第86話 帰還
視界が歪み、レイアは一瞬目を閉じた。
次に目を開くと、そこは見慣れた大神殿の聖堂の中だった。
「お嬢様!」
クララがレイアに抱きついてきた。
すぐ側にはヨハンやセドリックの姿が見えた。
「クララ・・・」
クララ達に会えたことでホッとして一瞬気が緩みかけたが、すぐに魔界に残してきた弟のことを思い出した。
「ノア、ノアがまだ魔界に・・・。」
青ざめるレイアにヨハンが静かに声をかけた。
「今回のレイアの救出は彼がクララの夢を通してわしらに提案してくれたものだ。魔界でのお前の状況も、彼の状況も聞いている。彼は自分の身を犠牲にしても姉を救いたいと自分から願い出たんじゃよ。」
「ノア・・・」
「悪魔の血を取り除く方法や人界への帰り方も彼が詳しく指南してくれたんじゃ。おそらくレイアがそれを拒むだろうから、姉を押さえられる人物を送って欲しいと訴えたのも彼だ。」
「そんな・・・。」
レイアが悲痛な表情になった。
「初めはわしらも迷ったよ。レイアは助けたいが、誰かの犠牲のもとにそれを行ってよいものかどうか。だが、彼はクララの夢を通して連日訴えてきたんじゃ。」
「・・・。」
レイアの目に涙が浮かんだ。
「彼がレイアと血を交換してどうなったかは正直わしにもわからん。悪魔がこの後彼をどう扱うかもな。じゃが、一つだけ言えることがある。レイアは幸せになる義務がある。命をかけて自分を助けてくれた弟のために。」
レイアはヨハンの言葉にハッとした。
そうだ。
それがノアの願いだと彼が言っていた。
「わかりました・・・。」
レイアは唇を噛みしめた。
それがノアの唯一の願いなのであれば自分はそれを絶対に叶えなければならない。
そして、レイアが幸せになるためには必ずやらないといけないことがある。
それはアルベルトを倒すことだ。
彼がレイアをつけ狙う限り、レイアに平穏は訪れない。
下手すると彼から避難するため、一生大神殿の中で暮らすことになる可能性だってある。
レイアが大切に思っている人たちもだ。
「幸せになるために戦います。」
レイアはノアへの想いを胸に、そう宣言したのだった。




