第57話 王宮の離れ
「ここは・・・?」
レイアが茫然とつぶやくと、フェリクスが答えた。
「ベルナーの王宮にある離れだ。お前のために用意した。」
「ベルナーの王宮?」
レイア達がいたノーズブロン王国の王都とベルナーの王都は馬車を使っても1週間はかかる距離があるはずだ。
レイアは先ほど思いついたことが真実だと確信した。
「あなたは悪魔と契約したのですか?」
フェリクスはふわりと微笑んだ。
「仕方がなかったんだ。お前が私から逃げるから。」
聡明だった王太子とは思えない発言にレイアは身体を震わせた。
「そんなことのために・・・。あなただったら女性なんてより取り見取りでしょう?」
レイアの言葉にフェリクスは怒りを露わにした。
「そんなことだって?責任だの期待だの欲しくないものばかり押し付けられて、自分が一番欲しいものは手に入らない。皆が望む理想の王太子を演じてやっているのだから、私が唯一望むものを一つくらい手に入れてもいいだろう?」
フェリクスは自分の考えに何の疑問も持っていないようだった。
「代償は・・・代償は何を・・・?」
レイアはあえぐように尋ねた。
「代償?それは私自身だ。ルイス・フォン・クルムとは違う。私は誰かを自分の身代わりになどしない。」
「フェリクス様自身・・・?」
レイアは訝し気にフェリクスの顔を見つめた。
「!」
そして彼の目の色を見て息をのんだ。
綺麗な青色だった彼の瞳は禍々しい赤色に変わっていたのだ。
「さあ、話は終わりだ。これからは2人の時間だ。ああ・・・、邪魔者がいたか。」
フェリクスは虫けらを見るようにエルフリードに視線を向けた後、ニヤッと笑った。
「いいことを思いついた。」
そう言うと、彼の手のひらから黒い茨のツルが現れエルフリードの身体を縛りあげた。
以前ソフィア達を縛った茨と同じものだ。
「はなせ!」
茨を外そうともがくエルフリードにフェリクスは楽しそうに言い聞かせた。
「お前には、そこで今から私とレイアが愛し合う姿を見ていてもらう。そして、レイアが私の妻になったという証人になってもらおう。」
フェリクスはレイアを抱き上げ、ベッドの上にそっと下した。
レイアは恐怖で引きつった表情でフェリクスを見上げた。
負けてはだめ!
恐ろしいと思う気持ちに蓋をしてレイアは手に神聖力を集めた。
フェリクスはそれを可笑しそうに眺め、クスっと笑い声をあげた。
「無理だな。お前の神聖力はクリスティーナに及ばない、それにあれは 祓魔師としての実践経験が豊富だった。お前がもっと修行していれば私に少しは対抗できたかもしれないが、今のお前では難しいだろうな。」
フェリクスはまるで救国の乙女クリスティーナが知り合いであるかのように語った。
アルベルトは300年前と同じ悪魔なのか。
この方はフェリクス様なの?アルベルトなの?
レイアの疑問が伝わったのかフェリクスが口を開いた。
「今は私とこの男が混ざり拮抗している状態だな。この男がお前を完全に手に入れた時点で契約は成立し、この身体は私の物になり、この男の意識は完全に私の支配下に落ちる。」




