てきた気がする。
そんなある日、エルフリードが明るい表情で1冊の本を持ってきた。
「レイア、これ見て。」
エルフリードが差し出した本を見てレイアは目を丸くした。
「まあ、これまたとても古い本ね。前の物よりボロボロじゃない。」
「これは1200年前の建国の勇者について記したものなんだ。勇者の使用した聖剣は王宮の宝物庫に保管されているだろう?一般人は見ることが出来ないし、僕はずっと普通の長剣のようなものだと思ってたんだけど・・・」
エルフリードが指し示した図を見た。
「ダガー?」
レイアも意外に思い、本を覗き込んだ。
勇者が泉の女神から賜ったという伝説の聖剣がまさかこんな小刀だったとは・・・。
「一般に売られている勇者の伝記や絵本の挿絵も立派な長剣だったろう?もしかしたらフェリクスでもこんなダガーだとは思ってもないかもしれないね。」
エルフリードは可笑しそうに笑いながらそう言った。
フェリクス王子が勇者の絵本をボロボロになるまで読んでいたと、マルクス王子から聞いたことを思い出しているのだろう。
「勇者の直系が本物の聖剣を知らないなんてあるかしら?」
レイアは訝しそうだ。
「うーん。王族用の講義とかで教えられている可能性はあるかもしれないけど、どうだろうね?・・・ところで、この聖剣なんだけど、泉の女神が自分の涙を固めて青い石にして剣にはめ込んだという伝説は知ってるよね?」
エルフリードに問われ、レイアは頷いた。
ベルナー王国で育った子供は初等学校で教わる内容だ。
「その聖剣にはめ込まれた石に神聖力を貯めることが出来るみたいなんだ。」
「神聖力を貯める?」
「そう。毎日少しずつ神聖力を染み込ませるように入れていくと神官数十人分の神聖力を入れることが可能だと書いてあった。」
レイアはエルフリードから本を借り、しおりの挟んであるページに目を通した。
「ダガーなら私でも持ち運べるし、戦いの最中に剣から神聖力を補充できるかもしれないってこと?」
本を凝視しながらレイアが尋ねた。
「そういうことだろうね。」
エルフリードが頷いた。
「本当だったらすごいことだわ。でも、勇者の聖剣って国宝よね?そんなの貸してもらえないよね?万が一、貸してもらえても王族以外が使うのに許可が出るとは思えないわ。」
建国の勇者の血をひく王族以外の者が聖剣を使うことは、ベルナー王国の王政の根幹を揺るがしかねない。
ベルナー王族が王族である理由は勇者の末裔だからだ。
「うーん、交渉しだいかな。前にフェリクスの王位継承権のことでマルクスに貸しがあるし、まずは彼に頼んでみるよ。あと、セドリック様やヨハン先生から国王陛下に直訴してもらおう。明日、先生たちとも相談してみるよ。」
エルフリードが一生懸命できる対策を考えてくれていることが嬉しかった。
レイアは内心あまり期待せずに微笑んだ。
「ええ。お願いするわ。上手くいくといいわね。」
そして王宮から”可”と返事が来たのはその2日後のことだった。




