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第二十四話 奴隷解放作戦 其の四

 「?!」


 ブーケルマが子供たちに気がついてしまった。


 「メノ!逃げろ!」

 「!」


 声は聞こえただろうが、もう遅い。

 彼奴は獣のように子供たちに飛びかかった。


 「ロックバレット!ウォーターボール!ウィンドボム!」


 俺は連発がきく初級魔術で気を引こうとしたが、遅かった。

 メノが助けられたのは自分の直ぐ後ろにいた一人だけ。

 その子より後ろに居た子は殆ど食われた。

 2〜4番目の子までは丸呑み。

 5、6番目の子は右腕につぶされた。

 7〜11番目の子は体の上半分か下半分食われた。

 残りの子供たちは地下へと逃げた。


 俺はここでそこが射程圏内に入り、ロックスピアで捕食を中断させた。

 その時、俺を見る上半身の子供と目が合った。

 その目からは言葉では表現できないような何かを訴えられていた。


 …俺が、部屋の中だけで戦えば問題なかったのではないか?

 出口が彼処にあることは既に知っていたのだから、メノを救出に向かわせた以上、助けた後の責任は俺にある。

 俺が安全を確保しておかなきゃいけなかった。

 彼奴は理性を失ってたんだから、間合いを詰めて攻撃をするのが正解だったんじゃないか?


 「ジル!」

 「!」


 俺はブーケルマの裏拳を正面から受けてしまった。


 「グハッ!」


 俺は元部屋の壁まで叩きつけられた。


 「ふ〜やっと理性が戻ってきたよ。あの娘には感謝だね。わざわざ餌を運んできてくれたんだから。」

 「ジル!」

 「あ〜、君は後で食べるから、そこら辺に居て良いよ。

 あと数匹残ってたでしょ?檻に戻しておいて。」


 壁に叩きつけられた俺は疲労とダメージでうまく動けなくなっていた。


 「散々おちょくってくれたね。

 君は美味しくもなさそうだし、引きちぎって捨ててあげるよ。」



 そう言ってブーケルマは俺の頭を持ち上げた。

 俺は全身脱力し、抵抗できなかった。


 「じゃあね。」


 そう言って引きちぎるために俺の足をもつ瞬間、俺は意識を失った。



 【ブーケルマ視点】


 「?!」


 だが次の瞬間、小僧の意識は無いはずなのに、凶暴なオーラが溢れ出した。


 「何だ?!」


 小僧は意識を失っている。

 だが、あの時感じた食欲低下の原因が漏れ出ている。

 小僧の体から漏れているのは漆黒のオーラ。


 「何だ…何の血だ?」


 自分が読んだ文献にはこの様なオーラは確認されていない。

 あの小娘の正体がハイエルフだと分かったのも、覚醒前の薄く漂うオーラが緑竜の物だと分かったからだ。

 かなりマイナーな物まで書いてある文献の筈なのに、何故分からない!


 「お前は、何の血の持ち主なんだ!」

 「…」


 意識を失っている小僧が答えるはずもない。

 小娘の方もチラッと見たが、向こうも困惑している様子だった。

 恐らく、初覚醒の時に稀に起こる力の暴走だ。

 あぁなった奴は自分が気がつくまで暴走を止められない。


 「?!」


 次の瞬間、小僧はウィンドボムの爆風で加速して至近距離まで来た。

 爆風で加速するのはタイミングと向きを間違えればむしろリスクになる。

 それを今、連続で2度行った。


 そして、顎にロックバレットが当たる。

 動きが鈍る。

 更に、足元からロックスピアが現れる。

 何度も同じ所にダメージを負った痛みで膝をついた。

 反撃を試みて右手で掴みにかかる。

 そのままウィンドカッターで右肘を切断すると同時に、ファイヤーボールを切断面に当てられ、焼かれた。


 痛みで大声が出る口にはウォーターボールが打ち込まれ、呼吸が阻害された。

 そして、両太腿と左腕も根本から切断され、焼かれた。


 私は『死』を強烈に感じた。

 さっきまでは、圧倒的に私が有利だったのに、人格が変わっただけで、ここまで追い詰められた。

 次の瞬間、首をウィンドカッターで切断されて終わりだと思った。


 だが、私は幸運だった。

 ウィンドカッターを使われる直前に小僧が意識を取り戻して、力を引っ込めてしまったのだから。


 【ジル視点】


 「カヒュ…!ゴホッ!ガハッ!ッ!ゴホッ!ゴホッ!ッ!」


 何だ?!何が起こった?!

 さっきまで壁にぶち当たって動けなかったはずなのに!

 目が覚めたら目の前でブーケルマがボロボロだし、それよりも、体中が軋むように痛い!

 息が苦しい!

 肌が、針で刺されまくっているみたいに痛い!

 これは…何時ものアレが酷くなったのか!

 何でいきなり!

 あの日から数年間、毎日ちょっと痛かったけど、酷くはならなかったのに!


 「ハハ…残念だったな!もう少しで殺せたのに!

 時間はかかるが、此方は再生できる!

 さっさと殺せば良かったのに!

 しかも、さっき食ったばっかりだからな!

