第79話 ノアの回想
アルベルトはノアに雑用をするよう言いつけたが、大抵の用事は黒い影がこなしてくれたので、さほどすることがあるわけではなかった。
アルベルトは一日中いないこともあり、ノアは古城の書庫や湖のほとりで一人で過ごすことが多かった。
アルベルトが城で晩餐を取る時は、必ず呼ばれ一緒に食事を取らされた。
その時に彼はよくレイアの話をしていた。
「お前の姉がベルナーの王太子に見初められたぞ。さすがはクリスティーナの直系だな。」
レイアのことを話すアルベルトはとても楽しそうだった。
フェルゼンシュタイン公爵家のエルフリード公子の話もその時に聞いたのだ。
悪魔に連れ去られた日。
あの日は自分のことでいっぱいいっぱいだったから記憶が定かではないが、聖堂の扉が開いた時に彼の姿を見た気がする。
「田舎町で生活していても王国筆頭の公爵家の子息をたぶらかすとはなあ。」
アルベルトは自分の事のように嬉しそうに笑っていた。
ノアはその話を聞いてエルフリードの姿を思い出していた。
学年が4つも違うため話をしたことはないが、すっきりと整った容姿に穏やかな気質で公爵子息ということもあり同級生の女子がきゃあきゃあ言っているのは知っていた。
しかし、誰にもなびかず浮いた噂もない彼には、陰で男色ではないかという噂もあった。
エルフリード様は姉さまがお好きだったのか・・・。
それは他の女性に目がいかないだろうとノアは内心納得したのだった。
レイアが聖女になった話やフェリクスに好意を抱かれているといった話はさすがは姉さまだ、と誇らしく聞いていた。
しかしアルベルトがフェリクス王子を取り込み、レイアを手に入れようとしていることを聞きたじろいだ。
「レイア姉さまは代償ではなかったはずでは・・・。」
「ルイスとの契約は金の娘を貰った時点で終了している。レイアは私のものだ。私が欲しいから手に入れる。それだけだ。」
嫣然と笑うアルベルトにノアは愕然とした。
気高く高潔な姉が悪魔の手に落ちるのを見たくないと思った。
でも、僕のちからじゃどうすることも出来ない・・・。
それからは姉を救う方法がないか書庫で文献を読み漁る日々を過ごしていた。
そんなある日、いつも余裕の表情を浮かべていたアルベルトが全身に火傷を負って帰ってきた。
「だ、大丈夫ですか?」
ノアが驚き駆け寄ると、ガシッと両肩を掴まれた。
「お前の姉にやられた。責任は取ってもらうぞ。」
そこで、ノアの意識は途切れた。




