第81話 ワインの正体
魔界に着て10日ほど経ったある日。
ベッドで目を覚ましたレイアは全身の気だるさを自覚した。
全身が熱く、頭もぼんやりしている。
「風邪かしら?」
その後、朝食の準備が出来たと呼びに来た影の女性に、体調が悪いから今日の朝食は要らないと伝えた。
そのまま、うとうととベッドの上でまどろんでいると、扉がノックされアルベルトが入ってきた。
「体調が悪いと聞いたが、どうだ?」
レイアはベッドの中からアルベルトを見上げた。
慣れとは怖いもので、アルベルトが近くに来ても前ほど身構えなくなっていた。
「全身がだるくて、頭がボーっとするの。」
そう言うとレイアは目を閉じた。
しんどいから早く出て行って欲しいという思いを言外に伝えたつもりだった。
その言葉にアルベルトがニヤリと笑った。
「ようやくか。」
「ようやく?」
レイアは目を開け、再びアルベルトを見上げた。
どういう意味?
「お前は魔界に来てから、毎日私の血から出来たワインを飲んでいただろう。それがようやく効いてきたということだ。」
「な。」
レイアは目を見開いた。
あのワインがアルベルトの血・・・?
「私の花嫁にするにはお前は聖なる力に満ち過ぎているからな。私の血が内側からお前の身体を作り替え、私と同じ魔の者へと堕とすのだ。」
レイアは恐怖に囚われた。
悪魔の花嫁になれと言われたが、どうせアルベルトが飽きるまでの期間限定のものだと思っていたのだ。
年を取れば容色は衰えるし、レイアがその間耐えれば、愛する人たちの安全は保たれる。
最悪レイアが死ぬまでのこと、そう思っていたのだ。
しかし、身体を不老不死に近い魔の者に堕とされれば、その責め苦が永遠に続く可能性がある。
クララが死に、エルが死んだ後も永遠にだ。
「いや、やめて。お願い。」
レイアは目に涙を浮かべながらアルベルトに頼み込んだ。
「ハハハ。いつもと違う弱ったお前も新鮮なものだな。無駄だ。お前は既に私の血を取り込んだ。後は少しずつ内から変化していくのを待つだけだ。さあて、後どれくらいかかるだろうな。神の使徒である聖女が魔の者へ堕ちていくのは見ものだろうな。」
そう言うとアルベルトは笑みを浮かべながらレイアの額にキスを落とした。
「今は身体が辛いだろうから、ゆっくり休んでおけ。」
そしてかき消すようにそこから姿を消した。
アルベルトがいなくなった部屋で、レイアは一人涙を流していた。
「いや・・・、いや・・。」
自分の身体を抱きしめながらレイアはうわ言のように呟いた。
しばらくそうしていたが、やがて身体の中から湧き上がる熱感と倦怠感に襲われレイアは意識を失ったのだった。




