第二十話 復讐のマーチ
約一カ月半後、トリニア山脈をまたぎ、村や街を越えて俺はブルケルマへと戻ってきた。
最初に乗って行った馬は途中で売ったため時間はかかったが、わりと直ぐに着いた。
依頼人のお爺さんの家に行くと、庭の花壇に水をあげている一人の褐色の女が見えた。
「すみません。」
「はい?」
そうして振り返った女の顔は約一年前と何も変わらない顔だった。
「…久しぶり。」
「え?…ジル?…ジルだ!ジルが帰ってきた!」
そう言って抱きついてきた。
「全く、かなり面倒な依頼を引き受けてくれましたね。」
「…!…とりあえず、体を水洗いしてきて…後、服も洗濯しよう…臭い…」
「ぇ゙…」
久しぶりの会話がこれかい?
随分酷くない?
その後、俺はお爺さんの家に上げられて、メノから沢山話をされた。
メノはニヶ月ほどで血の薔薇の球根らしき物を取り扱ってる珍しい店を見つけた様で、それを買ってきたみたいだ。
そして、俺が帰ってくるまでの間、お爺さんと一緒にこの家に住んでいたみたいだ。
「それにしても、随分背が伸びましたね。」
「そりゃそうよ。成長期だもの。」
メノの身長はもう既に大人と同じくらいの背の高さになっている。
初めてあった時はまだ大人にしては小さいかな?くらいだったのに。
良いな〜青春真っ只中。
俺も今世こそは彼女とか子供が欲しいよ。
「ジルも結構伸びたわね。」
「そうですか?」
「同じ年の子と比べたら大きい方だと思うわ。」
「それなら良かったです。」
外が暗くなってきた頃にお爺さんは降りてきた。
「おぉ。帰還したかね。」
「これが依頼の品の『上級回復魔術のスクロール』です。」
「…間違いなさそうだね、ご苦労。
それじゃあ、これが報酬だ。」
そう言って俺達は金貨6枚づつ入った袋を貰った。
「一人金貨6枚?!」
「追加報酬だよ。頑張ってもらったからね。」
「ありがとうございます。」
「…君たちはここに住んでは居ないんだよね?」
「そうですね。」
「なら、今貰った物の使い道を見せてあげようか。何の為に持ってきたのか分からなかったら不思議になるだろう?」
確かに、上級回復魔術のスクロールは非売品だ。
それを使って誰を治すんだ?
「おいで。出かけよう。」
お爺さんは俺達を連れて街に向かって歩き、街から少し手前のところにある墓地で止まった。
「…あの、お爺さん。
残念ながら、上級回復魔術では、死者の蘇生はできません。」
「知ってるよ。それが出来たなら、こんな所には来ない。」
「…?」
お爺さんはユルユルの服の袖から、一輪の真紅の薔薇を出した。
「これが、メノちゃんが取ってきてくれた球根から育った『血の薔薇』だよ。」
そして、お爺さんは墓地の真ん中で地面に置いた上級回復魔術のスクロールに血の薔薇を挿した。
「?!」
「…この街には、一人の吸血鬼の血筋の少年が居たんだ。その少年は、ここの領主である『ブーケルマ子爵』に誘拐された来た身寄りの無い子供の一人だった。
彼は地下の奴隷部屋から脱出するために奴隷全員で地下で反乱を起こした。
幸い、その少年は脱出できた。
…その少年だけは脱出できた。他の子は全員殺された。
その少年を匿ってくれたのが一人の老人だった。
その老人はその少年に久し振りに人の温もりを感じさせてくれた。
だがある日、少年が家に戻ると、一通の書き置きと、手配書と共にその老人の首の無い死体が転がっていた。
手配書には少年の名前。そして、その少年がどのような悪事を働き逃げたかが事細かく偽造されてが書かれていた。
書き手紙には一言。『お前を匿ったから爺は死んだ。』と書かれていた。
その一日後、街には一人の首が吊るされていた。
街の人間は『自業自得だ。』と笑っていた。
その少年は老人が殺される原因を作った自分と老人を殺した街の人間を恨んだ。
そして、其奴らを必ず老人と同じように血で染めると決めた。
だが、その少年は無力だった。
しかしその時、少年の中に眠っていた『血竜』の力が目覚めた。
竜の血が『血』に関係する激しい感情により目覚めた。」
そう言ってお爺さんは顔の皮を剥がした。
その下から出てきたのは一人の青年だった。
「それが俺だ。」
「!」
「この爺さんの仇を取るために3年以上ずっと訓練してたんだ。ブーケルマに殺された子供達の死体を操って!」
ここ最近周辺で誘拐が多かったのはメノも売り飛ばされそうになってたブーケルマ子爵のせいだったのか!
「この街の奴らは皆殺しにする!
顕現せよ!死者の行進隊!」
「待て!」
「待って!」
青年は腕にナイフで傷をつけて滴る血を薔薇にかけた。
すると、薔薇が真紅から群青に色を変え、スクロールの陣が起動した。
大地を揺るがす大きな音と共に墓からスケルトンと、少しのゾンビが大量に現れた。
其奴等は全員何かしらの道具を持っていた。
この国では死ぬ時にその人の職種などによって生前に使っていた道具を一緒に埋める。
その道具だろう。
「さぁ!進め!この街の全ての悪人を皆殺しにしろ!」
その瞬間、青年が剣を持ったスケルトンに刺された。
だが、俺達には構わずに街へと進軍していった。
「!?何やってるんですか?!」
「…これで良いんだ。俺が元凶なんだから…。」
「爺さんが、して欲しかったのは本当にそんな事だったのか!」
「…爺さんの考えなんて…誰も分からない。…人の心は誰にも…分からないんだから。」
「お爺…お兄さんは本当は優しいじゃない!私と一緒に住んでた時、あんなに優しかったんだから!こんな事間違ってる!だから!待って!」
「…お前達は、俺を…止めるんだな?」
「止める。誰が悪いとは一概には言えないが、無関係な人まで巻き込むのは俺は違うと思うから。
あんたも死ぬべきじゃない。」
「…なら、やってみろ。
…俺は俺を含めて街の者を全員殺す。
それが、あの日の俺への答えだ!
お前の俺への答えは何だ!」
「…明らかに悪人なブーケルマとか言う奴は殺させてやる。
だが、子供や、お前と同じ様な奴隷は俺が守る。
それが、俺の答えだ。」
「そうか。
…良いことを教えてやる。吸血鬼の魔術は全て日の光に弱い。日の出まで不死身の死者の行進を耐えてみろ。」
そう言って青年は死んだ。
「…行こう。ジル。皆を助けなきゃ。」
「…ひとまず、助けるのは奴隷だけにしよう。
街には俺たちと同じ職種の人達も居るだろうから、そんなに被害は大きくなるとは思えない。
混乱に乗じて奴隷を全員解放する。」
「分かった。」
…やっぱりあの人は優しい人だ。
だからこそ、ブーケルマ。
お前はあの人の為にも、これからの犠牲者を無くす為にも、ここで殺す。




