第78話 ノアの回想
わけがわからず怯えていると、目の前が真っ暗になった。
気が付いた時には、見知らぬ庭園の中に座り込んでいた。
コポコポという噴水の音が聞こえ、そちらに目をやると噴水の上の空に赤い月が浮かんでいるのが見えた。
ここは魔界・・・?
ノアは震えた。
いつもは大嫌いな姉だが、一人ではなかったことが心強かった。
常に傲慢なソフィアもさすがに怯えていた。
カツッ
鋭い足音がし、そちらを見ると悪魔が2人に近づいてきた。
「ひっ!」
ソフィアがノアにしがみついてきた。
それを見て、悪魔はニヤッと笑った。
「クリスティーナの子孫が手の内にあるとは感慨深いものだ。そうだな・・・まずは約束の娘、お前だ。」
アルベルトはソフィアの腕を掴み、引きずりあげた。
「いやあ。止めて!」
ソフィアは泣きわめき、必死に暴れていた。
アルベルトは眉をひそめた。
「うるさい。」
アルベルトに睨みつけられ、ソフィアは身体をビクっと震わせ大人しくなった。
身体や声の自由が奪われたのだろうか。
アルベルトはソフィアを右手で抱えなおすと、左手で彼女の後頭部を支え口づけた。
口づけられたソフィアは、先ほどあれだけ暴れていたのが嘘のようにうっとりとした表情を浮かべた。
整えられた庭園で美しい男女が口づける姿は一枚の絵画のようで、ノアは状況を忘れ思わず2人に見入ってしまった。
おかしいと思ったのはその直後だ。
うっとりとした表情を浮かべるソフィアの瑞々しい肌にしわが入り、つややかに輝く金髪は白くパサパサになっていった。
そして、だらんと垂れていた腕は肉がそげ木の枝のようになった。
「ひっ・・・」
ノアは息をのんだ。
美しかった姉は生気を吸われ老婆のようになっていった。
着ていたドレスがブカブカになりソフィアの身体が枯れ木のようになると、アルベルトは彼女の身体から手を放した。
ソフィアの身体はそのまま地面に打ちつけられ、骨が地面に当たったのかカランという高い音が響いた。
ノアは引きつりながら、その様子を見ていた。
ソフィアの姿は直後に起こる自分の未来だ。
きっとソフィアは何が何だか分からないうちに逝くことが出来たはずだ。
どうせなら自分を先に殺して欲しかった。
こんな恐怖を感じながら死を待つなんて・・・。
怯えた表情でアルベルトを見上げたノアを、悪魔が見下ろしてきた。
「ほう。お前はクリスティーナによく似ているな。その顔で怯えられるのも一興だ。よし、私の気が変わらない間は生かしてやろう。」
そしてノアの髪の毛を鷲掴みにした。
「だが、この顔にこの色は似合わないな。」
アルベルトがそう言うと、頭部に何か魔力のようなものを感じた。
「ハハハ。この色になるとまさしくクリスティーナだ。」
アルベルトは上機嫌でノアから手を放すと、古城の方へと足を向けた。
ノアは茫然と座り込んでいたが、アルベルトは数歩進むと後ろを振り返った。
「おい。何をしている。早く来い。」
これがノアとアルベルトとの奇妙な同居の始まりだった。




