第59話 送別会
レイアとエルフリードがベルナーを発ち2週間ほど経った頃、神殿を訪れたクララにヨハンが声をかけてきた。
「もともと隠居の身だったし、わしはそろそろレーゲンスブルクに戻ろうと思っている。」
「まあ、寂しくなります。」
クララが残念そうな表情を浮かべた。
クララもレーゲンスブルクに移り住んで長い時間が経ち、王都には連絡を取り合えるような友達もいない。
ヨハンの帰郷は心から寂しいと思った。
「クララが希望するなら一緒にレーゲンスブルクの神殿に来てもいいぞ。」
「そのお申し出は嬉しいですが、数年したらお嬢様たちがベルナーに戻ってくるかもしれませんし、私はここに残ります。」
「そうか・・・。まあ確かに王太子殿下も2,3年以内にはご結婚されるだろうし、それまでの辛抱じゃろうしなあ。」
「しばらくお会い出来なくなりますし、先生が王都を発たれる前にお食事でも行きましょう。」
※
その数日後、2人は王都にあるレストランの個室で2人だけの送別会を開いていた。
「しゃれたレストランじゃなあ。聖職者になってから若い女性と2人で食事なんて初めてじゃ。」
「まあ、先生。若い女性だなんて、私もう40代ですわ。」
「わしからしたら若い女性じゃ。」
「ふふ。まあ、そうかもしれませんね。」
クララが予約したお店は女性に人気のレストランで、店内の内装も出てくる食事も女性好みの繊細で綺麗なものだった。
「神殿では質素な食事ばかりだったし、こんな見た目も綺麗でおいしい食事は本当に久しぶりじゃ。王都でのいい思い出になったわい。クララ、ありがとう。」
ヨハンの言葉にクララが涙ぐんだ。
「いいえ。私たちこそヨハン先生には本当にお世話になりっぱなしで・・・。こうして気軽にお会い出来なくなると思ったらとても寂しいです。」
「嬉しい言葉じゃ。ちと遠くはなるが国内じゃし会おうと思えば会えるだろうさ。」
「そうですね・・・??」
相槌を打ちながらクララは首や胸に違和感を感じ、胸元を見た。
「どうしたんじゃ?」
「いえ、あの・・・。何か胸元が熱くなって違和感が・・・。」
レイアードのロザリオはレイアにあげてしまったが、返してもらったチェーンだけ常に身につけていたのだ。
「ロザリオのチェーンが熱いような・・・?」
不思議そうな表情を浮かべ、クララは胸元からチェーンを取り出した。
「チェーンが光っておるぞ!」
クララの首にかかる銀のチェーンが淡く発光するように光を放っていた。
「神聖力が溢れている?クララ、それを貸してくれ。」
ヨハンに促され、クララはチェーンを外しヨハンに渡した。
ヨハンは両手でチェーンを握りしめ目を閉じ、自身の神聖力を込め探ってみた。
「フェリクス王子だ・・・。レイアの目の前に王太子がいる。」
ヨハンの言葉にクララは戸惑った。
「えっ?どういうことですか?お嬢様はノースブロンにいるのでは?」
「場所はわからん。じゃが、レイアの前にフェリクス王子がいて、彼からは禍々しい悪魔の気配がする。」
クララは息をのんだ。
「このチェーンはレイアのロザリオと対になるものじゃろう。ロザリオが映したものが、このチェーンから感じられる。」
「そんな・・・悪魔だなんて・・・、どうしたら・・・」
「レイアは神聖力は多いが、その扱いはまだまだ未熟だ。手助けするぞ。クララもこのチェーンを握り、一緒に祈ってくれ。」
「はい。」
クララはチェーンを握り締めるヨハンの手の上に自分の手を重ね、レイアへの祈りを込めたのだった。




