第58話 王宮の離れ
「そんな・・・、フェリクス様はこの国の王太子様なのよ!」
その言葉にフェリクス、いやアルベルトは可笑しそうに笑った。
「ああ、そうだな。この国の王族、勇者の血筋は魔の者との親和性が高いようだ。300年前もそうだった。熱くのめり込みやすい性質が魔の者を呼び寄せやすいのかもしれんな。」
「300年前の悪魔もあなたなの?」
レイアがあえぐように尋ねた。
アルベルトはニヤリと笑った。
「当時のベルナーの王太子は野心家で大陸の覇者になりたいという望みを持っていた。隣国ノースブロンの神聖石の鉱山を手に入れるため戦争を起こそうとしていたが、反戦派閥と対立してくすぶっていたから私が発破をかけてやったのだ。」
「そんな・・・」
この悪魔がいなければ、大勢の人が犠牲になったあの戦争は起こらなかったということか。
「あの女さえ現れなければ完璧なはずだった。」
「あの女?」
「クリスティーナ・クルムだ。何代も前なのに、お前はクリスティーナとそっくりだ。その容姿も身に内包する力も。」
フェリクスと同化したアルベルトはねっとりとした視線をレイアに向けた。
「あれと戦って私は多くの魔力をそがれ、それが戻るまで300年近く魔界にこもるはめになった。」
歴史書では救国の乙女は悪魔を倒したことになっていたが、彼女の力をもってしても追い払うことしかできなかったということか。
「久しぶりに人間からの召喚の声が聞こえ、覚えのある神聖力に興味がわき答えたのがルイスだ。あれもみてくれはクリスティーナに似ていたが、彼女と違ってなかなかクズな男だったな。」
饒舌に話すアルベルトは楽しそうだ。
「クリスティーナにはしてやられたが、今回は私の勝ちだな。お前を私の女にしてやる。」
勝利を確信したアルベルトはうっとりした表情でレイアに手を伸ばしてきた。
レイアは咄嗟に神聖力を手に込めアルベルトにぶつけた。
彼の心臓付近に当たった神聖力に多少の痛みはあったのかアルベルトが少し顔をしかめた。
「ハハハ。可愛らしい抵抗だ。しかし、反抗的な態度にはしつけが必要だな。」
アルベルトはエルフリードに視線を向け、人差し指を彼に向けた。
エルフリードを拘束していた黒い茨がググっと彼を締め上げた。
「う、うぐっ・・・。」
エルフリードの顔が赤黒くなり苦悶の表情を浮かべた。
「やめて!」
レイアが悲鳴をあげた。
「お前が反抗的な態度を取るたびにあいつにお仕置きを受けてもらおう。婚約者なのだろう?何回締め付けたらあいつが肉片になるか試してみるか?」
レイアは青ざめてアルベルトを睨みつけた。
「ああ、またそんな目で私を見て・・・。」
今度は視線を動かさずに右手を上げた。
「ああ、うっ、やめ・・・」
エルフリードはさらに身体を締め付けられ、茨から逃れようと身体をよじらせた。
「いや、やめて!わかった。あなたの言う事をきくわ!」
レイアは思わず絶叫した。
「お前が私のものだとようやく理解したか。」
これはアルベルトの言葉なのか、フェリクスの言葉なのか。
ここで彼らの言うことをきいたところで、その先の未来はフェリクスに取りついた悪魔による国の乗っ取りだ。
レイアは覚悟を決め、エルフリードの方に顔を向けた。
エルフリードはレイアと視線が合うとふわりと笑い頷き、音を出さず口を動かした。
それを見てレイアも泣き笑いの表情を浮かべ頷いた。
覚悟を決め自分にのしかかるアルベルトの方に視線を戻し、目をつむった。
大人しくなったレイアにアルベルトはニヤッと笑みを浮かべ顔を近づけてきた。




