第72話 予期せぬ来客
「・・・。」
目を見開いたレイアにノアが優しく笑いかけた。
「彼があなたの元に直接訪れたら、姉さまが返り討ちにするでしょう?でも、僕なら?僕は人間だし、こんな姿になったけどあなたの弟だ。」
「でも、私があなたについて行かないといけない理由はないでしょう?」
レイアはノアを睨みつけた。
「クララ、フェルゼンシュタイン公爵家のエルフリード様、ヨハン神父、それにレーゲンスブルクの人たち、教師になったメアリー、警備隊員のマーカス・・・、姉さまは人望があるのか友達が多いんですね。姉さまが来ないなら、この人たちが順番にどんな目に合うか・・・」
「脅すつもり?卑怯よ!」
レイアに睨みつけられ、ノアは肩をすくめた。
「何とでも。姉さまを連れて帰らなければ、どうせ僕の命もないんだ。」
その言葉にレイアはハッとしてノアを見た。
「まだ、決心がつかないようなら、これでどうですか?」
そう言ってノアは上着のポケットから何かを取り出し、レイアの手に握らせた。
「これは・・・!」
それは一房の茶色い髪の毛だった。
柔らかく、少しうねりのあるこの髪は・・・
「クララ・・・?」
茫然とその髪の毛を見つめるレイアにノアが声をかけた。
「彼女は無事ですよ。手土産だと言って渡されましたが、他に危害は加えていないと彼が言ってましたから。」
レイアが話を断れば、今から危害を加えると言いたいのだろう。
反撃する神聖力を持たないクララなど、赤子の手をひねる様に簡単に殺されるに違いない。
そして、エルも・・・。
レイアは意を決したようにノアを見た。
「わかった。魔界に行くわ。でも、他の人に危害を加えないという誓約をして欲しい。」
その言葉にノアが笑顔を見せた。
「わかりました。彼にお願いしてみましょう。」
そう言うと、ノアは目をつむり何かを考えているような表情になった。
悪魔と連絡を取っているのだろうか?
しばらくして目を開けると、彼は淡く微笑んだ。
「了解したとのことです。こちらが誓約書になります。」
差し出されたノアの手の上に、魔法のように一枚の羊皮紙が現れた。
レイアはそれを手に取り、目を通した。
神聖力で探ってみるが、誓約書としての有効性もちゃんと備わっていた。
「それで、よろしいですか?」
手品のように現れた羽ペンを渡され、レイアはその誓約書にサインをした。
「ああ、誓約書にも書いてありますが、そのロザリオは置いて行ってくださいね。」
レイアは唇をかみしめ、ロザリオを外した。
そして書置きをし、その手紙の上にロザリオを乗せた。
起きてこない主人を呼びに来たメイドが、書置きを発見し大騒ぎになったのは翌朝になってからだった。