 再生は始まってるんだよ!」


 何とか目を開け、ブーケルマの腕を見ると、腕の爛れた切断面が動いているように見える。

 欠損が少なかった右腕はもう手首近くまで再生している。


 ブーケルマはそれを起点に体を起こし、動けない俺の上に腕を置いてきた。


 「形勢逆転だな!」


 そう言って俺の首に涎のようなものがかかったその時、ブーケルマの首に蔓が巻き付き、ブーケルマは再び地面に倒された。


 「ジルは食べさせない!」

 「この餓鬼…!」


 ブーケルマは再生が殆ど終わった右腕でそれを引きちぎった。

 そしてうつ伏せになり、メノを睨んだ。


 「この餓鬼!餌の分際で盾突きやがって!

 お前から殺してやる!」


 そう叫んだ時、まだ再生している途中のブーケルマの足に何かが刺さった。


 「グァァァ!」


 俺が何とか見上げると、其処には白い骨の足があった。


 「!」


 何と、不死身のスケルトンがあの乱戦を通過し、此方にまで辿り着いたのだ。


 「この…!クソ骨!」



 その時、知らない声が聞こえた。


 「何だこの惨状は!」

 「「「!」」」


 そこに居たのはスケルトン達と戦闘していた冒険者や、警備兵達だった。


 彼等は最初、スケルトン達と戦っていたが、数匹が街の中へと入ってしまった。

 だが、後ろの方で支援していた支援部隊に一切の危害を加えず、ある一点を目指していたので、それが何かを探るため戦闘を一時中断し、後をつけていたのである。


 そして、領主邸に近づくにつれ、激しい戦闘音が聞こえてきて、スケルトンも近づくに近づけなかった。そして、戦闘音が止んだこの時に全員が突撃してきたのである。


 スケルトンたちは一斉にブーケルマに覆いかぶさった。


 集まった冒険者や警備兵達は何があったのか上手く飲み込めず、オロオロしていたが、メノのあるひと言で全員が動いた。


 「助けて!」


 ギルド長や警備兵長の指示のもと、冒険者達はスケルトンに加わってブーケルマを押さえに行き、警備兵達は俺やメノ、生き残っていた5人の子供達を避難させた。


 「骨と愚民めが!邪魔をするなあぁ!

 私は領主様だぞ!」


 初めは自分の正体がバレるのを恐れて殆ど喋らず暴れていたが、傷口が攻撃され続け、また理性を失いかけたブーケルマは自分の正体をバラした。


 「?!」


 冒険者達の攻撃が一瞬止んだ隙に、腕で薙ぎ祓い、スケルトンを粉砕し、再生しかけの足で逃げ始めた。


 「「待ちやがれ!」」


 この時運悪く、冒険者の中には遠距離攻撃ができる者が居なかった。

 彼等は元々近接戦闘が苦手なので、今回のような乱闘には参戦していなかったのだ。


 逃げるブーケルマは丁度担がれて運ばれていた俺の方に走ってきた。




 …逃げるなよ。逃がさんぞ。

 今夜だけでお前はどれ程の事をした!

 俺はあの人と約束したんだ。

 お前だけは殺してやると!約束したんだ!


 俺は担いでいる人を突き飛ばし、地面に立った。


 「何やってるんだ!」


 しかし、警備兵の人達もブーケルマが向かってくるため、俺を見捨てて退散した。


 「…ウィンドヴォルテックス。」


 風魔術中級『ウィンドヴォルテックス』。

 ウィンドボムとは逆向きの風渦で、近くのものを強制的に吸い込む魔術。


 これにより、俺とブーケルマの距離はいきなりグンと近づく。


 後数部分離れていたら間に合っただろうが、この距離では間に合わない。


 「ロックスピア。」


 ブーケルマの足に深く食い込み、何とか倒れ込んだ体に刺さらないように右腕を犠牲に体を起こした状態でキープする。


 俺とブーケルマの顔の距離は目と鼻の先になる。

 そして俺は、詠唱を始めた。


 『水よ』

 「グアァァァァ!」


 ブーケルマが俺を攻撃するために左腕を振り上げたが、それはメノによって蔓で止められた。


 「させない!」


 『線となりて』


 だが、蔓は直ぐに引きちぎられる。

 しかし、再生を終えたスケルトン達が走って来て、ブーケルマを妨害した。


 『敵を撃ち抜け』


 「じゃぁまぁだあぁ!」


 そして、詠唱か終わった俺は手をピストル型にしてブーケルマの心臓の位置に当てた。

 そして、最後の言葉を唱えた。


 「ウォーターショット。」


 普通のウォーターショットの何倍も太いウォーターショットがブーケルマの心臓を的確に打ち抜いた。


 「ッ!」


 だが、まだ足りない。

 彼奴が心臓を真っ先に治す可能性もある。

 だから止めで火魔術も撃つ。


 「フレイムアロー。」


 心臓が撃ち抜かれた所に火の矢を放ち、傷口を焼いた。

 傷口を焼かれたブーケルマは直ぐに再生できなかった。

 そして、朝日が昇ると同時にブーケルマは倒れた。

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