第82話 残された人たち
レイアが魔界に行った翌日。
朝食に現れない主人を起こすためにレイアの部屋に入ったメイドが、書置きとロザリオを発見し大騒ぎになった。
新クルム公爵は疲労で療養することになったと対外的には発表され、屋敷内には箝口令が出された。
その日の夕方。
大神殿の聖堂の中でヨハンが難しい顔をしていた。
クララとエルフリードも一緒だ。
ヨハンの手にはレイアが残した書置きとロザリオが握られていた。
書置きには一言 ”魔界に行きます。” とだけ書かれていた。
「昨日の夕方、悪魔が私の前に現れたんです。私の髪を一房貰うぞと言って。」
クララは青ざめながらヨハンに伝えた。
「他に何か言っておったか?」
ヨハンに尋ねられクララは頷いた。
「お嬢様への人質になってもらうと言ってました。きっとお嬢様は脅されたんです。言うことをきかないと私に危害を加えると言われて・・・。」
おそらくクララの言う通りなのだろう。
自分を責めているクララを慰めようとヨハンが声をかけた。
「クララ、自分を責める必要はない。脅しにはおそらくお前だけではなく、エルやわしの名前も出しているだろう。大切な人を皆殺しにすると言ってな。」
「先生・・・。お嬢様をあの悪魔から救うことは出来るのでしょうか?」
クララの質問にヨハンは渋い表情を浮かべた。
レイアから聞いた話から考えると、アルベルトは300年前に救国の乙女が対峙したのと同じ悪魔だ。
「大神官にも相談してみるが、なかなか状況は厳しいかもしれん。なんせ相手は300年前と同じ暴虐と破壊の悪魔じゃからな。」
「そんな・・・、やっと生贄から解放されたのに・・・。」
クララは目に涙を浮かべ、唇をかんだ。
「あの悪魔はクリスティーナに異常に固執していた。契約の代償ではなく、クリスティーナに似ているレイア本人を欲したんだと思う。」
エルフリードが眉間にしわを寄せ呟いた。
「この大神殿内にはさすがの破壊の悪魔といえど入ってこれまい。お前たちは人質みたいなものだし、目途がたつまで大神殿で過ごしてくれ。わしは今からセドリックたちと相談して、何か対処法がないか探してみる。」
クララもエルフリードも、ヨハンの言葉に頷くしか出来なかったのだった。




